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14話 和解、そして

「ふう、金は減ってないな……まったく、ひどい目に遭った……」



 怪盗ナギの指定した空き家――

 無事にサイフを取り戻した俺は、しゃがみこみ床に貨幣を並べて中身の確認をしていた。


 十円玉ぐらいのサイズの、十円硬貨よりもうちょっと赤味が強い色合いの硬貨――ヒヒイロカネ貨幣は盗まれる前と同じだけ入っていた。

 これで支払いは足りそうだ。

 ひとまずよかった。



「……ひどい目に……遭ったのは……こっちだよ……なにを、したの……?」



 すぐそこには怪盗ナギがぐったりしたまま倒れていた。

 息も絶え絶え、頬に赤みがさし、口の端にはよだれがこぼれたあとが見える。

 床についておしつぶされた大きな胸が妙になまめかしい。



「……でも……なんだろう……出会ったばっかりでこんな、おかしいけど……ひょっとしたら、ボク、君のこと……雷がね、君に触れられた瞬間、つまさきから頭のてっぺんに、こう、運命的な雷が……これ、ひょっとして、恋……?」

「その気持ちは勘違いだ。……それで、なんで俺のサイフを盗んだんだ? いや、盗んだまではわかるんだけど、なんで呼び出すようなマネを?」



 まるっきり意味がない。

 きっとなにか話したいことでもあったのだろうと予測はつくのだが、ただ話をしたいだけだったらサイフを盗む意味がない。

 だから、事情を聞いてみようとは思っていた。

 ここで変にはぐらかされても困るので、好感度を上げて『相手の本心の見える化』を推進したわけなのだけれど……



「貴様、本当に好感度上昇に迷いがなくなっておるな……」



 ホデミがぶるりと震えていた。

 そうは言うが、全財産を盗まれた上に呼び出しまでくらったのだ。

 最大限の警戒とこちらができる最大の対応をするのは、別に間違いではないだろう。

 異世界生活は遊びじゃねえんだぞ。


 俺はサイフを尻ポケットにしまって立ち上がる。

 今度から普段着ももうちょい防犯意識の高いものにしようと思いながら――



「それで、俺たちに用事でも?」

「うん……あのね、ソーマ……ボクの話、聞いてくれる?」



 どこで知ったのか――たぶん他の冒険者が話してたのを聞いたのだろうけれど――潤んだ目で名前を呼ばれた。

 大人びた美女にこんな上目遣いで見てもらったの初めてだ。

 大人びた男性には今まで何度かこういう目で見られたことはある――ケンカの仲裁後などに。

 ようやく『そうだよ! 俺が求めていたのはこれだよ!』という感じだった。



「ボクはね……君とお友達になりたかっただけなんだよ……」

「……あの、お友達になりたい相手のサイフを盗むとか、婉曲的すぎません?」

「だって……ボクが声をかけようとしても、君って必ず誰かしらと一緒にいるし……は、恥ずかしいじゃないか……人に見られたら……」

「……」



 鼻血出るかと思った。

 すさまじくカワイイ――好感度を上げているせいもあるんだろうが、大人びた美女が子供みたいなことを言っているというのは、なかなか心臓に直撃するものがある。


 今回は相手の危険度が不明だったので、微調整とかなしで一気に全力で好感度を上げてしまった。

 だから話を聞いたら彼女から俺への好感度を戻すつもりでいるが――


『無理矢理相手の好感度を上げて好かれても虚しいよ』という理性と――

『いや、このままでいいんじゃね?』という欲望が俺の中で激しくせめぎ合っている。



「でも――なんで俺と友達になりたかったんだ? 俺はギルドで働いてけっこう経つし、常連冒険者の顔はだいたい覚えてると思うけど、あんたのことは初めて見た気がする」

「ボクはさっきこの街に着いたばっかりだよ。もといた街のギルドが巨大ドラゴンの進撃でダメになったから……」

「そうなのか……じゃあ、なんで俺とお友達に?」

「だって――君、なんかモンスターを捕獲するの得意みたいじゃないか。見たよ、にじいろゲルを三体も、特に拘束もせずに連れ帰ってきたの」

「……まあ」



 拘束とかしなくても、にじいろゲルどもは俺の後ろをよちよちついてきたのである。

 ああ、ダメだ。思い返すと情が湧く……!



