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11話 危険でないクエストなど存在しない

 翌日昼、俺とホデミはさっそくクエスト依頼にあった場所に来ていた。

 街の南には坑道跡がある。

 かつては多くの魔石――マジックアイテムの材料になる石――が採掘できたらしいが、今では枯渇し、立ち入り禁止になっている場所だった。


 俺たちの討伐対象であるモンスター、『にじいろゲル』はその入口にいた。

 いっぱいいた。

 ザッと数えて、うん、まあ、三十体はくだらないんじゃないかな……



「多くなあい!?」

「そ、ソーマ! ソーマ! なんか我ら囲まれとるんじゃが!?」



 ホデミが慌てたように言う。

 だがそんなこと言われるまでもなく、わかっていた。


 囲まれている。

 ヤツらは俺たちを発見するなり、スライム系モンスターのイメージとはかけ離れた速度および連携をもって俺たちのまわりを囲んだのであった。


 おかしい。

 クエスト難易度は星一つ――『冒険者未満の一般人でもがんばればできる難易度』だった。


 そして依頼は『にじいろゲル一体の討伐および回収』だった。

 にじいろゲルっていうのは、虹色の体を持つ、ゲル状の、だいたい小型犬ぐらいの体積を持つモンスターである。

 カレンちゃんからの情報で『にじいろゲルは打撃がほとんど効かないが、斬る、燃やすあたりはよく効く』という話を聞いていたので、俺もホデミも店売りで一番安いダガーを持ってきた。


 ちなみに『ある理由』から防具は用意していない。

 俺はTシャツにスエットという、この世界に来た時の格好だし――

 ホデミも最初に着ていた、肩のはだけた丈の短い赤い着物だ。


 まあ、防具なんかいらないだろう。

 所詮スライムだろ? 楽勝だぜ!

 ぐらいに思っていたのだけれど……


 そのスライムどもは俺たちのまわりで円運動をしながら、徐々に包囲をせばめてきている。

 虹色のスライムによる高速マイムマイムであった。

 なんだこの連携のとれた動きは。

 指揮官でもいんのか。



「ソーマ! 我、だんだん目が回ってきたんじゃが!」

「ジッと見るな!」

「なんか……だんだん……景色が……にじいろに……」

「おい! 帰ってこい! 帰ってくるんだホデミ!」



 催眠作用でもあるのか。

 ホデミは目をぐるぐるさせて、高速円運動をし続けるにじいろゲルの方へふらふら歩いていってしまう。


 俺はホデミを止めるため、彼女の長すぎる赤い髪をつかもうとした。

 しかし、一瞬遅く――



「あっ」



 ホデミがにじいろゲルの円運動に巻きこまれる。

 にじいろゲルの円に巻きこまれたホデミは、洗濯機にたゆたうハンカチみたいにもみくちゃにされていった。



「ホデミィ!」



 叫ぶが、どうやら「うえ……目が、目が回る……気持ち悪……うぐ、うぐえ、うげえ」という声を出すだけが精一杯らしい。

 ――そう、あれこそが、俺たちが防具を用意しなかった理由。


『にじいろゲルは、こちらをケガさせるような攻撃をしない』。

 だから防具は必要ない。

 じゃあなにをしてくるのかというと――一度にじいろゲルの上に乗せられてしまったが最後、吐くまでロデオを強要されるのだ……!


 動きが速すぎて見えないが、きっとホデミの手足はガッチリとにじいろゲルの柔らかな体にとりこまれているに違いない。

 搭乗者が落ちないようにという見事すぎるにじいろゲルの配慮であった。

 なんて迷惑……!



「たしゅけ、たしゅけて……ソーマ(しょーま)、たしゅけ……」



 三半規管に深刻なダメージを負っているのだろう。

 ろれつさえ回っていない。

 そしてにじいろゲルどもの包囲は徐々に狭まっていっている。

 このままでは、俺もいずれゲロロデオに付き合わされることに……!


 まあ吐くだけだしホデミは放っておいても問題ない。

 ただし、吐くまで回されたあとでにじいろゲルの討伐ができる状態でいられるとは思えない。

 だからせめて、一体だけでも倒すか拘束しないと、クエスト失敗になってしまう……!


 しかしこの包囲は抜けられない。

 また、素人の俺がやみくもにダガーを振り回せば、円運動にとりこまれているホデミをも傷つけかねない。


 ホデミを傷つけるわけにはいかない。

 だって――あいつの治療費、俺持ちになるから!



「こうなったら――吐いてでも、一体だけは倒して回収する!」



 決意して、ダガーを捨てる。

 そして――もはや円運動が速すぎて虹色の壁みたいになっているゲルどもの方へ踏み出す。


 この高速で動き続けるゲルどもの壁を、避けるのも抜けるのも不可能だろう。

 だが――触れるだけなら。

 触れてステータスを下げるだけなら、できるはずだ!


 吐くほど振り回されても――ステータスさえ限界まで下げていれば、なんとか倒せる!

 ………………かもしれない!



「うおおおお! どれでもいいからなにかに触れぇぇぇぇ!」



 間違えてホデミに触ってもいいように、好感度上昇の準備もしつつ――

 俺はにじいろゲルの壁に右拳を突き入れた。

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