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《89》
「あの、勇者様にこんなことをお願いするのは失礼だと存じておりますが……。このことは秘密にしていただけませんでしょうか?」
「ああ、もちろん」
たとえセクハラ国王がイカレた目的で制定したものでも法は法だから、それに逆らって女装してるメイドAは犯罪人ってことになる。
けど、そうとわかってても、彼を糾弾する気にはなれなかった。
それは彼の境遇に同情したのもあるけど、明らかに会社の方針が間違ってると思いながらも従うしかなかった俺自身の苦い記憶が影響してるのかもしれない。
俺のいた会社にはある程度の固定ファンがついてて、新作を出しさえすればある程度の収益は見こめるから、月に2本、3本っていう常軌を逸したハイペースでリリースのスケジュールが組まれた。
けど無茶な日程をこなすためにシナリオのクオリティもデバッグの精度もどんどん落ちて、結果としてその固定ファンまで徐々に離れて収益が下がるっていう負のスパイラル。
このままじゃいつか破綻するって現場の全員が思ってたのに、それを社長に伝えた人は俺も含めて誰もいなかった。
もちろん暴君かつパワハラの権化である社長に意見したところで聞き入れられるはずはないんだけど、言うだけでも言っておくべきだったっていう後悔が今もある。




