16話 冒険者は助け合い
「それにしてもナギ、釈放早かったですね」
彼女との距離感がつかめないので半端な言葉遣いになってしまう。
ナギは首をかしげ――
「釈放?」
「え、いや、今まで牢屋にいたでしょ?」
「それは――夢でしょ?」
「…………そうだったね」
まあ、窃盗はしたが着服はしてないので、こんなもんなのか。
いらんことを吹き込んだせいでナギの釈放が早い理由は永遠の謎になってしまった。
「それよりソーマ、ボクとパーティー組んで、捕獲クエストで一攫千金しようよ!」
彼女の主張は振り出しに戻った。
『仕事中のホールスタッフが、片手に給仕する料理持ったまま、知り合いの女の子と雑談する』とかいう現代日本だとSNSにさらされて炎上案件間違いなしの状態のまま応対する。
「あのですね……俺は本職、ギルド職員であって、冒険者じゃないんだよ」
「えー!? もったいないよ! あれだけモンスターを捕獲する才能に長けてるのに、それを活かさないだなんて! 世界に対する裏切りだよ! 才能という財産の不当占有だよ! 世界が損してるぶんだけボクが料金を請求するよ!?」
「お前は世界の意思を代行してるの……?」
「儲かるならなんだって代行するよ!」
「どうしてそこまで金にこだわるんだ?」
「……どうしてそこまで? 金にこだわる……? え、普通でしょ……?」
心底不思議そうな顔だった。
どうやらナチュラルボーン守銭奴らしい。
「ね、ソーマはやっぱり冒険者が向いてるよ! だってサンドイッチ似合ってないもん!」
「サンドイッチが似合う男ってどんなんだよ……とにかく俺は、前回のクエストで懲りたんだ……モンスターの相手とか向いてないって。ケガさせてこない『にじいろゲル』でさえ手一杯だったんだから、普通に殺しに来るモンスターの相手とか無理無理」
「じゃあ、ソーマは捕獲だけ担当して、戦いは他の人に任せたらいいんだよ! 冒険者は助け合いでしょ!?」
「ナギはどうやって俺を助けてくれるの?」
「とにかく仲間を捜そうよ!」
俺の質問には答えていただけなかった。
どうやら彼女は助け合うより助けられる方が好きみたいだ。
俺もどちらかと言えば力は貸すより借りる方が好きなので、同じような性格かもしれない。
親近感と嫌悪感を同時に覚えた。
そして――仮にナギが俺と似たような性格だとすると……
たぶん自分の主張を曲げて引き下がったりはしないだろうというのもわかる。
だって俺がそうだし……
「うーん、わかった、わかった。じゃあ、こうしよう。一回だけ、一回だけね」
ホデミの時もこんな感じだった気がするが……
他にいい落としどころも思いつかないのでいたしかたない。
ナギは腕を組んで(胸を押し上げて)考えこみ――
「一回かあ……うん、わかったよ。とりあえず一回ね!」
「『とりあえず』じゃなくて一回ね」
「でも、ソーマだって実際にお金を見たら気が変わるって! 『弱いのに捕獲が難しいモンスター』とかもいるから、そういうので楽に大金を稼げたらソーマも変わるよ!」
「イヤな変わり方だなあ……」
「楽して儲けたくないの!?」
「それはもちろん楽して儲けたいけどさ……」
「じゃあ、決まり! ボクと一緒に楽して儲けよう!」
「で、仲間捜しは?」
「……ボクはそのー、ほら、えっと、人見知りだし?」
これだけ衆目を集めながら大声で『楽して儲けたい』とか言っておいて、いまさらぁ?
