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第141話、重力操作と王子

 ここから旧アンドレア国までは馬車で1週間の距離ですが、それは2頭だった頃の話です。1頭に減った現状だと何日掛かるか……。


 ドレイストーン国は元々がエルストラン皇国の属国の様な国で、鉱山が見つかるまでここは大国である皇国へ石を削り運ばせる為の採石場でした。それも奴隷を用いて。そこから現在の国主の先祖がドレイストーンと名付けたそうですが、何とも嫌な名前ですね。

 これから馬車が通る道は、山間部が主になり数か所の採石場、鉱山を超えると旧アンドレア国が誇った大きな鉱山へと辿り着くそうです。


 僕達は悪路の山道を揺られ辟易としていました。

 大国ガンバラ王国の整えられた路面ではありません。

 凸凹道が延々と伸びているのです。

 揺れも然る事ながら、街道がこの有様のお蔭で馬車の進みが悪い。

 2頭立て馬車で1週間、1頭だと……。

 どう考えても10日以上は掛かりそうですね。


 そこで僕は思いつきます。


 僕が最近覚えた魔法を使って楽に成らないかと。

 その話を皆にすると、御者席に座っていたフローゼ姫が広くなっている場所に馬車を止めてくれました。


 早速、試してみましょう!

 

 周辺に人の気配がない事を確認すると、僕は掌に魔力を纏わせます。

 薄っすらと黒い粒子が手の周りに漂うと、吸い込まれるように馬車に吸収されていきました。これで馬車を走らせてみれば――。

 フローゼ姫が軽く手綱をしばきます。

 馬さんはまだ進むのかと、ブルゥ、と文句を言いますが僕と視線が合うと大人しく走り出します。

 あなたは馬車馬です。自分の仕事はちゃんと務めて貰わないとですよ!

 嫌そうに鼻を鳴らし一歩。また一歩踏み出します。


 どうしたのでしょう?


 馬さんは不思議そうに小首を傾げると、猛スピードで駆けだしました。

 これに驚いたのは御者席のフローゼ姫と僕達全員です。


 ――良く地面を見ると。


 馬車の車輪が地面に付いていません。地面に接地していないという事は当然重さによる抵抗も受けない。という事で、更に馬車の重さまでも軽減されている様で、馬さんは一切の負荷を感じずに前へ前へと突き進みます。

 その速さは2頭掛けで引っ張っていた頃よりも数倍早い速度で……。


「――なっ、なんだこれは」

「にゃ! 馬さんがパワーアップしたにゃ!」

「お馬さん、今まで怠けていたんですのね」

「アーン!」


 フローゼ姫は単騎掛けの様な速度に驚き、乗馬の出来ないミカちゃんは突然の変化に大はしゃぎし、エリッサちゃんは――うん? 別に怠けていた訳では無いと思いますよ。子狐さんは対抗意識を燃やし、足をバタバタ動かす始末です。

 馬車は重力に逆らい浮いている状態なので、振動も無く乗り心地が止まっている時と大差はありません。何処かにぶつかりでもしなければ馬車が壊れる事も無さそうです。何より馬さんがストレスなく駆け抜けられるのが大きいですね。


 もしかすると――アンドレア国まで2日掛からずに辿り着けるんじゃ?


 まさに疾走という言葉がぴったりと当て嵌まるかの速度で、馬車は山間の道を駆けだしました。



           ∞     ∞     ∞


「代官これは一体どういう事です」


 ワイバーンの後部座席に騎乗し、ヒュンデリーに到着したトベルスキーガンバラ王子が、フローゼ姫が居ない事に腹を立て代官のゴーヤ氏に詰め寄ります。

 どれだけ詰め寄られても、とんがり帽を被った14歳の少年です。

 30代半ばのゴーヤ氏は柳に風とばかりに、ここに彼女達が居ない理由を語り始めます。


「王子落ち着いてください。かの者達は到着すると何やら急いでいた様で、直ぐに旅立ってしまわれたのです」

「僕の到着まで引き留める様に書状には書いてあったのでは無いのか!」

「確かに陛下からの書状にはそう指示が書いてありましたが、またこうも書いて御座いました。くれぐれも彼女達の勘に触る事はするなと――。王子の軍がかの者達を相手にどうなったのかも書き示されておりました。一代官でしかない私奴では、とても引き留める事など出来ません」


 先を急いでいるミカちゃん達を引き留める愚を犯さなかったのは代官の英断でしたが、王子としては納得がいかなかったようです。


「もうよい! 騎士団長、僕達も直ぐに出立するぞ!」


 王子が到着したのは、ミカちゃん達が出立して1時間後の事です。

 足の速い馬ならば追いつける可能性があるでしょう。

 それが明るい日中なら――。

 革の防具に身を包み大柄でガッチリとした体躯の青年が、眉間に皺を寄せ告げます。


「王子、残念では御座いますが我等の中に夜掛けを出来る者はおりません。ここは夜明けを待ってから出立された方が安全かと……」


 此度の旅ではまだ幼い王子に危害が加えられない様に、安全策とご意見番としての意味で騎士団長が同行しています。騎士団長の上申を受け威勢よく言い放っていた王子が口ごもります。ぶつぶつと、これでは作戦が台無しに……などと言っていますが、騎士団長はそれを華麗にスルーすると代官に1泊逗留し翌朝出立する旨を伝えました。


 翌朝、早くに出立の準備を終えた騎士が食事後の紅茶を飲んでいる王子の元へ報告に来ます。

 王子は昨晩の事は忘れたかの様な清々しさで、


「さぁ! 彼女が僕の助けを待っている。行こうか!」


 意気揚々と立ち上がると馬車が停車している正門へと足早に駆け出しました。

 昨夜、騎士団長の策で王子に「人間は浅く困るよりも、より深く窮地に落ちている時の方が助けられた時にグッと来るものなのです」と、つり橋効果を説明された事で機嫌を直し今に至ります。


 本当に単純な王子ですね。

 こんな王子をフローゼ姫が相手にするんでしょうか?


 王子を乗せた馬車と偽装の為に商い用の果実、香辛料を積んだ馬車は4人の同伴者と共にドレイストーンへ向かう街道をゆっくりと走り出します。

 王子の馬車には御者席にマキシマムが、王子の話し相手兼教育係として騎士団長が乗り込み、後ろの馬車には騎士団長の部下が2人御者を交代しながら乗っています。

 何故、老いた老人のマキシマムが御者を務めているのか?

 子猫ちゃんの予想は当たっており、王子は乗り物酔いを起こす体質で、普通の騎士が御者を務めると直ぐに気分が悪くなるからでした。

 その点、長年王子の御者を務めてきたマキシマムであれば王子の加減を予測しながら馬車を走らせる事も可能です。

 だからと言って猛スピードで駆ける事はマキシマムでも出来ない訳ですが……。

 街道はミカちゃん達が通った時には静まり返っていた森も、小鳥のさえずりが聞こえてくる程のんびりとしたものでした。

 退屈そうに王子が馬車の外を眺めていると、急に馬車が停車します。

 王子は何気なく馬車内からマキシマムに声を掛けます。


「爺や、もう食事の時間か?」


 食事の時間にはまだ早い気もするが、不慣れな土地です。用心して早めに取る事にしたのだろうと思い声を掛けましたが、帰って来た返事は予想外なものでした。


「坊ちゃま、大変で御座います。み、道が消えております!」


お読みくださり、ありがとうございます。

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