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26話 カミングアウト

「でもさ、ボクは思うんだよ。これは大きなビジネスチャンスだってね」



 ほどなく街全体に向けて警報が鳴り響き、すべての冒険者がギルドに集められた。

 噂に聞く『緊急クエスト』の発令である。


 ギルドにはかつてないほど多数の冒険者が集まっている。

 普段は集まれば飲んで騒いでケンカする彼らも、どこか重い雰囲気でめいめい席に着いたりパーティーメンバーを募ったり新興宗教の勧誘を行ったりしていた。


 そんな中――

 酒場の端っこにある座席で、いつかコドモドラゴン捕獲のために結成したパーティーが、集っていた。


 丸いテーブルを囲み――

 漆黒猫耳守銭奴盗賊巨乳獣人が、興奮した様子で言う。



「どうにかソーマががんばって、グランドドラゴン7号を捕獲しようよ」



 ちなみに『7号』というのは、今年七体目のグランドドラゴン――ただ歩くだけで街を踏みつぶすほどのサイズのドラゴン――だかららしい。

 台風みたいな扱いだなと思った。



「あの、守銭奴さん、どうして君は俺を過剰にがんばらせようと思うんだい?」

「えっ……そんなの、お金のため以外にある?」



 守銭奴さんと呼んだのに、ナギは迷わず反応した。

 この世界に守銭奴という言葉があるのか、『銭』という意味の単語に反応したのかは定かではない――というか俺の言葉がこの世界の人に通じているメカニズムがそもそも定かではない。



「そもそもグランドドラゴンが最前線から遠いこちら側まで来るのは、最前線での討ち漏らしのせいなのだ」



 と、付け加えるのは、格好いいエルフの迷惑な戦士、ヴァネッサである。

 彼女は長い金髪を苦悩のような表情で振り乱し、額を押さえながら、



「まったく、嘆かわしい。人類に対する愛が足りない……効率を謳いながら、あれほど動きののろい生き物を撃ち漏らすとは! やはり真に重要なのはモンスターに対する愛だな。効率滅ぶべしだ」



 彼女は愛をこじらせている。

 そして効率をひどく嫌っていた。


 グランドドラゴンという超弩級の脅威に対してもそのスタンスはブレることがないらしい。

 不安もあるが、安心も覚える。なにせこの魔王との最前線から遠いギルドにおいて、彼女が唯一の最前線帰りなのだから。



「ヴァネッサは、グランドドラゴンを倒したことが?」

「『とどめを刺したことがあるか』という問いならば、ないね。ただ、討伐を行ったパーティーに所属していたことはある」

「おお! それでもかなり心強い!」

「私はご存じの通り愛の伝道師なので、敵の動きを止めるのが役目だが……グランドドラゴンと正面からぶつかり合ったことがあるのだ」

「街を踏みつぶせる巨体と、正面から!?」

「ああ、轢かれたよ」

「……」

「仲間には『だから正面に立つなって言ったでしょ!? っていうかなんで正面に立ったの!? なんで立とうと思ったの!?』と怒られたね」

「……まあ、それは仲間が正しいと思う」

「しかし正面からぶつかり合わず、なにが愛だ?」

「愛かどうかは大事?」

「愛はすべてに優先する」



 安心感は消え去り、胸中には不安だけが重苦しく残った。

 ヴァネッサは能力的には強いのかもしれないが、性格の方にひどく問題があるのだった。


 そして見た目には優れているのだけれど、能力と性格に問題のあるナギがいて――

 能力にも性格にもなんにもないホデミがいる。

 とどめとばかりになんにもない俺がいる。

 このパーティー、詰んでる。



「……ああいや、そうか、俺は別になんにもなくなかった……神から与えられたチートスキルが俺の手にはあるんだ」

「やっぱり我、貴様に能力与えとったよなあ!?」



 ホデミが叫んだ。

 俺は赤い少女を横目でチラリと見る――どうやら、まだ自分が元神である自信を失ったままだったらしい。ドラゴン襲来が発覚する前の精神攻撃が効いていたようだった。



「おいソーマよ、我の力を返せ。さすれば、たわむれにそのグランドドラゴンとやらをどうにかしてやらんこともないぞ」

「ああ、なるほど。その手段はアリだな」

「じゃろう?」

「でも、俺、お前のこと、そんなに信用できないよ……」

「なんでじゃ! 今までけっこう仲良うやっとったろ!?」

「じゃあ逆に、お前は俺のこと信用できるの?」

「と、言うと?」

「いや、能力戻すためにはお前に触るわけじゃん」

「そうじゃな」

「で、能力戻すのと同時に好感度も上げられるわけじゃん」

「……そうじゃな?」

「どう? 俺の手を握れる?」



 差し出した。

 ホデミは俺の手をジッと見て――



「……のう、ソーマ、我らなんだかんだ、今まで楽しくやってきたな」

「ああ、そうだな……」

「思えばこの世界に落ちたのは、予想外のことであったが……なんじゃ、その、振り返ってみれば、なかなか楽しい経験であったぞ」

「俺もそう思うよ」

「今だから言うが、我は貴様のこと、けっこう気に入っておったぞ」

「……ホデミ」

「妙に性格がクソで、意地が悪く、用心深いくせに人からの誘いを断るのが苦手で、結果として危ない橋を渡ることもあり、日常生活ではそう模範的な人格でもないくせに、妙に規律や常識を持ち出すところなど、気に入らんこともあったが……まあ、それもふくめて、味のある性格をしとると、思うぞ」

「…………」

「……じゃからなんじゃ、我は、貴様を信用してやってもよいと……」

「…………ホデミ?」

「信用、してやっても………………ぐああああ! ダメじゃ! ダメダメェ! 貴様を信用できそうな方向に必死に気分を盛り上げてはみたものの! 我の中のなにかが貴様を信じてはならんと叫ぶ!」



 ホデミは長すぎる赤い髪を振り乱し、叫んだ。

 小さな頭の小さな額を、何度も何度も目の前の木製テーブルに叩きつけている。



「なぜじゃ!? これだけともに過ごして、なぜ貴様はそれほど信用ならん!?」

「……」



 そんなこと言われても。

 俺が困り果てていると、ホデミではない声がかけられた。



「ソーマくん、君たちの話には少々気になるところがあるのだが、いいかな?」

「なんだいヴァネッサ」

「先ほどから話に出てきている『能力を戻す』だの『好感度を上げる』だのは、どういう意味なのかな?」



 金髪のエルフ剣士は首をかしげた。

 ……まあ、そうだな。

 ホデミがダメなら協力を求めることになるし、明かすべき時期が来たのかもしれない。

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