だがまあ、人見知りなのは知ってる――なにせ『人前で声をかけるのが恥ずかしい』という理由で俺は財布を盗まれたのだ。
「わかった、わかった。じゃあ、なんかよさげな戦士系の人を捜せばいいんだろ? こう見えて屈強なドワーフとかイケメンエルフとかには顔が広いから。特に血の気の多い男を中心に、俺はちょっとした有名人なんだ。人呼んで『仲裁人ソーマ』とは俺のことさ」
「そうなんだ! ソーマすごいね! さすがギルド職員! よっ、お金!」
「なんだ最後の……」
「えっ? 『この世で一番素敵』っていう意味で使わない? 『あなた偉大だね』を『あなたお金だね』みたいに……」
「世界は広いな」
俺の知らない文化だった。
異世界だしそういう常識がまかり通る地域もあるのかもしれない。
「あー、でも、ソーマ、仲間のことで一つ条件があるの」
「職業とか武装の種類とか?」
「ううん。あのね……なるべくボクと同年代か、ボクより年下の、女の子がいいんだけど」
「俺のコネが全滅した」
「だ、だって……初対面の男の人とか、年上の人となに話していいかわからないよね?」
人見知り守銭奴巨乳猫耳怪盗は、どうやらずいぶんめんどうくさいお方のようだった。
困る。
だが――ものは考えようだ。
ここでもう一度、言うまでもないかもしれないが、再確認しておくと――
――俺は女の子が好きだ。
この世界に来てから男ばかりあえがせているのだけれど、俺は本来、男のあえぎ声を聞く趣味はない。
そしてできれば男よりも女の子とお近づきになりたい。
ところが今まではチャンスがなかった。
なんの用事もないのにいきなり女の子に声をかけるとか、どうしたらいいかわからない。
しかし今、ナギによって大義名分を得たのだ。
このチャンスは利用すべきだろう。
そしてできれば、知り合いの男女比を半々ぐらいにしておきたい。
ケンカを仲裁した男エルフからうるんだ瞳で見られる生活はもうイヤなんだ。
「やれやれ、わかったよ。しょうがねえなあ。ナギがそこまでいうなら、しかたないから、おれが、おんなのこの、ぼうけんしゃを、さがすよ。ナギが、いうからな」
「なんでそんなに棒読みなの?」
「いや。なんでもない。ありがとう」
「ありがとう? お金くれるの?」
「あげないけど」
「……あっ、そうだ、あの子は? あの……たぶん神霊族の子」
「神霊族?」
「うん。『神に近しい』って言われてる少数種族。ほら、エルフでもドワーフでも獣人でもなくって、どことなく神聖な雰囲気の、小さい、赤い……」
「ああ……」
ホデミのことを言っているらしい。
今はちょうど休憩で厨房奥にでも引っ込んでいるのだろう、見当たらない。
ホデミが休憩で俺がサンドイッチ片手に話し込んでいるもので、ギルドの酒場ホールはえらく機能不全を起こしていた。
SNSにさらされちゃう。
「アレは弱いから……」
「そうなの? 神霊族ってみんな強いみたいな話を聞くけど」
「そもそもその『神霊族』ではないと思うけど……とにかく、ホデミは弱いし、たぶんもうクエスト行かないと思う」
「そうなの?」
「にじいろゲルにこっぴどくやられたから」
「ああ……」
なにかを察した顔だった。
ひょっとしたらにじいろゲルでキラキラするのは冒険者の通過儀礼なのかもしれない。
「……まあ、とりあえず仲間を捜してみようか。あとでね」
「うん! ソーマ、ありがとう! お金!」
「たかられてるみたいな気分になるから、その褒め方はやめてほしい」
「そっかあ……でも、お金より素敵なもの、ないからなあ……」
「無理にたとえなくていいよ……あ、そうだ、仲間捜しの前に、俺の手が空いたらあとでちょっとまたギルドカード見せてほしいんだけど」
「いいけど、なんで?」
「ちょっとね」
俺はなにも言わなかった。
ステータスいじりの実験に使うのだが、それを明かすとまた新たな金づる扱いされそうなので黙っておいた方がいいかなと思ったのだ。
「ソーマ、ありがとね、ボクのお金のために、仲間捜しとか、協力してくれて……」
「いいんだよ。冒険者は助け合いだろ?」
「うん!」
持ちつ持たれつ。
冒険者は素敵な職業ですね。




