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13話 泥棒との平和的な示談方法

『おサイフはいただいた。

 返してほしければ下記の場所までこい。


               怪盗ナギ』



 サイフを入れていたスエットの尻ポケットには、そんなカードが入っていた。

 盗られたのは元の世界から持ってきたサイフである――マジックテープ式の黒いサイフだ。


 マジックテープ式の黒サイフが悪いわけではない。

 便利だ。

 支払時に『バリバリッ』という音がするのがちょっと恥ずかしいけれど、俺は小学生のころから愛用している。


 だが。

 それでも。



「怪盗のくせに盗むもんショボくない!? もっとすごいもん盗めよ、怪盗を名乗るならさあ!」

「怒るべきはそこではなかろうに……」

「……たしかに!」



 聞こえてくるホデミの声で我に返る。

 そうだ、そこじゃない。


 ただ……

 日本で育ったせいか『窃盗被害に遭う』という経験が皆無であり、またどこか安心していたところがあったのだ。

 だからショックは強かった――犯罪被害者がよく抱くと言われる『まさか自分が』というのはまさしくこんな心境なのだろう。


 深呼吸をする。

 それから、状況を確認した。


 今は――怪盗ナギに指定された場所に向かっている最中だ。

 ちなみに場所は冒険者ギルドのはすむかいの建物。

 すっげえ近い。


 バカなのか罠なのかはわからないが……

 まあ、行くしかないだろう。


 なにせ全財産が入っていたのだ。

 俺もホデミもギルドの酒場をメインの勤務地としている以上、コック長は知り合いだ。

 なので『ツケ』でもいいと言ってくれたが……


 ツケってようするに借金じゃん。

 なんで泥棒による損失を俺が働いて補填せねばならないんだ。


 泣き寝入りはしたくない。

 だから罠かもしれなかったが、誘いに乗ることにした。


 で、目的の建物はどうやら二階建ての普通のおうちである。

 このあたりにある建物は商店が多く、今ぐらいの時間――夕方だとどれも入口が解放されているのが普通だが、目的地であるそこは、扉が閉ざされていた。


 左右に開くタイプのそのドアは、しかし鍵がかかってはいない。

 中に入れば石造り特有のひんやりした温度を感じる。

 寒々しい――そう感じてしまうのは、その空間に家具などがいっさいなく、がらんとした薄暗い空間が広がっているのが大きい理由だろう。


 その空間の中央で――

『怪盗ナギ』らしきヤツが仁王立ちしていた。



「フッ、来たね」



 口の端をわずかに上げるだけのクールな笑顔で俺たちを出迎えたのは、獣人の女だった。

 獣人と一口に言っても様々だが、そいつはどうにも猫系統の獣人らしい。

 頭上に生えた耳はピンと立った三角形で、背中側には細長い、先っぽだけ白くなった黒い尻尾がゆらゆら揺れている。


 だがそんなことより気になるのは――胸だった。

 体に貼り付くようなピッタリとした黒い衣装を着ているせいであらわになったボディラインは、ギルド職員として色々なセクシー冒険者を見続けてきた俺でも生唾をのみこむほど素晴らしいものだった。



「おいソーマ、見とれとる場合か!」

「……おっと」



 ホデミの声で我にかえる。

 ……そうだ、そんなことを思っている余裕はない。

 俺は怪盗ナギらしき女に近付いていく。



「ん? どうした? ああ、サイフか。慌てないでも話さえ聞けば――おい、おい、まずは話をしようって言ってるだろ? 剣呑だね君……」



 ナギ(仮)はかすかに笑った。

 たぶん彼女には余裕があるのだ。

 俺なんかが近付いて殴りかかっても、余裕でかわせるだけの余裕が。


 もちろん俺だって、いきなり殴りかかったりはしない。

 俺は――

 そっと、怪盗ナギの、手袋も付けていない手を握った。



「……ん? なに? 握手? 君も案外紳士的――んんんんん!? おい、ちょ、なに、なにこれ、なにこれぇ!? あっ、ああッ!? あっあっ、あッ、あっ! あッあッあアァアアアッ!?」



 筋力などのステータスを下げて好感度を上げた。

 こうして出会って三十秒ほどで俺たちは『怪盗ナギ(仮)』の無力化に成功したのだった。

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