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15話 釈放された泥棒が職場に乗りこんできた

「ソーマああああ! ソーマあああああああああ! あああああああああ! 会いたかったああああああああああ! わああああああああ!」



 数日後。

 釈放されたナギがギルドに現れた。



「いやあの、ちょ、ちょっと、ちょっと! 仕事中! 仕事中に抱きつかないで!」



 現在はギルドの酒場のホールでサーブ中なのであった。

 着ているものはシャツとベストとスラックスというギルド職員(男性)の制服で、片手には肉サンド(クラブハウスサンド的なもの)の乗った皿を持っている。


 時間はランチタイムを少しすぎたあとなのでそこまで忙しくもないが、それでも周囲には多くの冒険者がいた。

 そいつらは面白いことが始まりそうな予感に、目を輝かせ、俺とナギに注目している。

 見ないでほしい。



「牢屋の中でね、ずっとソーマのこと考えてたよ。ずっとね、考えてたらね、なんだか目の前にソーマが現れてね、それでね、触ろうとするんだけど、なぜか触れなくてね、ボクはこんなにも触れたいのに、でもソーマはボクが触れようとするとフッと消えちゃってね、だからボクはソーマを壁に描いたよ。毎日壁のソーマと話してたらね、ソーマがたまに答えてくれるようになってね。それからは毎日楽しかったなあ……でもね、看守が『誰もいないところに話してどうした?』とか言うの。ひどいよね……いるのに。ソーマはいるのにさ。だからボクは言ってやったよ『あなたには誰もいないように見えますか?』って。そしたら黙っちゃったよ。ふふ、たぶん、ボクとソーマがあんまりにも楽しくおしゃべりしてるから嫉妬したんだろうね。ね、あの時の約束、果たしに来たんだよ。覚えてるよね? だって牢屋の中であんなに優しく言ってくれたもんね? ね? ボクたち――もうずっと一緒だよ?」

「…………」



 いや、抱きつかれるのは嬉しいよ?

 ナギは美人だし、巨乳だし、服装だって体にぴったりするような黒いので、もうなんか感触的には裸と変わらないし、猫耳かわいいし、尻尾の動きも思わず目で追っちゃうし。


 嬉しいんだけれど――

 発言がただただヤバイ。

 俺は空いている右手でナギの前腕に触れた。



「んふぅうううっ!?」



 ナギがあえいだ。

 下げる時もコレはあるのか……


 まあ、今までケンカの仲裁の時は好感度上げすぎないように気を払っていたけれど、ナギの時は警戒していたので加減をする余裕がなかった。

 ただただ申し訳ない。


 ナギはずるりと俺から腕を放す。

 そして床にへたりこみ――

 ぼんやりした顔で、周囲を見回し――



「……!?」



 ボッと。

 そんな音でもしそうなほど、一気に顔を赤くした。



「ぼ、ボクは……ボクはなにを……!?」

「なにもなかった」



 俺は優しい笑顔で言った。

 ナギは困惑している。



「え、でも、ボク、なにかものすごいことを口走って……牢屋の中でも、ものすごいことを、して……?」

「なにも、なかった」

「……でも」

「夢」

「……夢?」

「そう、全部悪い夢だ」

「夢」

「そう、夢。はい、みなさんご唱和ください。『夢』」

「「「「「「「夢」」」」」」」



 周辺の冒険者たちが本当に唱和してくれた。

 ノリのいい連中で助かる。



「……そっかあ、夢かあ……そうだよね……でも、なんだろう――なんだかボク、心が……なにか、大事な、大事なものをなくしてしまったような……そんな気がするよ……」

「大丈夫。なくしたものはいずれ忘れるよ。大事なのは未来だ。はい、みなさんご唱和ください。『未来』」

「「「「「「「未来」」」」」」」

「そっかあ、未来……うん、未来っていい言葉だね……」

「あとついでに自分のステータスとか覚えてる?」

「あ! そうなの! なんかギルドカード見たら全部『一』になってて――」

「ギルドカードに表記されてた、最大のヤツ覚えてる?」

「え? 覚えてるけど……」

「教えて?」

「こ、こんな注目されてるところで言うの、恥ずかしいんだけど……」



 ナギは顔を赤くした。

 どうやらスリーサイズとかと同じノリらしい。


 なので俺はこっそり聞いた。

 そして彼女にギルドカードを見せてもらい――すべての数字が『一』になっているのを見てから、彼女に申告されたステータスまで戻していく。

 ギルドカードを返した。



「これでよし。いやあ、ギルドカードがちょっと調子悪かったみたいだね!」



 俺が『ステータス操作』とかいうチート能力を持っていることは、隠している。

 そのわりにホデミは『ステータスを戻せ!』と大声で言ってくるが……

 そこから『あ、こいつはステータスを操る能力があってそれを隠しているな?』とかいう超推理ができる者はいないだろうという認識だ。



「あ、直ってる……でも実際に体の調子も悪かった気がするんだけど……」

「夢、だろ?」

「……そ、そっか。夢だね……夢なんだよね……うん……」



 ナギはうつむいて言う。

 納得いってない顔だったが、自分で自分を信じ込ませることにしたようだった。


 ………………。

 俺、この世界で生きていくことに順応した代わりに、人として大事なもの失ってない?

 そんな気はするんだけれど――『大事なもの』がなんだったのか、ちっとも思い出せない。

 たぶん俺も夢を見ていたんだろう。


 この世界は夢だらけ。

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