《6》
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「ふっざけんなよあのハゲ社長! スチールウールみたいなバレバレのカツラかぶりやがって!」
元同僚の西口がそう叫んで、空になった中ジョッキを居酒屋のテーブルにガーンガーンと元気よく叩きつける。
「落ち着け、おまえは裁判官か」
ジョッキを叩き割る勢いでテーブルを乱打しまくる西口の頭を、俺は向かいの席から全力でバチーンとひっぱたいた。
確かにあのカツラはバレバレだったけど、ジョッキを破壊してまで訴えるようなことじゃない。確かにスチールウールみたいだったけど。
叩かれた西口は別に痛がる様子もなく、裁判官じゃねーよガッハハハと豪快に笑ってから、近くにいた店員のお姉さんに生中のお代わりを注文した。
この説明だけだと、西口はワイルド極まりない暴れん坊で、半径1メートル以内に近づく相手には誰彼構わずビンタして回るようなナチュラルボーン危険人物みたいに思われるかもしれない。
けど実際の彼は社内でも温厚で知られてて、誰かに向かって怒鳴ったり声を荒らげたりなんてことは全然なく、陰では「釈迦」とまで呼ばれてたくらいの男だ。
そんな彼がキャラ崩壊するほど泥酔してるんだから、そうなるまでに何杯ジョッキを空けたか察しがつくってもの。