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第112話、奴隷達の行方

「皆さん、ご心配をおかけ致しましたわ」


「妾が不甲斐ないばかりに手間を掛けさせてしまったな」


 夕方、エリッサちゃんの意識が戻ると二人に謝罪されました。


 今回に関して僕はミカちゃんを助けてフローゼ姫にヒーリングを掛けただけで、他には何もしていません。寧ろ今回エリッサちゃんと、フローゼ姫を助けたのは子狐さんです。僕がそう伝えると――。


「子狐さん、助けてくれて有難うですわ」


「隷属の首輪に支配されていたとはいえ、すまなかった」


 エリッサちゃんの意識が回復するまで、エリッサちゃんの胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた子狐さんが首を横に振り、アーン、と言葉に出します。


 僕と違って意思の疎通が使えないので、何を言っているのか分らない様ですが、それでも2人に気持は汲み取って貰えたようです。


「私もまだ子猫ちゃんにお礼を言ってなかったにゃ。いつも有難うにゃ」


「僕がしたいからしているだけですよ! それより……この人達はどうすればいいのでしょうか?」


 僕は焼け落ちた娼館の入り口に、無造作に転がされている火傷を負った冒険者2人と奇跡的にも一命を取り留めた奴隷の娼婦達を指差します。


 宿屋を襲撃してきた事も、既に皆に伝えてあるので冒険者を見る仲間達の視線は冷たいものですが、2人の状態を見ればそれ以上の謝罪を求めようとは誰も思いません。この人達には最低限のヒーリングしか施していないので、このまま医学の発達していないこの世界で生きていくには大きなハンデを背負う事になったはずですから……。


 ただ娼婦達に関しては、隷属の首輪を外したもののその身に受けた仕打ちは彼女達の心の中に色濃く残っています。ヒーリングで今回の傷は消えましたが、それ以前に付けられた傷は依然としてそのままですから。


 娼婦の構成は人間が殆どですが、中には獣人のお姉さんもいます。


 若い獣人の娘ほど、侯爵のおもちゃとして無残な最期を迎えたと生き残った犬獣人のお姉さんが話してくれました。


「流石に妾達も奴隷を引き連れて旅は出来ぬぞ?」


「そうですわね……」


「砂漠の国なら受け入れてくれるんじゃないのかにゃ?」


 でもここから砂漠の国までは、馬車で最短でも5日近く掛かる筈です。

 

 奴隷の身に落された彼女達が安全に辿り着けるとは思えません。僕達が護衛をすれば可能かも知れませんが、暢気に来た道を戻るほどの時間的な猶予は僕達にもありません。一刻も早くアンドレア国に戻らなければ、王女、子爵令嬢の行方不明事件です。事がどれだけ大きくなっているか分らないのですから。


「このお姉さんが護衛をすれば、何とかなるのでは?」


 僕は侯爵家筆頭魔術師のミランダさんを指差し告げますが……。


「ひぇっ――私? 私は筆頭魔術師としてのお役目が……」


 お役目も何も、僕に負けた以上はただの役立たずじゃないですか!


 このままお城に戻ったら、火災を食い止めた功績は讃えられても、僕達に逃げられた事で逆に責め立てられるのでは?


 僕がそれを伝えると、それにミカちゃんが反応しました。


「また子猫ちゃんは暴れちゃったにゃ?」


 どきっ、僕は後ろめたさから視線を逸らしますが、薄い青の瞳はそれを許してくれません。僕の正面に移動して、ジッと僕の瞳を見つめてきます。


「迷い人、いえ迷い猫さんは、それは凶悪な魔法で――お城の守備隊をほぼ壊滅に追い込みましたよ」


 何を嬉しそうに語ってくれちゃっているんでしょうね。ミランダさんは……お陰でミカちゃんが溜息を付いちゃったじゃないですか!


 そもそもミカちゃんを隷属の首輪で言い成りにして、足置き台にしていたお爺さんの足を軽くしてあげただけですよ? しかも最初に取り囲んできたのは兵達の方です。


「今回の件は、隷属の首輪があんなに強制力のあるものだと知らなかった私にも原因はあるにゃ。でも止むを得ない場合以外は無茶をして欲しくないにゃ」


 ミカちゃんの温情で、今回の件は許してもらえたようです。


 僕はぶんぶんと首を縦に振り頷きます。


 え?


 僕は涙も鼻水も飛ばしませんよ?


「そ、それで私のお仕事は娼館の火災を鎮火させた事で、終わった訳ですがもうお城に戻ってもいいですかね?」


 ミカちゃんの沙汰が心配で、このお姉さんを忘れていました。


 そんなにお城が好きなんですかね?


