表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/229

第132話、初めての空の旅

 僕達を乗せた籠は雲の直ぐ真下を飛んでいます。

 流石に飛行タイプの乗り物は皆初めてなので、最初は皆はしゃいで身を乗り出しては地上を見下ろしていましたが、体を切り裂く様な冷たい風のお蔭で、今は寒くなって大人しく籠の中にあった毛布で身を包み込んでいます。


「空の旅は楽しいと最初は思ったが、地上と比べこうまで気温が下がるとは思わなかったな」


 今回アンドレア国を攻め滅ぼしたエルストラン皇国に真っ直ぐ向かわず、アンドレア国の現在の様子を確認する為に、迂回する事を選択したフローゼ姫が皆に気を使ってそう言葉を漏らします。


「騎乗兵の方々は平気なのでしょうか?」

「見た感じ結構な厚着をしているから大丈夫そうにゃ」


 馬車での移動とは違い、空からの移動は遮蔽物が何も無い為に真っ直ぐ且つ馬車の3倍以上の速度で移動しています。この調子なら予定時刻通りにヒュンデリーの街に到着出来そうです。ヒュンデリーの街から馬車で2日走るとドレイストーン国に入り、そこから更に1週間で順調に行けば旧アンドレア国に辿り着けます。

 ただ僕達が向かう予定のサースドレイン子爵領とは真逆の北西からの入国になるので、そこから旧王都までは3日、更に王都からサースドレイン子爵領まで3日程掛かる予定です。本来ならばエルストラン皇国を掠める様に通り、1週間程で子爵領だったのですが国境が封鎖されている現状では仕方がありません。


 冬の青空の中を籠に乗っているだけというのも退屈なもので、皆は毛布に包まれながらウトウトし始めています。

 僕も地上とは違い殆ど襲ってくる魔物も居ないので、ミカちゃんと1つの毛布で一緒に包まっています。


 どの位進んだのでしょうか……遠くに聳える山々は既に白く染まり、これから向かう方角が既に雪に包まれている事を教えてくれます。どうりで寒い筈ですね。


 ワイバーンが高度を下げ始めた事に気づき、上空を眺めると既に太陽は真上に差し掛かっていました。昼休憩の為に地上へ降りる様です。

 ワイバーンがゆっくりと降りていくと当然先に籠が地面に着地する事となります。なるべく衝撃を与えない様にゆっくりと籠を下したワイバーンは、籠を挟み込む形で地面に降りると騎乗兵が鞍に取り付けられているフックを外し地面に降り立ちます。自由になったワイバーンは、近くの川に水を飲みに地面を這っていきました。


 騎乗兵とワイバーンの信頼関係が窺えるほど、よく飼いならされています。きっと僕が撃ち落としたワイバーンと騎乗兵達もこんな人達だったんでしょうね。

 少し後ろめたい気持ちが湧きますが戦闘時と今は違いますからね。

 そんな事を考えていると、騎乗兵の2人が籠に近づいて来ました。

 出発する時籠の中に、彼等の食事も入っていると言われていたのできっとそれですね。ミカちゃんが騎乗兵の分の食料を手渡しすると、微妙な面持ちを浮かべながらもそれを受け取り、籠から離れて行きました。

 王国軍は僕達に負けましたが、それでも獣人蔑視をしている国の兵に変わりはありません。気分的にはよくありませんが納得するしか無いのでしょうね。


 食材だと思ったバスケットの中身は、パンに肉を挟み込んだサンドイッチの様な物で支度と言えば手洗い位でしょうか。それらを素早く食べ終わり一休みしたら午後の移動に入ります。


「移動が楽なのはいいのですが、退屈ですわね」


 さっきまで籠に揺られウトウトしていたエリッサちゃんが、口元を掌で隠しながら欠伸をして小言を漏らします。

 皆もそれに吊られ欠伸をしています。

 これで気温が高ければまた変わってくるのでしょうけれど、季節が冬では仕方無いですからね。


 のんびりとした休憩時間も過ぎ去り空に舞い上がったワイバーンに吊られ、僕達を乗せた籠も空の旅に戻ります。ここからは僕達が用を足す事が無い限りは目的地まで飛び続けます。

 しばらく飛ぶと遠くに見える大きな山から吹き下ろす風が強くなり、低い高度では速度を維持できない為か高度が更にあがります。雲に近くなると今度は水分を含んだ雲で肩に掛けていた毛布もびっしょりと濡れ始めます。


「流石にこれは我慢出来ぬぞ!」

「防水の外套が無ければずぶ濡れでしたわね」

「また高度が上がっているにゃ!」

 

 皆が空の上の不思議な現象に愚痴を漏らしていると、ワイバーンは更に高度を上げ始めます。僕の結界で水分からも守れればいいのですが、流石にそこまで都合良くはいきません。ワイバーンが雲の中に入り僕達が乗る籠もそれに続きます。雲の中は一層水分が多くなり、体の体温も下がり始めた頃――突然視界が開け真っ青な青空が見え始めます。


「ほう、これは――」

「お日様が近いですわ」

「一面真っ青にゃ」


 雲を抜けた先は雲一つ存在しない、本当の空、太陽と大気が織りなすキャンバスが広がっていました。高さによって青の濃さが違うのは空気の濃さの関係でしょうか?

 僕達は寒さを忘れその幻想的な風景を眺めていましたが、流石にそれにも限界が訪れます。先程水分を含んだ服が高い気圧の場所で一気に冷やされます。   

 僕達が使える魔法では寒さを凌ぐ効果があるのはファイア位ですが、こんな場所では使えません。上空の騎乗兵を見れば、濡れた服を紐で繋ぎ乾かしながら飛んでいます。こんな気温の低い場所でも乾くのでしょうか?

 僕達もそれに倣い、毛布を広げます。

 しばらく飛んでいると濡れていた毛布が乾いてくるのがわかりました。


「毛布が乾き始めたにゃ!」


 乾いた毛布を新たに体に巻き付け、そんな行為をも楽しみながらまたしばし籠に揺られていると、ワイバーンが降下しはじめました。雲を突き抜け地上が見渡せる位まで下がると騎乗兵は首を左右に振り何かを探している様です。

 僕の視界には探しているものが既に映っています。


「到着したようですね」


 僕が知らせると皆も籠から身を乗り出し見渡します。

 上空から見ると整地された街道が伸びた先に、街壁のある街が現れました。

 ワイバーンは街の門などで止まらず、そのまま真っ直ぐにこの街で一番大きなお城へ向かっています。城に備え付けられた尖塔からこちらを眺めていた恐らく見張りの兵でしょう。数人いる見張りの内、1名が走り出すのが見えました。

 ワイバーンの騎乗兵が片手をあげ、右に2回、左に1回腕を振り地上へ合図を送ると見張りの兵も安堵した面持ちで、両手を振って答えています。

 ワイバーンはお城の中央庭園までくると、ゆっくりと籠を下しワイバーンも僕達を挟み込む様に着地しました。


 初めての空の旅は色々な経験が出来ました。たまにはこんな旅もいいものですね。

お読みくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