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25話 平和って素晴らしい。永遠に続けばいい(フラグ)

「はあ、なんか事件でも起こらんかのう」



 平和だった。

 ナギは守銭奴で毎日のように捕獲クエストの勧誘に来るし――

 ヴァネッサは相変わらず愛を語りながら新人冒険者を見つけてはクエストの厳しさを教え込んでいるようであった。


 俺とホデミだって、忙しくなかったわけじゃない。

 本業がある。


 けれどギルド職員、もっぱら酒場のフロアスタッフとしての毎日は、『事件』と呼べるようなこともなく過ぎていた。

 やっぱりたまにケンカは起こるけれど、それだって仲裁すればいいだけの話だし、本当に退屈なぐらい、平和なものだ。


 俺は、これでいい。

 だけれど最近、酒場がヒマになると、勤務時間中なのに勝手に席に着いたホデミが『事件起これ』と言う――こいつはきっと、俺と違って退屈しているのだろう。



「いいじゃないか、ヒマで……それともホデミは、死にそうな目に遭ってもいいのか?」

「我が死にそうな目に遭うのはイヤじゃが、誰かが死にそうな目に遭っているのを見るのは、我、結構好きじゃよ。特に貴様とかがヒイヒイ言うのはこの上なく好きじゃな……」

「死ね」



 素直な気持ちが口から出ていた。

 この世界に来てから、本心を包み隠すということがどんどん苦手になっていっている。


 ホデミはくるくると首に巻いた長すぎる赤い髪をいじり――

 燃えるような赤く大きい瞳を、俺に向けた。



「なあ、街を出て魔王を倒しに出向いてみぬか?」

「なんで?」

「英雄願望とかないのか、貴様は?」

「いや、ここまで一緒にギルド職員してたらわかるだろ……ないよそんなの」

「これまで送り出した転生者は、みな承認欲求と英雄願望にギラついておったんじゃがのう」

「『これまで送り出した転生者』って?」

「貴様、まさか我が神であることを忘れておるのか……?」

「……いや、それはホデミが自分で言ってるだけの設定だろ?」

「いや……いやいやいや! 設定ではないからな!? 我は神じゃったろ!? 覚えておらんか、座で我と会ったことを!?」

「うーん……いや、ちょっとこれは深く考えてみるべき問題かもしれないぞ。お前は自分を神と言うが、他の誰も、お前を神であると保証できない。その場合、お前は果たして神だと言えるのか?」

「えっ? いや……神だけど……貴様、知っとるじゃろ? なあ。知っててわざと、覚えておらんフリをしとるんじゃろ? 我をたばかりおって。このこのー。お茶目さんめ」

「えっと、ごめん……」

「うそじゃろ? じゃ、じゃあ、我と貴様、どうやって出会ったというんじゃ!?」

「え、覚えてない? 他の街から来てさ、冒険者ギルドに来るところ、たまたま公園で休憩中に一緒になったんじゃないか。いや、おどろいたよ。まさかよそ見して歩いてたら、たまたま噴水のところでぶつかってさ……」

「いやいやいやぁ!? そうではなかろう!?」

「あー、そっか、頭打ったんだっけ……それで記憶が混乱してるのかな?」

「え? 本気? 本気で言っとる?」



 俺がそのようにホデミで遊んでいると――

 ヒマだったギルドに、誰かが入って来た。


 尋常ならざる様子が一目でわかった。

 まずは呼吸の荒さから、よほど急いでここに来たのだということがわかる。

 どうにも人種は人間のようなのだけれど、その男性の目は血走り、目の下には色濃いクマがあることから、睡眠さえ満足にとっていないように思われた。


 また、ガントレットやレガースは身につけているのに、胴体や腰回りなどを守る鎧が存在しない。

 もとは全身を覆う鎧を着ていたのに、どこかで慌てて脱ぎ捨てた印象を受けた。


 そして鎧の下に着るような麻の衣装は、汗や泥で元の色がわからないぐらいだった。

 よくよく見れば、顔や手などにも泥の汚れが見てとれる――転げながらも走り続け、必死になにかから逃げてきた光景が予想できる汚れっぷりであった。


 その人はなにかを言いたそうなのだけれど、息は上がっているし、喉も渇いているのだろう、先ほどから口をパクパクさせるだけで、声が出ていない。

 俺が水をもらってその人に一杯勧めると、その人は奪うようにジョッキを俺から受け取り、一気に飲み干した。



「ありがとう、少しだけ落ち着いた」



 男性は礼を述べる。

 俺は首を振り、問いかけた。



「ギルドにはどのようなご用件で?」

「ああ、そうだ! 俺はこのギルドに急いで伝えねばならないことがあって……すまないが、ギルドマスターはいらっしゃるか?」

「ギルドマスターはシフトが夜からなので、今はいません。用件があるならば伝えておきますが」

「いや、すまないが、今すぐ呼び出してほしい。危機だ! とてつもない危機なんだ!」



 男性は俺の肩をつかんで強く揺すぶった。

 とはいえ、俺はギルドマスターの不在は知っているが、連絡先も住所も知らない――なんなら姿さえ見たことがない。

 一説ではカレンちゃんがギルドマスターなのではという噂さえあるほどだ。

 従業員にぐらい姿見せろよとは、常々思っていることである。



「わかりました、でも、いったいどのような危機なんですか?」



 興味本位から――ではないだろう。

 ギルドマスターを呼びつけるというのは、俺的にストレス値の高い行為だ。

 だから本当にギルドマスターを呼ぶほどの用事なのか、事情を知っておきたいというのは、人として正しい心の動きだと思う。


 すると――

 男性は、真っ青な顔で叫ぶ。



「ドラゴンが出た!」

「……」

「巨大ドラゴンが――東側から、この街に迫っているんだ! 俺のいた街はもう踏みつぶされた! 次は進路的に、この街に来るぞ!」



 ホデミさん、事件です。

 大事件です。

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