《175》
「いやっほう! 勇者様がワタクシにキスしてくださいました! 明日もホームランです!」
「意味がわかんねえよ!」
叫びながら振り向くと、興奮した様子のパティと目が合った。
その途端、唇に彼女の感触と体温がよみがえる。
「アアアありがとうございます! もうワタクシ、未来永劫この顔を洗いません!」
「いや、それはやめてくれ」
そんな不潔な魔法使いは嫌だ。
「でしたらこの頬肉を切り取って、ホルマリンに漬けて永久保存します!」
「グロいからやめろ! 頬肉ってマグロかおまえは!」
いきなり普段のキャラに戻ったパティにツッコミを入れるけど、彼女の興奮は冷める様子がない。
「ワタクシはマグロじゃありませんよ! さっそくそこのベッドで証明して差し上げますから、陛下には申し訳ありませんが床で寝ていただきましょう」
そう言って召喚の間に戻ろうとするパティを、俺は全力で引き留める。
「おまえ全然申し訳ないと思ってねえだろ? ていうかさっきまで、元の世界に帰らせてくれる流れだったじゃねえか!」
「キスまで行けたらゲームは延長ですよ!」
「だから意味わかんねえって言ってるだろうが!」
俺がこの世界に来てから、自分の行動に一番後悔したのは今かもしれない。




