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1話 チート能力に制約はいりますか?

「名前、結城(ゆうき)颯真(そうま)。享年、十七歳……あー、平凡じゃ。あー、つまらん。いつもいつも飽きもせず若い身空で死におって。もっと命を大事にせんか馬鹿者が」



 気付けば座敷牢みたいなところで正座させられていた。

 目の前には赤い髪を長く、長く、とても長く伸ばした幼い女の子がいる。

 その子はやけにけだるそうに、肩のはだけた丈の短い赤い着物姿で、肘掛けに頬杖をついていた。



「だが喜べ。貴様は若くして死んだお陰でチャンスをもらった。そう、異世界転移のな!」

「異世界転移?」

「貴様の知らぬ世界へ、今までの記憶や経験を引き継ぎ転移できるというシステムじゃな。若くして亡くなった者は『ちょっと生まれた世界の難易度が高すぎた』ということで、次の人生から生きる難易度の低い世界に行ける仕組みじゃ。よかったのう」



 女の子は赤い瞳を細める。

 やけに色気のある笑顔だった――幼い容姿。ほのかに光を放つような、床に広がった長い赤の髪。

 人ならざる魅力。

 ここはどこで――彼女は、なんなんだ?



「あ、ちなみに、我は神である。最近ようやく神に昇格し、ホデミという名を賜った者じゃ」



 神。

 信仰は特にないが、なるほど納得してしまうようなシチュエーション、そして容姿だ。

 幼いのに、美人すぎて、妖艶すぎる彼女は、たしかに神か、少なくとも人外のモノだろう。



「で、普段ならば余録を与え貴様を次なる世界にサッサと送り出すところなんじゃが……最近ちょっと飽きてきた。異世界転移者多すぎぃ!」

「……えええ?」



 今、『飽きた』って言った?

 神様――ホデミは、ニヤリと幼い容姿に見合わない妖艶な笑みを浮かべる。



「そこで、ちょっと変わったことをしようと思う」

「変わったことって……?」

「普通ならば余録――強力な能力を与え、次の人生こそ謳歌できるように配慮し貴様を次の世界に送り出すところじゃが、少々飽きたゆえ、貴様には『制約』をもうけようと思う。貴様が初の試みじゃ! よかったのう!」

「え、なんで俺だけ……」

「ではそういう我の意思に基づき、貴様に『余録』を――『ちーと能力』だか『超絶すきる』だかいうハイカラなのをやろう。寄れ。ほれ、こっちへ来い」



 手招きされる。

 なんだかイヤな予感もしたが、従う以外にどうしたらいいかもわからない。

 俺はホデミへずりずりと近寄った。



「よしよし。我は我の命に素直に従う者は嫌いではないぞ? さ、手を握れ」

「握りました」

「ふーむ。貴様はどうにも補助系じゃな」

「補助系?」

「『ちーと能力』には向き不向きがあってのう。肉体強化などに向く者もおれば、補助妨害などに向く者もおる。生前の性格や境遇が深くかかわっておるようじゃが詳しくは知らん」

「あなた神なんですよね?」

「末席じゃ。ゆえに毎日毎日朝六時から夜十一時まで若くして亡くなった者を異世界に送るとかいう下働きをさせられておる。……ふーむ、貴様が使えるのは『能力操作』の力じゃな」

「能力操作?」

「他者の『ステータス』を自由に操作できる力じゃな。本来ならば制約なしで行使できるんじゃが……我好みではないので制約をもうける」

「制約はいりませんけど……」

「そうじゃな、『己のステータスはいじれない』『他者のステータスをいじる時には、対象と接触しなければならない』。このぐらいでよかろう。このぐらいが適度に苦しいはずじゃ」

「あの、そもそもステータスってなんですか?」

「素早さとか腕力とかじゃろ。たぶん貴様のがくわしい」

「えええ……」

「まあ上げたり下げたりは自由でよかろう。うむ、こんなところじゃな。まあ、貴様が次の異世界で我が満足するぐらい苦労したら制約は取っ払ってやる。途中で弱体化されることだけはないのでそこは安心してよいぞ」

「あの、なんでそんな、制約なんて……俺の前の人まではそういうのなかったんですよね?」



 思わず問いかけた。

 そりゃあ――制約があろうが能力をもらえるんだから、こんなこと言ってはいけないのかもしれない。


 だけれど、納得がいかなかった。

 俺の前の人はなにもなかったっていう話なのに、なんで俺だけ……?