「だからね、ボクは、にじいろゲルを引き連れている君の姿を見て思ったんだよ」

「と、友達になりたいって?」

「ううん。『この男の仲間になれば金になる』って」



 どうやら『お友達』と書いて『金づる』と読むようだった。

 なんかこう……いや、わかってたよ? こんな美女が俺に一目惚れとか、それこそ好感度を強制的に上げない限りありえないってわかってたよ。


 わかってたけど。

 なんだろう、この、やるせなさ。



「でも、にじいろゲルを見る君の優しげなまなざし……右足と左足を交互に出す歩き方……息を吸って息を吐くその姿……素敵だったような…………あれ? 素敵かな……? でも、ボクの思い出の中の君は、きらきらと輝いて……」



 どうやら好感度を上げると、記憶の中にある俺の姿が美化されるらしい。

 歩いているだけで素敵とかすげーな俺。



「モンスターはね……モンスターはね……多くの素材回収クエストの場合、死体を持っていくよりも生け捕りの方がお金になる……でも生け捕りにはたくさんの準備が必要だし、大変だし、結果的に収支はとんとんで……でも君みたいになんの道具も用いずに生け捕りにできればさぞかしお金になるだろうって……だから……君のこと……好き……」



 好感度を上げたせいで発言内容が支離滅裂だ。

 ようするに――金目当ての犯行なのであった。

 それもサイフなんて生易しいものじゃない。俺のこれから出すであろう稼ぎを見込んだ窃盗なのである。



「でも、ボクは気が小さくて……なんて声をかけていいかわからなくって……いきなり『お金になりそうだね、君』って声をかけるのもどうかと思ったし……」

「それはまあどうかと思うなあ……」

「だから、どうしたらいいかわからなくって、そしたらお尻のポケットからサイフが見えて、あんまりにも防犯意識が低いからなにかの罠かもしれないって思ったけど、いてもたってもいられなくって、気付いたら……衝動的にサイフを盗んでカードを入れていたんだ……」



 カードを入れるという行為が果たして本当に衝動的なのかは議論の余地がありそうだった。

 が、目的はわかった。

『サイフは返すつもりだったよ』という言葉がさっきから一個も出ないのは気になるが……



「そっか」



 俺はフッと笑う。

 そのタイミングで――ガチャガチャと外から金属っぽい音が響いた。


 俺は建物の入口側を振り返る。

 そこには――十人ほどの、街の治安を守る衛兵(おまわり)さんたちがいた。



「あ、泥棒はこっちでーす」



 カレンちゃんに通報をお願いしていたが、到着が早い。

 俺が異世界に来た初日にも行動が早かったし、どうやらこの街の衛兵はだいぶ優秀なようだ。

 怪盗ナギはおどろいた顔をする。



「えええっ!? ボクを突き出すの!? この流れで!?」

「……? 泥棒なんだから突き出すでしょ?」

「捨てるの!? ボクを捨てるの!? みゃあ! ひどい!」

「え、でもさ、今日初めて話したし……泥棒だし……あ、ひょっとしてこの世界、泥棒を衛兵に突き出す文化がない?」

「いや、あるけど! 冒険者ギルドで認められてる盗賊(シーフ)はあくまでもモンスター相手の泥棒だから、人から物盗ったら犯罪だけどさ!」

「ああ、よかった……そこまで修羅の国じゃなかった……まあ、だからさ、なんていうのかな……大人しくお縄について?」

「こ、こんな、こんなところで逮捕なんて……ああ!? 力が、足に力が入らない……!? 体がなんか妙に重い!? ソーマ! ソーマぁぁぁぁ! 捨てないで! ボクを捨てないで!」



 そうして怪盗ナギは衛兵に連行されていった。

 俺とホデミは衛兵たちを見送り――



「……そういえばソーマよ、あやつのステータスと好感度戻し忘れておらんか? いや、戻すつもりだったかは知らんが……」

「…………あっ」



 わざとじゃないよ。

 ほんとだよ。

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