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19話 TPO

「すまない。少しお話いいだろうか?」



 やたら格好いいエルフの女性に話しかけられたのは、俺が注文されたサンドイッチを運んでいる時だった。

 ギルドに併設された酒場は夕食時を迎えて戦場のようなありさまだ。



「あの、いいように見えます?」



 思わず問い返してしまった。

 しかしエルフの女性はフッと笑い、髪をかきあげた。


 その動作のなんと絵になることだろう。

 エルフというのは金髪で碧眼で耳がとがっててスレンダーな種族なのだが、この女性もまたその特徴から逸脱していない。


 高めの身長。

 長い金髪。

 尖った耳。


 丈の長い緑色のワンピース。

 その上には金属製の精緻な意匠のほどこされた鎧。

 腰に差したレイピア。


 どことなく高貴な雰囲気もあった。

 切れ長の瞳のせいだろうか、それとも単純に美貌のせいだろうか。


 まさに女騎士といった風情のそのエルフは――

 ディナータイムを迎えて戦場のようになっている酒場を見回して――



「――実は、パーティーメンバー募集の貼り紙を見たのだけれどね」

「いいように見えます!? 今! 話すタイミング正しい!?」



 俺の言外の『あとにして』という申し出は、彼女に通じないようだった。

 美しいエルフの女性は首をかしげる。



「話をしたい私がいて、私が話したいあなたがここにいる。それ以外に気にすべきことなどあるかい?」

「俺が話せるタイミングかどうかも気にしていただきたいんですけど……あの、本当に、今は忙しいので、あとでいいですか?」

「仕事は続けたらいい。私があとからついていって話すから」



 どうしても今話したいらしかった。

 まあ、『あとからついていく』とまで言われては断る理由もパッと思いつかない。

 俺は仕事を再開する。



「お待たせしましたー! ご注文の『ギルドハウスサンド』でーす! あ、エールお代わり? はい、ただいま!」

「実はずっと、君たちのようなパーティーを捜していたんだ」

「オーダー! エール一杯! ……あ、はいはい、17番テーブルに『ドラゴンテール? ステーキ』ね!」

「私は常々疑問だった……モンスターだからといって、いたずらにその命を奪うのはいかがなものかと……そう、人々の心には愛が足りない」

「あ、はーい! 少々お待ちください! こちら『ドラゴンテール? ステーキ』でーす! ……え? 注文してない? でも17番……少々お待ちください、確認してきます!」

「むろん、モンスターは人類に害成す敵だ。互いの行動原理が行き違う以上、そこに争いが生まれるのは仕方がない。けれどね? 私はそれでも思うのだよ。理解しあえない敵だからこそ、きちんと労力を払い、相手に敬意を表してこれを打倒すべきだ、とね」

「17番様の注文とったの誰? ホデミ? お前か!」

「我々は命と向き合っているのだ。そのことを常に意識し――そう、モンスター相手といえど、愛をもって接しなければならない。真剣に向き合い、ウロコひとひら、骨の一片まで愛し抜かねばならないのだ」

「え、ステーキでよかったの? 『ホデミちゃんの間違いなら仕方ない』ってお客さんが? マジで? お前得なキャラしてんな……」

「その点、討伐クエストと違い、捕獲クエストには愛がある! モンスターという命を最後の最後まで愛し抜こうという決意を感じる! そこで私は、このギルドで唯一『捕獲クエスト』という『無駄に難しだけのクエスト』に挑もうというあなたたちとともに行きたいと強く感じたのだ。この通り、私は剣士(フェンサー)だし、エルフの中では若輩だ。君たちの募集条件にもだいたい当てはまる」

「あ、はーい! 13番テーブル様ね! 行ってきまーす!」

「ソーマくん、そういうわけで私をパーティーに加えてくれるかな?」

「13番テーブル様お待たせしました! ご注文をおうかがいします!」

「ソーマくん、聞いているかい?」

「聞いてられるわけねーだろ!」



 さすがに怒鳴った。

 13番テーブルのお客様がビクッとした。



「あのさあエルフの人!」

「おっと、自己紹介がまだだったね。私はヴァネッサという。よろしく」

「よろしくじゃなくて! やっぱり無理だよ! 俺はディナータイムの仕事さばきながら人の話聞けるような頭の出来してないよ!」

「しかし参ったな……私はあなたに『パーティーに入っていいよ』と言われるまで、話をやめないぞ」

「それで話をやめてくれるなら、入っていいよ!」

「そうか、ありがとう。改めて、『愛持つ者の味方』こと剣士のヴァネッサだ。よろしく」



 ヴァネッサは笑った。

 俺は笑うどころじゃなかった。

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