 あんな上司の指示でこれからも働くなんて……やっぱりお金ですか!


 僕がそれを言うと、当り前じゃないですか! 世の中お金ですよ! お金があれば幸せになれるんです!


 本当に残念な人ですね。


 師匠のなぎささんも、似た考えだったのでしょうか?


 でも困りました。それだと娼館で働いていた女性達を解放しても行き場がありません。


 ここに残して行っても、娼館が再建されればまた以前の様に娼婦として嫌な思いをする事になるでしょう。何か良い手が無いか考えます。


 人間嫌いのエルフに預けるのも問題が発生しそうですし、やはり砂漠の国のギルマスに預けた方が娼婦の皆さんにはいい気がします。


「ミランダさんはいくらのお給金で侯爵様に雇われているにゃ?」


 なるほど……ミカちゃんはミランダさんを雇えないか考えている様です。


 でも筆頭魔術師であれば高給取りに違いありません。


 今まで奴隷として娼館にいた女性達に彼女を雇えるだけの賃金を捻出できるとは思えませんが……。


 そう思っていると、


「月の賃金は金貨3枚ですね。後は寝床と食事付きの好待遇ですよ」


 やすっ!


 思わず呟いてしまいました。


 まさか筆頭が突く程の地位にありながら月に金貨3枚しか貰っていないとは。


「えっ? それって安いの?」


 この街の人達でも1月働いても金貨1枚しか貰えませんよ。とか何とか言っていますが、これは僕達の金銭感覚の方がおかしいのでしょうか?


 すると――。


「アンドレア国で既に無くなったエルドーラ殿が、生前支払われていた賃金が月に10枚だった事を考えれば格安ではあるな」


 フローゼ姫の国では一般市民の10倍の賃金だそうです。


「金貨10枚! それは素晴らしい! その地位に立てれば……ぐひひ。是非そのお仕事を紹介して欲しいです! 私は役に立ちますよ!」


 はい。呆気なく金に釣られました……。


 でもこんな金でコロコロ態度変える様な女を、雇って大丈夫なんでしょうか?


「アンドレア国としても筆頭魔術師が不在の今、早急に人員を補充している最中ではある。この娼婦達を送り届けた後でアンドレア国を目指すというのであれば、推薦状を書こう」


「さすが王女様にゃ」


「へっ? 王女様――」


 ミカちゃんの言葉を聞きとめたミランダさんが、呆けた面持ちでフローゼ姫の御尊顔を拝謁します。


 普段の素行からは想像も出来ませんが、外見だけを見れば、その美貌は神の寵愛の賜物とも歌われる程の美人で、王家伝来の銀髪は艶々に輝き、大きな青の瞳は透き通る海の如しと吟遊詩人に詠われる程です。


 流石に国は違えども、王族がこんな所に居てしかも自分の上司が隷属の首輪を嵌めさせたなんて知れば……呆気に取られますよね!


「そうにゃ! フローゼ姫はアンドレア国の王女様にゃ。今は私達と旅をしているだけにゃ」


 更に追い討ちをミカちゃんが掛けると、立場と金に弱いミランダさんがフローゼ姫の前にジャンピングで土下座をしました。そして――。


「我が主が無礼を働き、申し訳ございません。この不始末の謝罪は私が王女様の国で筆頭魔術師として粉骨砕身つくし補いたいと思います」


「う、うむ。よろしく頼む」


 頼むとフローゼ姫は言っていますが、この人筆頭魔術師の賃金に釣られただけですよ!


 僕がフローゼ姫に訴えると――。


「迷い人の弟子なのだろう? ならば魔法力も相当のもの。手元に置いておけば、何かしらの役には立つだろう?」


 僕が思うにこの人が筆頭魔術師になる前に、フローゼ姫がそれ以上の魔法を使いこなす様になっていると思いますけどね。本人が良いと言うなら――。


 こうして金と地位に釣られ、あっさりと侯爵から寝返ったミランダさんは元奴隷の娼婦達を連れて砂漠の国に旅立ちました。


 娼婦達の総数は35名にものぼり、ミカちゃんが彼女達を乗せる馬車のレンタル代金をギルドで貯金を下ろしミランダさんに貸し与えるなど、一部予想外の展開もありましたが、ここの侯爵の下で働くよりはミランダさんにとっても、娼婦達にとってもいいこと尽くめでしょうから。


 またミカちゃんの女神様度がアップしましたね!


お読み下さり、有難う御座います。


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