6話 そうだ、ギルド行こう
もう泊まっていけば?
そう言われたけれど、さすがに遠慮した。
さすがに甘えすぎだと思ったし……
寝床として用意してもらえるのが牢屋というのも断る要因の一つだった。
かくして夜である。
夕食をごちそうになった俺たちは、文無し職無し宿無しの状態で外に放り出された。
「さてホデミ、どこで寝ようか」
「……ソーマ、貴様、もう好感度を上げたことに罪の意識はないんじゃな……」
三度の補導と、そのたび変わる取調官の、昭和の刑事ドラマみたいな苛烈な取り調べ(再放送でやってた)を受けてわかったことがある。
実際、俺は今までも逮捕拘留ギリギリだったのだ。
能力がなければ普通に逮捕エンドである。
そこで俺は学んだ。
「生きるためには、能力の行使を迷ってはならないんだ」
「……貴様……たった一日でだいぶスレたのう……」
テメーのせいだよ。
牢屋に入れられることは避けねばならないのだ――他者と物理的接触ができない状況下において俺は間違いなく無能なのである。
だがまあ、三度の補導のお陰でだいたい自分の能力も把握できた。
やはり俺の力は、服の上や髪越しでは効かない。
手でも顔でも、直接皮膚に触れる必要がある。
そして腕力や脚力などは比較的容易に増減できるが――
好感度を上げるのは、難しい。
あとどうにもステータスに『知力』は含まれていないようだ。
詰め所で色々試した結果、そう感じたし――
ホデミも最初からこんなんで、知能が下がっている気配がない。
まあ、詰め所で試せることには限界があったし、さらに詳しい能力詳細は別の場所で実験せねばならないのだが……
なんにせよ思ったことは、『ステータスを実数で認識したいな』というものだった。
で、冒険者ギルドに登録すれば、そういう機能を持ったものがもらえるらしい。
ギルドカード。
強さをある程度数値化して認識できるようになる装置だとか。
冒険者はモンスターと戦うことを生業にしている職業だ。
なので自分の実力を客観的に判断できないとリスクヘッジができないとかで開発された、『魂の一部を明文化するマジックアイテム』がギルドカード――とかいう話だった。
……ギルドで受けたかったなあ、この説明。
なんで警備兵からギルドで受けるべき説明を受けてるんだろう……
そうだね。補導ばっかりされてギルドにたどり着けてないからだね。
「ともかく今日は一日おじさんの好感度ばっかり上げてて疲れたよ……どうしてこんなにおじさんとばっかりめぐりあうんだろう……」
「それは警備兵におじさんが多いからじゃろ」
「どうして警備兵とばっかりめぐりあうんだろう……」
「それは貴様が補導されるようなことばっかりするからじゃろ」
「俺のせい?」
「そうじゃが?」
ホデミの発言には少しの迷いもなかった。
たぶん俺が『ホデミのせい』と思っているのと同じぐらい、その判断に確信があるのだ。
滅びろ邪神。
「とにかく、宿泊施設――いや、文無しだから先に冒険者ギルドかな……雑魚寝ぐらいはさせてもらえるらしいし……」
「うむ……野宿は……野宿はイヤじゃな……雨とか……イヤじゃな……」
「……神様、宿泊設備ぐらいどうにかならない?」
「我の能力値は貴様が下げたし、神の権能は『座』におらんと使えん……あ」
「どうした?」
ホデミは首を左右に素早く何度も振った。
なにか隠している。
しかしまあ、詰め所の前で追及して四度目の補導は遠慮したい。
とりあえず場所の移動が先決だろう。
「幸い補導されたお陰で街の地図もらえたし、これを頼りに――行きますか、冒険者ギルド」
「そうじゃな! 行くか! わぁい! 我、冒険者ギルド楽しみ! タノシミ、タノシミ」
なんか無理して調子を合わせている感があったが……
とにかく俺たちは冒険者ギルドへ向かうことにした。