部屋を作ろう 2
「それじゃぁアリス、よろしくね」
「はーい! マスターのお役に立てるよう、精一杯頑張らせていただきますねー!」
元気いっぱいな少女、アリスを仲間に加えてユオンはいよいよ本格的なダンジョン製作へと取り掛かった。
まだ資金も少なく、部屋数を多くしても特にできることがないので、アリスは初期のこの部屋を含めて3部屋を作るところからダンジョンを始めることにした。
最奥の部屋は生活用の部屋、残りの2つの部屋が迎撃用の部屋だ。
「最初はやって来る冒険者も初心者なのです。だから、下手にトラップを使うよりも、私を戦闘に出してくれればすぐに倒してみせますよー!」
「うーん、あんまりアリスを戦いに出したくはないんだけど……」
「私はダンジョンを守護する[ダンジョンウォーカー]ですから、仕方ないのです」
ユオンは後から気づいたが、アリスは一通りダンジョンについてやこの世界のルールを知っているらしい。
流石グラヒノから創られた存在。伊達ではない。
「私を最初に創ったのは、恐らく正解ですー! この調子で、最初は私と同じ[ダンジョンウォーカー]を増やすのがおススメですよー!」
このダンジョン運営、主な敵は冒険者だが、それだけではない。
例えば世界樹内に自然発生したダンジョンや、ほかのダンジョンキーパーが運営するダンジョンも敵になるのだ。
スキルや魔法が存在し、個の鍛錬が数に勝ることもあるこの世界。
早い時期からエースとなりゆる存在を創っておくのは良いことなのだろう。
「えっと、じゃあアリス。私が切り出した木材を交換所に持って行って、[コイン]に換金してきてくれるー?」
コインとは、この世界樹内部での共通通貨だ。
全てのものはこのコインで購入することができ、グラヒノもこれで購入できる。
ちなみに、1グラヒノは1000コインに相当するのだ。
「あいあいさー! じゃぁ、すぐに持って行ってくるねー!」
両手いっぱいに木材を抱えて、凄いスピードでどこかへと走り去って行くアリスを見て苦笑した後、ユオンもユオンで作業に取りかかる。
最初の部屋は、元から切り抜かれている5メートル四方の部屋を有効利用したのでいいとして、次の部屋に行くまでに通路を掘らなければいけない。
ダンジョンの長い通路はトラップを仕掛けるためであったり、方向感覚を狂わせるためであったりと色々だが、とにかく掘っていて悪いことはない。
時間はかかるが、人が1人丁度通れるくらいの穴を、少しずつ道具の斧の部分を使って掘り進めて行く。
「ふあぁっ、やっぱ結構重労働だな……」
まだ数メートルも進んでないのだが、ユオンの雪のように白い肌にはいくつもの汗の小さな珠が浮かんでいた。
それを服の袖で拭うと、改めて掘削道具を握りしめる。
「マスターただいまなのですー!!」
「早いね!?」
アリスの元気な声が聞こえ、ドアの開閉音が部屋に響く。どうやら換金を終えて帰ってきたらしい。ここから本部の近くに設置されてある交換所までの距離を考えると驚異的なスピードだ。
「1200コインになったのです!」
「結構高くなったね。12ブロック分切り出していたから、30センチ四方のブロックで100コインが交換の金額か……」
やはり値が高く売れるのは、小さくとも世界樹から切り出されたものだからだろう。
世界樹の木材製の商品は、よく貴族や王族が使っているらしい。
「じゃぁアリス、管理者権限を一部貸与するから、ベッドとかタンスなんかの生活用品のショップからなるべく安い商品を買って届けてもらってよ」
「あいあいさー!!」
そんなことを言いつつ、ユオンは更に掘り進めて行く。
進んだ距離は5メートルほどだろうか? ここに着いてから2時間でこのペースは早いのか遅いのかよくわからないが、まだ2個目の部屋ですらないのだ。作業時間が長くなることは明白だった。
「マスター。ベッドはどうしますー?」
「うん? どうするって?」
「……いやぁその、マスターが言うならシングルのベットで一緒に寝ますが……」
「なんでモジモジしてるの!? ダブルだよ!?」
「くっ! それでも私はマスターの指令通り一番安いのを買わなければいけません。つまり狭い一人用のシングルベッドを……」
「ダブルだってのっっ!!」
そんなこんなで、まだまだ部屋づくりまでの道のりは厳しいが、アリスとの親睦は深まったのであった!