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第149話、地下通路

 フローゼ姫から慈善事業の内容を聞いた僕達は、馬さんと馬車に魔法を掛けると一気に王都近郊まで移動しました。王都でも一般市民はフローゼ姫を見ても王女だとは気づかないでしょう。でも兵達は違います。万一市壁の警備に従事している守衛にその姿を見られた場合は確実に本人だとばれる恐れがあります。

 そこで王都の隣にある森で野営をしながら今後の作戦を練る事になりましたが、フローゼ姫が漏らした言葉で作戦会議は中断。

 僕達は広い森を彷徨っていました。


「魔物が出そうな森にそんな所があるのかにゃ?」

「ああ。普通貴族の城や王城には隠し通路は付きものなのだ。オードレイク伯爵の城にも似たようなものがあっただろう」

「ありましたね。最後は伯爵がアンデットに生まれ変った隠し通路が」

「そういえば――うちの子爵城にもありましたわ」

「城持ちの城主というものは大概用心深くそういったものを建築段階から組み込んでいるものなのだ」


 皆の会話からも分かるように、僕達は城の内部に潜入出来る隠し通路の入口を探しているのですが、城の隠し扉の場所は知っていてもそれが続いている先を詳しく知らなかった為に、こうして夜を徹して探し回っていました。


 後1時間も経てば日が昇り始める時間です。

 朝晩の冷え込みが厳しい冬に――何をしているんでしょうね、僕達は。


 ミカちゃんは夜通し御者を務め疲れているにも関わらず、フローゼ姫がその気になっている機会を逃さぬ様に付き合っています。

 普段能天気な人が落ち込むと、その落差が激しいから大変でしたよ。

 慈善事業は国王が善政を敷いていた証拠ですと語りその気にさせ、その人達を救えば後々有利になると言いくるめここまで戻ってきました。

 その甲斐あってこの森にやってきてから隠し通路の存在を思い出してくれたのは良かったのですが……これではね。


「確か薄い石板で入口を覆っていた筈なのだが……」

「フローゼ姫、それ先程も聞きましたわよ」

「人の記憶なんてあてにならないにゃ。じっくり探すにゃ」

「アーン」

「そんな事をするなら一気に燃やすなり、穴を掘ってみればわかるんじゃ?」

「そんな事をしたら王都の兵にばれるでは無いか!」


 いい考えだと思ったのですが僕の案は却下されてしまいました。

 すると意外な人から提案が――。


「子猫ちゃんが言う、燃やしたり穴を掘ったりするのはばれるかもしれませんわね。でも氷の雨ならば――形跡は残りませんわよ」


 フローゼ姫はエリッサちゃんの案を聞き、それがあったか。と同意すると掌を翳しまだ探していない森に向けて一気に放出しました。

 バツバサバサバツッ。と枯れ葉を削り土には浅くその形跡が残りますが、局地的に雹が降ったと言われれば納得出来る程度の被害で済みました。威力を押さえた分だけ範囲は広く、枯れ葉や砂埃に埋まっていた石板が姿を現します。


「あったにゃ!」

「これで一安心ですわね」

「いや、中に罠が仕掛けられて居ないとは限らない。油断は禁物だぞ」


 僕は女性陣が石板を3人掛かりでどかしている間に、少し空いた隙間から一足先に侵入します。方向はちゃんと王都方面に繋がっているようですね。

 伯爵の城で通った通路は石畳が敷き詰めてあって立派なものでしたが、ここは王城へ繋がっている筈なのに地面は湿気を含んだ土で、通路自体がただ広く穴を掘り進んだ様な感じになっています。

 それだけ古いという事なんでしょうけど、もっと立派な隠し通路を想像していた僕としては些か不満です。でも古くに造られた証拠に足元の地面に積もっている埃の量も多く、もう数百年は通った人が居ない様です。


 あれ――今回の騒動で王族は誰一人としてここを通らなかった?

 何故でしょう……掴まれば処刑されるのが分かっていて逃げなかった?

 それとも逃げられない程急に追い込まれた?


 僕が立ち止まり思考していると後から子狐さんを先頭に、女性陣もやってきました。疑問に感じた事をフローゼ姫に話すと――。


「それは確かにおかしいな。王族であれば巻き返しを図る事を考慮して一度引くのが常套手段な筈だ。やはり逃げ遅れたか、それとも逃げる事すら考えられぬ程追い詰められたか……」


 やはりフローゼ姫も不可解に思った様ですが、いくら考えても答えが出る訳ではありません。僕達は先を進む事にします。

 ここには伯爵の城と違い明かりが一切点いていません。

 最初はエリッサちゃんが、次は子狐さんが、最後に僕の順番でファイアを待機状態にすると頭上に掲げ、明かりの代わりを作り出しながら進みます。

 王都までこの森から1km以上は離れています。

 そんな距離を小幅な足取りで進むので時間ばかり経ってしまいます。

 それでも終わりは来るもので、行き止まりの壁には扉が――。


「ここが終点かにゃ?」

「妾も知らぬ事だが、恐らくは距離的にそうだろう」

「それにしては寒くありません事?」


 歩いた距離から考えれば確かに王城の地下と思われますが、あまりにゆったりと下って来たので実感はありませんでしたが、浅い場所を掘った穴であればここまで寒くはありません。冬という季節を考慮したとしても穴の中は冬ならば温かいものです。それが寒いという事は――ここは地下水の流動の関係や、気温なども関係しますが恐らく地下30mはあると思われます。温度にして7度位でしょうか。どうりで寒い筈です。


「脱出通路にしては深すぎな気がするんだけど――」


 僕がフローゼ姫に尋ねると、彼女も良く知らない様で首を傾げています。

 進んでみれば分かる事ですが、鋼鉄の扉にはしっかり鍵が掛かっています。

 フローゼ姫の許可を得て、僕は得意な重力圧縮を扉に放つと、バゴーン、と轟音をあげ鋼鉄の丸い玉に変りました。


 ここは一体どこに繋がっているんでしょうね。

お読みくださり、ありがとうございます。

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