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2話 はじめての逮捕

 ――異世界だった。

 バシャーン! と飛びこんだ場所はどうやら噴水で、周囲では多くの人たちが思い思いに時間を過ごしている――過ごしていたが、突如噴水に出現した俺に注目してて、騒然としてしまった。


 そこにはケモミミや尻尾の生えた人や、とんがったエルフ耳の人、頭身の低いヒゲモジャの人もいたし、俺のようなただの人間もいた。

 服装は全体的に地味である。革か、麻か――素材はわからないが、なんとなくファンタジー大作映画で見たことがあるような、そんな服装だった。


 少なくとも、俺のように――

『ちょっとコンビニ行ってくる ~Tシャツにスウェットパンツ、サンダルを添えて~』みたいな服装の人はいなかった。


 なによりファンタジー感あったのは普通に剣などの武器を帯びた人が行き来しているところだ。

 冒険者か衛兵か、この世界でなんと呼ばれている人なのかはよくわからないが、ともあれ俺の知る現代日本の常識ではありえない。


 時刻はきっと昼なのだろう。

 俺は真っ青な空と浮かぶ太陽――のようなダイヤ型のなにか――を見てそう思ったが、そもそも『昼』『夜』の概念が俺の知る世界と同じかはわからない。



「あぶぶ! あぶ! 消える! 我が消える! 炎たる我が公園の噴水で溺れて消えるぅ!」



 異世界感に打ちのめされていると――

 背後から少女が溺れる声が聞こえた。


 振り返れば、そこには肩をはだけた丈の短い赤い着物を着た――

 やけに長く赤髪を伸ばした少女がいる。

 噴水にたゆたう長すぎる赤髪はやけに綺麗で、俺は一瞬見とれた。



「たす、たすけ、たすけ……!」



 見とれている場合じゃなかった。

 足首ぐらいの水で溺れるのはなかなか器用だ。

 ともかく俺はホデミの腕をつかんで引き上げた。


 濡れて赤い髪をペタッとさせ――

 着物をピッタリ体に貼り付けさせ――

 ホデミは何度か咳き込んだ。



「……水はイヤじゃ……水はやめろ、やめろお! 我は炎! 我は非常によく苦労して千年燃え続けた炎! ほ、炎に水かけたら消えるじゃろ!?」

「大丈夫?」

「貴様のせいじゃろが! 反省しろ!」



 俺のせいらしかった。

 まあ色々あったし、責任を全面的に負う気はないが……

 とりあえず怖い思いをさせてしまったようなので、謝ろう。



「チッ……反省してまーす」

「反省しろ! もっと心から!」



 俺の中の『もとはと言えばお前が俺に八つ当たりするからだろ』という意思が表に出てしまったようだった。

 もう少し大人にならないといけない。



「それよりホデミ様、ここはどこで、今はいつで、俺はどうしたらいい?」

「ファッ、ファッ、ファッ、ファッ!」

「なんだその笑い方」

「『ファイアー』の『ファ』じゃな。我は炎ゆえ。それにしても……ファッファッファッ! 右も左もわからんか! そうかそうか! よかったのう!」

「よくないんだけど……」

「我の能力を子供以下にまで下げて、あげく異世界に引きずり落とすからバチがあたったんじゃな! そのまま不安に抱かれて寂し死にしろ!」

「ホデミは俺が死んでもいいんだ……」

「ああ! 貴様なぞさっさとのたれ死ねと思うわ! 我ががんばって神の座に達したのに、そこから引きずり下ろした憎き男! 道端のウンコ踏んで肥だめに落ちて溺れ死ね!」

「こえだめ?」

「なんと、肥だめを知らん……? これが『じぇねれーしょんぎゃっぷ』か……?」

「でも……ホデミは俺が死んだら困らない?」

「なぜ我が困る!?」

「だって、俺が死んだらホデミ、これから一人で生きていかなきゃいけないだろ? 俺が能力値を下げてしまったせいで、子供以下の力しかないんだろ?」

「……」

「今の状態で俺が死んでしまったら、ホデミはとても困ると思うんだけど……」

「き、貴様……! か、神を相手になんという脅迫を……!」

「ここは俺にかけた制約を解くのがいいと思うんだ。もう異世界には来たし、できるんだろ? そうしたら俺も、ホデミの能力を元に戻すからさ」



 俺の提案に――

 ホデミはなぜか、押し黙った。

 イヤな予感がする。



「……おい、まさか……俺の制約解けないんじゃ……?」

「ファッ!? あい、いや、その、えっと……貴様を信用できんのじゃ!」

「信用?」

「そうとも! 我が貴様の制約を解いた時、貴様が我を元に戻すかどうか信用できん。そうじゃな、こうしよう。貴様が先に我の能力を元に戻せ。さすれば我は、貴様の制約を解こう」

「それこそ、信用できない。先に制約を解いてくれよ」

「…………」

「…………」

「……どうやら長い付き合いになりそうじゃな!」

「ああ。ギスギスするのはやめて、仲良くしよう!」



 俺とホデミは手を取り合った。

 互いに素敵な笑顔を浮かべていたことだろう。


 噴水で仲良くしていると――

 ガチャガチャという金属音が複数、近付いて来た。


 俺とホデミは手をとりあったままそちらを見る。

 するとそこには、鎧兜とハルバードを装備した兵隊さんたちがいた。

 その隊長らしき先頭の男性は言う。



「君たちか! 公園の噴水で遊んでいるのは! いい大人がなんという……少し詰め所で話を聞かせてもらおうか」



 そうして兵隊さんたちは俺とホデミの周囲を取り囲んだ。

 俺は学ぶ。


 この世界、どうやら会話はできるらしい。

 あと、俺はどうやら『いい大人』に見えるらしい。

 そして――噴水で遊んでると補導される、らしい。

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