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俺や西口、森本のいた会社はスマートフォン向けのゲームとかアプリを作ってたんだけど、どういう会社か一言で表すとこうなる。
ブラック企業。そうとしか呼びようがない。
まあこの業界は超大手を別にすればどこだって、多かれ少なかれブラックな要素はあるんだろうけど、うちはその中でもかなりのものだったと思う。
まずブラック企業っていうと、残業が月何十時間とかいったイメージがあるけど、うちの会社は残業がなかった。
そもそも定時って概念からなかった。
定時がないっていうとフレックスタイムみたいにも聞こえるけど、なぜか始業時間はちゃんと決まってて、遅刻すれば叱られるし減給もされた。
それに加えて社長が新作を毎月1本、多い月は2本なんていう無茶なスケジュールを組むもんだから、夜遅くまで残りでもしないと予定通りに出せるはずがない。
毎日終電や始発で帰るのは当たり前で、夜10時に会社を出ると「今日はあいつ早いな」なんて言われる始末。
どんなに帰りが遅くなっても残業じゃないから、当然残業代も出ない。
その結果として仕事をすればするほど時給が下がる、なのに仕事は増える一方っていう地獄絵図。