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これじゃ本当に他の客の迷惑になるし、フロントの従業員も顔には出さないものの、内心でイラついてるのがわかる。
「わかった、とにかく今は妥協点を探そう。全員の希望を通すのは無理なんだから、ある程度のガマンは必要だ。いいな?」
俺がそう言うと、パティも「勇者様がそうおっしゃるのでしたら……」としぶしぶ了承した。
この時点では、そうするのが最善だと思ってたのだ。
† † †
「――最善だと思ったんだがなあ」
数時間後。俺は宿の外で、ぼんやりと煙草をふかしながらつぶやいた。
煙草はこの世界へ来る前からスーツの内ポケットに入れてたものだけど、もうあと数本しか残ってない。
パティに聞いてみたところ、どうやらこっちには煙草って概念自体が存在しないようだ。
言語だとか月の存在だとか、あちこちで元の世界とカブってるくせに、妙なところで融通がきかない。
そんなわけで幸いヘビースモーカーじゃなかったこともあって、残った煙草は大事にとっておくつもりだったんだけど、今夜ばかりはさすがにすいたい気分だ。




