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第129話、急展開

 晩餐会も終盤を迎え、僕とミカちゃんのお腹もぽっこり膨らんだ頃合いで突如上がったフローゼ姫の大きな声にその場に居合わせた皆の視線は声の主であるフローゼ姫へと注がれます。


 フローゼ姫の顔色は一気に青くなっていて、これまで一緒に戦闘を行ってきた僕達でさえ見た事が無い程に動揺しています。

 僕はすかさずフローゼ姫と会話を行っていた国王、王子を睨みますが、その2人でさえこの展開は予想外だった様でその顔色は優れません。最も国王の顔色は最初から悪かったですが……。


「フローゼさんどうされたんですの?」


 この旅でフローゼ姫が自分の身分を明かせない事を知った時に、取り決めた友達呼びでエリッサちゃんが尋ねます。お腹をさすり寛いでいたミカちゃんも心配そうにフローゼ姫を見つめています。

 フローゼ姫の身体は小刻みに震え、その様子で余程の大事が起きたのは分かります。皆がフローゼ姫からの説明を待っていると、予想外の人から告げられます。


「何故アンドレアとか、そんな誰も知らない様な国の事で狼狽えて居るんだ?」


 王子が何気なく言った言葉に食いついた者が――もう1人。


「アンドレア国がどうしたんですの?」


 馬車の中で王子にアンドレア国の事を聞いた時には知らないと言っていた王子が、その名を口にした事でエリッサちゃんも訝しんで尋ねました。

 その答えは王子では無く、隣の国王から齎されます。

 国王の口から語られた話に、子狐さん以外の面々は絶句しました。


 僕達がこの地方へ飛ばされたのは今から2週間前の出来事です。

 たった2週間の間に、鉱山で栄え人種差別を嫌った善良な新興国家が1つ消え去りました。

 しかもその原因は、王国の盾と呼ばれた騎士団長の不在によるもの。

 そして……貴族派の重鎮であった伯爵家がお取り潰しとなった事を危惧した、残党の貴族派の手引きによってこの大陸最大最強の国家、エルストラン皇国が動いたというものでした。

 ここからはガンバラ国王の見解らしいのですが、最初から貴族派とエルストラン皇国は繋がっていたのでは無いかと言っています。そういえば、伯爵が逃げようとしていた方向は南西です。そう考えるとその見解が真実味を帯びてきます。


 僕もミカちゃんもアンドレア国の出身ですが、特に家族がかの国に居る訳ではありません。でも――フローゼ姫、エリッサちゃんには家族がいます。

 僕は未だ茫然として上の空のフローゼ姫を見つめます。

 青く透き通る瞳は虚ろで、晩餐会直前の姿とは別人に見える程憔悴しています。

 エリッサちゃんも子爵領に残してきた父親の事を尋ねたいのでしょうが、小国の子爵の事など大国であるガンバラ王国の国王が気にしている筈もありません。口を一文字にきつく結んだ状態で俯いています。

 誰しもがアンドレア国の現状を尋ねたい気持ちを押さえていると、ミカちゃんが代わって国王に尋ねました。


「それでアンドレア国の王族、国王派はどうなったにゃ?」


 フローゼ姫、エリッサちゃんの様子を見ていれば、僕達の出自がアンドレア国であるとガンバラ国王にも気づかれています。

 国王は余計な事を喋ってしまったと苦虫を噛み潰した面持ちで、ミカちゃんの質問に答えます。


「王族は当然、皆処刑されたと聞く。国王派までは知らぬ。我も各国に潜入させている間諜からの知らせで知ったばかりだ」


 国王から齎された言葉を虚ろな眼差しながらも耳で聞いていたのでしょう。突然、フローゼ姫が座っている椅子から後ろにひっくり返り気を失いました。

 当然、この時点で晩餐会はお開きになり、色々な策謀を巡らせていた国王もこれ以上の会話は避けすんなりと部屋へ戻る事が出来ました。


 部屋のベッドにフローゼ姫を寝かせると、それまで必死に我慢していたのでしょう。エリッサちゃんの翡翠色の瞳からは大粒の涙が溢れ、枕に顔を埋めると嗚咽を漏らしながら泣き出しました。

 他国の国王が話した話です。それが真実とは限りませんと言えれば簡単ですが、貴族派と皇国の関係、王国の盾の不在というワードはアンドレア国に合致します。

 恐らく騎士団長は、フローゼ姫が消息を絶った為に伯爵領の管理と、フローゼ姫の捜索に当たる為ずっと王都を離れてしまったのでしょう。


 その隙を狙われた。


 僕とミカちゃんは重い雰囲気の中、黙ってエリッサちゃんを見守っています。

 何か国王との会話の中で感じた違和感は無いか、思考しながら……。

 そして思いつきます。

 王国の盾が不在で王都が落ちたのなら、今その盾はどこに?

 そして盾がいる可能性が高い場所は?

 それを思いついた時、思わずエリッサちゃんに声を掛けていました。


「エリッサちゃん、子爵様はきっと無事だよ。騎士団長が生きていればいるのは――サースドレイン子爵領だから」


 僕がそう告げると、枕に顔を埋めていたエリッサちゃんの体がピクリと動き、次の瞬間、勢いよく顔をあげ僕の方を見ました。


「そうにゃ! 子猫ちゃんの言う通りにゃ!」


 ミカちゃんも僕の意見に賛同してくれます。

 周辺各国に名を轟かせた騎士団長です。

 僕にはあっさり敗北しましたが、決闘の時に騎士団長が見せた縮地は僕の速度にも付いてきました。そんな彼が普通の兵に敗れたとは考えられません。

 そして彼の性格からして、子爵様を置いて逃げる事もしないでしょう。

 僕が考え付く可能性を語って聞かせると、涙に濡れていたエリッサちゃんの表情にも笑みが零れ出します。


「そ、そうですわね! お父様はきっと無事ですわ!」


 エリッサちゃんは前向きになってくれました。

 でも問題は――家族が全員処刑されたフローゼ姫ですね。

 処刑された話は間諜の齎した情報で既に明らかになっています。

 ガンバラ国王は気持ちが落ち着くまでここに滞在していいと言ってくれました。

 でもエリッサちゃんの事を思えば、直ぐにでも出立したい気分です。


 まずはフローゼ姫が回復してからですが……。

 本当に、急展開すぎます。



お読みくださり、ありがとうございます。

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