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20話 顔合わせ

「剣士のヴァネッサだ。よろしく」

「頭脳担当のナギだよ! よろしく!」

「同じく頭脳担当のホデミじゃ。よく我に尽くせよ」

「この流れだとたぶん俺も頭脳担当のソーマです。よろしく」



 頭でっかちなパーティーだった。

 ひょっとしてこの中で冒険者としての実力があるの、ヴァネッサしかいないんじゃないだろうかという不安が頭をよぎる。

 というか……



「なんで当たり前のようにホデミがいるんだよ」



 ディナータイムも過ぎて――

 ギルドの酒場の端、丸いテーブルを囲んで俺たち四人は座っていた。


 クエストの発起人、猫系獣人、人見知り巨乳守銭奴のナギ。

 自称『愛持つ者の味方』、エルフの剣士ヴァネッサ。

 そして俺。


 この三人で全員のはずが――

 当たり前のような顔して、ホデミが俺の右隣に座っているのだった。



「ソーマよ、なぜ我がいるか不思議なようじゃな」

「そうだよ」

「たしかに我は『にじいろゲル』のクエストで、クエストというものに懲りた。二度と冒険なんぞせんと、そう思ったものじゃ……」

「そうだよ」

「しかし――楽して稼げるのじゃろう?」

「……」

「我は大変な目には遭いとうない……しかし、楽をして稼ぎたいとは思っておるのじゃ」



 目を閉じてうんうんとうなずいていた。

 その対面ではナギも同じ顔でうなずいていた。

 俺も同じ顔でうなずきそうになったが、この二人と同類に見られたくなかった。



「ところでクエストの説明を改めて、あなたたちの口から聞きたいのだが」



 ヴァネッサが言う。

 ナギがピコッと頭上の黒い耳を動かし――



「じゃ、ボクから説明するね! クエストは貼り紙にも書いてあったみたいだけど、『コドモドラゴンの捕獲』だよ」

「ほう……弱い方とはいえ、竜種に挑むのか。しかも、殺さず、捕獲……実にいい。実に愛にあふれているな」

「え、どういうこと? 愛? お金じゃなくて?」

「愛だろう。殺さず捕獲するのだから」

「え、でも捕獲したモンスターってさ、捕獲したあと死ぬよりひどい目に遭うでしょ?」

「つまり血の一滴さえ無駄にすることなく愛し抜くのだろう?」

「えっ? ど、どういうこと?」

「命と真剣に向き合うのは、敬意であり、愛だということだ」



 ヴァネッサがうんうんとうなずいていた。

 なんだか彼女の話をよく聞かずに、忙しさから逃れたい一心で彼女をパーティーに加えてしまったが……

 ヤベェやつなんじゃないのかな、この人……



「まあとにかく、お金だよ!」



 ナギが言う。

 ヴァネッサはうなずいていた。



「うむ。愛だな」

「弱いけど竜種だし、生きたまま無傷で捕らえたらその報酬はけっこうものすごいよ! 一匹捕らえるだけでも数ヶ月は遊んで暮らせるはず!」

「うむ。『竜に捨てるところなし』とはよく言う。ウロコや皮はもちろん、内臓までも捨てるところがない。血の一滴、ウロコのひとひらさえ無駄にならない……実に愛おしい」



 ヴァネッサがうんうんとうなずいている。

 絶対にあいつの好感度を上げるのはやめようと思った。

 なんかこう……ヤバイ。

『愛だよ!』とか言いながら解体されそう。



「まあ、傷つけないほうがお金になるからね! そういうことでしょ?」

「そうとってくれてかまわない」

「じゃあ、お金だね!」

「ああ、愛だな!」



 なぜか立ち上がって手をとりあうヴァネッサとナギ。

 横で聞いてて変な宗教のセミナーにまざってしまった感ある。



「で、ソーマ」



 宗教関係の猫耳娘が俺を見た。

 俺はなんとなく目を合わせないようにしながら――



「なんでしょう?」

「え、なんでこっち見てくれないの? 寂しい!」



 好感度下げたはずなんだけど……

 どうにも人見知りのはずなのに俺にだけやけに打ち解けてみたり、好感度最大値だった後遺症が見られる。

 好感度もどうにか数字として可視化できたらいいんだけどな……



「なんでしょう、ナギさん?」

「なんか距離感が……まあいいや。あの、ソーマはどういう方法で捕獲するの?」

「まあ、その……ある程度近付いて……えーっと……」



 触れば好感度上げられるよ――

 とかは言わない方がいいだろう。

 変に思われる。


 ……じゃあ他にどう説明しろっていうんだ。

 ああ、そうだよ。クエストを一緒にやるんだったら、好感度操作を見せる必要のあるシーンは絶対におとずれるわけで、そういう時にどうごまかすかを想定してなかった……!


 考えろ。

 なにか、なにかてきとうな言い訳は……!



「えーっと……俺は動物好きなんだ」

「……その話はお金になる?」

「それは知らないけど……とにかく、俺は動物好きだから、動物に詳しいんだ。だから、えー……頭を撫でる! 頭を撫でたら、こう、微細な撫で方の加減みたいなので、あっというまに動物が懐くんだ!」



 渾身のでっちあげだった。

 リアルタイムにして十秒程度で俺が思いつくには、このぐらいが限界。

 なんてテキトーな言い訳なんだろう!



「へえ、ソーマすごいね! よっ、お金!」

「信じるのかよ!」

「嘘なの!?」

「いや、まあ、その……嘘じゃないよ? でもなんていうか、信じるの?」

「だって……理屈とかどうでもいいし……」

「……」

「お金になるかどうかが重要だし……」



 守銭奴でありがとう。

 一方ヴァネッサは「頭を撫でるだけで動物が懐くなんて愛だね」と感心していた。

 そして俺の隣でホデミだけが鼻で笑っていた。


 積極的に俺の能力をバラしていく気はないらしい。

 たぶん俺が秘密にしていることをあとで利用する気だろう。


 金のため(ナギ)――

 愛のため(ヴァネッサ)――

 そして力のため(ステータスを戻されたがっているホデミ)――


 互いが互いを利用している。

 ひでえパーティーだった。



「とにかく、ボクのお金のために、ソーマに『コドモドラゴン』を撫でてもらわないといけないんだよね」



 ナギがまとめる。

 俺たちは黙って彼女の話を聞いた。



「だから、まずはヴァネッサがうまく『コドモドラゴン』を引きつけて、そこをソーマがスキを突いて撫でる。作戦は以上だね」

「愛のある作戦だ。それで、ナギさんとホデミちゃんはなにをするんだい?」

「「頭脳担当」」



 ナギとホデミ同時に答えた。

 頭脳担当と言っておけば働かないことをごまかせると思っている頭脳担当がいるらしい。

 俺はつぶやく。



「……俺とヴァネッサだけでいいんじゃないかな……」

「みゃあ! ひどい! ボクも楽して儲けたいのに!」

「『楽して儲ける』と『働かずに利益だけすする』は違うと思うんだ」

「じゃあ働くよ! なにしたらいいの!?」



 自分がなにをしたらいいかわからない頭脳担当がいるらしい。

 剣士が一人に無能が三人のパーティーとか完全に寄生じゃないか……



「あ、じゃあ、料理する! 料理とか道案内とかする! これでボクもお金もらえるでしょ!?」

「料理?」



 俺は首をかしげた。

 ナギもまた不思議そうに首をかしげ――



「え、だって片道三日のクエストだよ? 食事、するでしょ?」



 ――その話は初めて聞いた。

『コドモ』ドラゴンです。

『コモド』ドラゴンではありません。

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