10話 暴力と縁のない生涯を送ってきました
「えーと、でもですね、ソーマさん、一つ問題がありまして」
「なに?」
「この水晶にはステータスから適正職業を判断する機能もついているんですけど……」
適正職業。
剣士とか魔法使いとかだ。
「それで? 俺はどんな職業に向いてるの?」
「それがですね……特にないんです」
「……え?」
「ステータスは冒険者としての基準を満たしているんですが、適正職業が『ナシ』と出ていまして……」
「それ、どういう基準で判定してるの……?」
「ステータスの伸び方とか職業への適性とかはその人の魂のかたち――生き様に大きく左右されるんです。どうにもソーマさんは『戦いに向いてない』と判断されてしまったようで……」
「まあ、人と争わずに生きてきたからね……」
二十一世紀の都市郊外に住む日本人高校生だ。
暴力に携わる方が難しい人生である。
「ソーマさんはどんなケンカも一瞬で仲裁してしまいますからね……でも、いいと思いますよ! 殴り合いはやっぱり野蛮ですし、ああいうの、すごく素敵だと思います!」
「…………」
本当に?
本気でそう思うの?
衆人環視の前で男をあえがせるあの仲裁、本当に素敵?
だとしたら、俺の中でカレンちゃんのキャラクター性にだいぶ変化が生じるのだけれど……
まあ、その、なんだ。
いい子だし、きっと社交辞令として言ってくれているのだろう。
「でも困ったな、適正職業ナシって、つまり冒険者に向かないってことだろ?」
「そうですね……まあでも、戦士じゃなきゃ剣を振っちゃいけないとか、魔法使いじゃなきゃ魔法を唱えちゃいけないみたいなことはないですし、大丈夫ですよ!」
「まあ、そうか。どうせ一回、ホデミを納得させるために連れて行くだけだしね」
「ええ! それに『冒険者は甘くない』ことを知るためには、このぐらいの実力がちょうどいいと思います!」
「カレンちゃん、意外とものすごいこと言うよね……」
「え? え? 私、なにかおかしなこと言いました!?」
自覚がないようだった。
いや、俺もうまく言えないが……
なんとなく厳しくない?
「……まあとにかく、向いてないなら向いてないなりに、がんばってみるか」
「そうですね。難易度の低いクエスト選び、お手伝いしますよ」
「うん、お願いするよ。まあどうせ一回きりでホデミも飽きるだろうし……お試しでね」
「はい。死ぬ危険だけは絶対にないクエスト、探しますね!」
「それは心強いな」
薬草摘みとかだろうか?
っていうか、どんなクエストがあるんだろう?
ギルド職員はやっているものの、主な業務は酒場のホールスタッフ及びケンカの仲裁だから、クエスト内容とかにはあんまり詳しくないんだよな……
「じゃあソーマさん、せっかくですから、実際にクエストを受けつつ、受付業務を覚えていきましょうか」
「お、いいね。……ああ、だけど、冒険者とギルド職員って両立できるもんなの? ギルド職員をやめるつもりはないんだけど……」
「不可能ではありませんよ。ギルド職員はシフト制ですし、休みの日に副業をやるぶんには禁止されてませんから」
「あ、そう言われればそうだね」
「ただ、冒険者でもあると『ヘルプ』を頼まれた場合に『ギルド職員だから』という理由で発生するヘルプ料金や、ケガをした時に治療費が冒険者持ちになるなどの特典は利用できなくなります」
「なるほど」
「あとは緊急クエストなどが出た場合、ギルドの職務より優先されますね」
「緊急クエスト?」
「街に魔王側の幹部が来たとか、超巨大ドラゴンが街を目指して進行中とか、そういうものですね。まあ、この街は最前線から遠いので滅多にありませんけど」
「……超巨大ドラゴンが接近中って、なに、どう対応するの?」
「倒せればドラゴン肉パーティーになりますけど、まあ、この街はみなさんそこまで強くないので……痛い思いをさせて帰ってもらったり、壁を作って軌道を逸らしたりですね」
「軌道が逸れたドラゴンは他の街に行ったりしないの?」
「他の街に行ったら、他の街の冒険者が対応しますよ?」
「……問題が解決してなくない?」
「この街は守られますけど?」
ちょっとなに言ってるのかわかんないです、みたいな顔をされてしまった。
この世界は街ごとの独立性が高すぎるようだ。
もっと連携して、人類。
「……とにかくわかったよ。まあ、ヘルプなんて頼む人最初からいないし……緊急クエストの方もどうにかなる……かなあ?」
「では、クエストの受け方と、パーティー募集のやり方を説明しますね」
「うん、お願い」
「あと……ホデミちゃんがかわいそうなのでクエストを受けてほしいって言ったのは私ですけど……でも、ソーマさんは争いのない生活が向いてると思います」
「カレンちゃん……」
「だからホデミちゃんがこれから受けるクエストで才能のなさに納得してあきらめたら、早めに冒険者を引退して、ギルド職員一本で一緒にがんばりましょうね?」
「うん……でももうちょっとお手柔らかに言ってあげて」
「はい?」
カレンちゃんが首をかしげる。
その下方――カレンちゃん側からは見えない受付カウンター下部で……
未だに寝転がっているホデミが「才能あるし……我、神だし……神だし……」とブツブツ言っていた。