「いいかソーマよ、我はもともと、ただの炎であった」

「……はあ」

「千年間人知れず燃え続け、雨の日も風の日も絶えることなく在り続け、ようやく神の末席に加わり、偉大なる火炎の始祖から名の一部を賜り、神となった」

「…………はあ、すごいですね」

「うむ。そして神になったあとも、毎日毎日、朝六時から夜十一時まで、貴様らのような転移者に余録を――神の力の一端を授け、異世界へ送り出す日々じゃ」

「……はあ、それで?」

「つまり、我は苦労している」

「……」

「そして我は、自分が苦労しているのに、他者が苦労しないのは我慢ならん」

「…………」

「そういうことじゃな」

「え、で、なんで俺……なんですか? 今までの人は制約なしだったわけですよね? なんでいきなり俺から……?」

「さっき転移させた若造がやたらムカつくやつでな」

「はあ」

「転移させたあと、『次来るやつは絶対にタダで異世界に送ってやらない。さもなくば腹のムシがおさまらん』と思ったんじゃ」

「……」

「そして『次』に来たのが貴様だったんじゃな。運がなかったのう」

「…………八つ当たりじゃねーか!」

「そうじゃが?」



 悪びれる気配がなかった。

 この、この赤いロリ神……邪神だ!



「納得いかねえ!」

「そうかそうか。では異世界へご案内ー☆」



 パチン、とホデミが指を鳴らす。

 すると背後からすさまじい吸引力を感じた。

 振り返れば、そこには『真っ青な大穴』が空いていて、どうやら『それ』が俺を吸いこもうとしているようだった。

 異世界への入口なのだろう。


 俺は――

 ホデミの手を強くつかんで、抵抗する。



「納得、いかない……!」

「おい馬鹿! 誰かー! 誰かー! 変なお兄ちゃんがわたしの手をギュッてするー! 助けてー!」

「おいやめろ! 急に見た目相応のしゃべり方になるな! と、とにかく、八つ当たりで変な制約をつけられて異世界送りとかやだよ! 理由が八つ当たりって! 俺悪くないじゃん!」

「いいや、貴様が悪い。強いて言うなら――貴様の運が悪かった」

「悪いのはあんたの性格だよ!」

「ともかくその手を放せ! そしておとなしく異世界で我好みの苦労をせよ!」

「くそっ!」



 背後からの吸引力は強い。

 もう下半身は完全に浮いていて、俺の体勢は五月のこいのぼりみたいだ。

 ホデミの手を握った俺の手も、離れるのは時間の問題だろう。


 というかこれだけの吸引力を浴びている俺につかまれているのに、ホデミは腰を浮かせることさえなく不動の姿勢のままだ。

 さすが神ということなのか。


 あきらめるしかないのか?

 だがこう、なんかものすごく納得できない……!


 どうにかならないだろうか――

 ――あ。



「……俺の能力は」

「ん?」

「接触してれば発動できて、上げ下げに制限はなかったな? つまり――神様を赤子同然にもできるんじゃないか?」

「………………あっ」



 ホデミが手を見た。

 俺につかまれた、自分の手を。



「お、おい、なにを考えておる? そうじゃな、わかった、話し合おう。冷静になれば解決策が見つかるはずじゃ」

「じゃあ制約を解いてくれ」

「いや、まあ、その……もう能力のロックはすんでしまったわけじゃし? 少なくとも異世界に降り立つまで、我はもう手出しできんというか……異世界に降りさえすれば! 降りさえすればすぐにでも解いてやらんこともない!」

「信用できるか! 今ここで制約を解かないならお前の全ステータスを下げてやる!」

「やめっ、やめろ! 苦労して、ここまで苦労してやっと神の末席になったのに! どうしてそんなひどいことを平然とできるんじゃ!? 制約があったところで、たかだか貴様の一生が棒に振られるかどうかだというのに!? 我のが大事! だって我、千年間がんばったもん!」

「限界まで下がれぇぇぇぇぇ!」

「やめろぉぉぉぉぉ!」



 ふわっ。

 ステータスを下げられたホデミの体が、吸引力に負けて浮かぶ。


 そこからはもう早かった。

 俺とホデミは、俺の背後に空いた穴に吸いこまれ、そして――

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