3話 好感度はステータスに入りますか? はい、入ります。
お説教を受けてもただでは転ばない。
俺は兵隊の詰め所でこの世界の常識についていくらか学んだ。
まあ、最初は話にならなかった。
「異世界!? 転移!? なにを言っているんだ!? いいからさっさと今住んでいる場所を教えなさい! 宿かギルドか他の仕事場か、ともかく根城ぐらいはあるだろう!?」
「『ユウキソーマ』だと!? なんだそのふざけた名前は! 偽名だろう! 本名を名乗れ!」
「十七にもなって無職!? はあ、君ねえ……冒険者ギルドに登録ぐらいはできるだろう? いいかい、この世界には今『魔王』の脅威があって、各地では配下であるモンスターが暴れているんだ。ぶらぶら噴水で遊んでいるヒマがあるんだったら、モンスターの一体でも狩りに行きなさい。命の持ち腐れだよ」
「ハアアアアア……あのねえ、だんまりもいいけど、さっさとしゃべってくれないかなあ? 本当のことをさあ……あ? だから異世界転移なんていう与太話じゃなくて、本当のことね? こっちも他に業務があるし……もう牢屋でいいかなあ……」
と、さんざんだったが……
話をしていくうちに、あら不思議。
「そうか、君は無職で、天涯孤独で……記憶まで失い……覚えているのは『ユウキソーマ』という自分の名前だけで……気付いたら噴水にいて、あの女の子はどうやら自分の関係者らしいのだけれど、これからどうしたらいいかもわからないのか……」
取調官は泣いていた。
色々質問をしていくうちに、どうやら彼の中でそういうことになってしまったらしい。
「強く生きろよ。困ったら詰め所に来い。お昼ぐらいはごちそうしてやるからな。俺はな、君みたいなすべてを失い、それでも強く生きていく若者が大好きなんだ」
この世界の人、あったけえ。
……と、言いたいところだったのだが、種も仕掛けもあるのだった。
――ステータス操作。
俺に対する好感度というステータスを上げたのだ。
できるとは思わなかった。
また、できたとしていい結果が出る確信もなかったが……
『今より状況が悪くなることもないだろう』。
そう思ってやってみたら、意外なほどに素晴らしい結果になったという……
っていうか。
いい結果になりすぎて罪の意識が半端ではない……
ゲームなどで好感度を上げてユニットを強くしたりできる経験からの発想だったが――
プレゼントで無理矢理好感度を上げられるキャラクターたちにちょっと同情した。
まあ、最初の恫喝みたいな取り調べがよかったという話ではないのだけれど、みだりに他者にやって気持ちがいいものではない。
だから、やる相手は――
ホデミだけにしよう。
このまま『制約を解け』『先に能力を戻せ』というやりとりだけしててもらちがあかない。
とりあえず信頼を得て――好感度を上げて、制約を解いてもらおう。
そうしたら本当に能力も戻すつもりだ――好感度も含めて。
このあたりが落としどころだろう。
そうしてホデミと後腐れなくわかれたその後、俺の異世界生活が始まるのだ。
ほら、いつまでもギスギスしてるのもやだしね。