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異世界迷宮で、血を統べる  作者: 吸血者
4/18

痛い

痛いというより熱い

灼熱の痛みが横腹から発せられてる


「ぐぅ…」


呻き声がもれる

目を開けるとブロズサイスが前方にいた

どうやら数秒間気絶していたようだ

勢いよく起き上がる

腹の痛みでうずくまる

ブロズサイスがそれに気づきこちらを振り向く


やばい…っ

逃げなきゃっ


腹の痛みを無視して走り出す

うまく力が入らない、血が止めどなく溢れる

ドバドバと出る紅の液体を視界の隅に収めつつ懸命に走る。

曲がり角を曲がる

次も曲がる。その次もその次も

なんども曲がり、どうにかして魔物から逃げようとする

脂汗が止まらない

急に寒くなってきている

体温が低下しているようだ

目も霞んできた

息遣いも荒く、走っているというより既に歩いてると言ってもいいスピードだった

後ろから奴の気配がする

このままでは追いつかれる、どうすれば良い?

どうすれば?どうすれば?

とめどなく溢れでる疑問

もうダメだ、おしまいだ、俺はここで死ぬ。

このどことも分からないようなところで、異形の怪物によって殺される

意味がわからない。その理不尽さに腹がたつ

もうだめだ

そう思いつつ何度目かの曲がり角を曲がった先に光が見えた

それはまさに希望の光だった


「あ、あれは…」


地上、或いは出口だった


よし!まだおわっていないあそこから外に飛び出し人に助けを求めよう


まだ死ぬと決まったわけではない

血が大量に出ていることもきにせず、今は全力で走り続ける

全力で出口をくぐり抜ける

視界が一瞬にして広がった

辺りは暗く、どうやらまだ夜らしい

月が大きい、手を伸ばせば届きそうなほどに

その星の数にまず驚く、そして自然の多さに驚き、遠くに見える城壁のようなものにも驚いた

勢い余って外に出たため、階段を踏み外す

急な階段ではなく、スロープほどの傾斜に階段が作ってあった

腹を抑えつつ階段を転げ落ちる

全身から悲鳴を感じる

まさに今の自分には満身創痍という言葉がお似合いであろう

大の字になり仰向けで倒れる

荒い息を整える

全力のダッシュと死と隣り合わせの状況から、アドレナリンが大量に分泌されているのだろう、腹の痛みが和らいだ気がする…。

息が整うのをまって周囲を見渡すと、人が1人もおらず、助けを呼ぶこともできない。

このままでは出血死で死ぬ

むしろここまで持っている方が不思議である


俺はいくらか痛みの和らいだーーたぶんアドレナリンのおかげーー腹の傷を抑えつつ城壁の様なところまで歩いていった



◇◇◇


途中からは訳がわからなかった

息は切れ、痛みもなんだかよくわからない。

視界はぼやけ、平衡感覚は狂っている

吐き気が止まらない

気持ち悪い

フラフラと城壁を通り抜けるとそこには街が広がっていた。


人の気配に緊張が解けたのか意識を失う

暗転ーー


目を開ける

今日は何度も気絶してるなと益体も無い考えが頭をよぎる


その町は現代の世界には無いような作りだった

西洋のヨーロッパのような外観

中世という言葉が浮かぶ

まるでタイムスリップしたみたいだ

道に沿うように街頭のようなものが立ち並んでいた

街灯から発せられる朧げな光が酷く美しかった事が印象的だった


腹の傷が痛み出す

ズキズキとする

どうやらアドレナリンが切れてきたらしい


「ぐっ…」


血の量が半端ない

服が真っ赤に染まっている


これはやばいな…

これ以上血を失ったら本当に出血死する


ーー死


その言葉が頭をよぎる

心臓が暴れ出し、血が溢れる


やばい!

ダメだ、興奮したら血が出てしまう

落ち着け、冷静になれ

自分に言い聞かせる


「ステイクール」


どこがで覚えた言葉を口にする

もうこれ以上はもたない

半ば以上諦めていた


体温が下がり、震えが止まらない

もうだめだ、今日は疲れた

とりあえず休もう


これ以上はほんの少しも頑張れる気がしなかった

力もやる気も湧いてこない

体を引き起こし、路地裏に入る

せめて人目に触れないところで休もう


自分に休むと言い聞かせる

しかしショウマは分かっていた

ここで寝たらどうなるかを

それはきっととても楽なことだ

諦めた訳ではないがもう何をする気力はない

体が悲鳴を上げている

やすみたい、とにかく横になって、瞼を閉じて眠りにつきたい

体が休息を求める


ショウマはそのまま、甘美な闇へと引き込まれていったーー



◇◇◇



目を開ける

壁が見える

石造りの壁だ

どうやら自分は狭い路地裏で寝転んでいたらしい

頭が動かない

靄が掛かったように、何も思い出せなかった

肌寒い


なにしてたんだっけ…?


思い出そうとしてもうまく思い出せなかった

喉が少し乾いていた

その後10分程横になっていた

段々と昨晩の事を思い出して来た


「ーーっ!?」


腹の傷を思い出す

血が固まって真っ黒になったパーカーとシャツをめくる

ーー傷は治っていた

しかしそこには大穴が開いていたという跡が残っていた

酷い跡だ、まだ少しキリキリと痛い


なぜ治ったのか

なぜ生きているのか

わからない事だらけだがショウマはそこまで頭が回らなかった

血が足りなく、頭が回転していなかった

立ち上がる

フラつき壁に手をつきつつ大通りへと出る


朝日が眩しい、思わず片手で目に入る日光をカットしつつ大通りを観察する

そこにはたくさんの人がいた

現実世界で言えば通勤といったところか

そんな風に思えた

たくさんの人々が右へ左へ歩いていた


顔は日本人と違ってホリが深い

どうやら人間もヨーロッパ風らしい


その中にあるものを見つける

フサフサしていて、三角形の茶色い耳だ

それはまさしく猫の様な耳だった


「ネコミミ…」


思わず呟く

日本において、隠れオタクであったショウマにはそれが正しく獣人である事が理解できた


気分が良くなる

本物のネコミミだ

高揚し、手汗がでる

この世界にはどうやら亜人が存在しているらしい

興奮した事で腹の傷がキリキリと痛む


己の状況を思い出し、冷静になる

ネコミミを愛でている時間はない

とりあえず情報収集をしなくてはならない


場所を変えようと思い辺りを歩く

血を失ったせいか気持ち悪さと吐き気がこみ上げる

人の多い方へと向かう

どうやら市が開かれているらしい

見たことのない野菜や魚、肉が並んでいる

人が多いため血の跡が目立つことはないようだ


物陰から伺う、どうやら言語は理解できる

書いてある文字は変な記号にしか見えないが、意識するとなんと書いてあるかが理解できた


どうやらコミュニケーションをとることに関しては問題なさそうだ


次はお金を見る

さすがに日本の通貨である円は使えないだろう

店の人に渡す瞬間に目を凝らす

銅貨や、たまに銀貨を目にする


見たことのない装飾だった

どうやら本当に日本ではないらしい

どこか気づいてはいたが、必死に否定していたことだった

信じたくない


しかし、現実は残酷であった


ネガティヴな思考は良くない

頭を振って忘れるように努める

今は生きることが大事だ


次は人を観察する

やはり外国人のような風貌だ

1人の男に意識を集中する

表示がでる


個体情報

種族 人族(ヒューマン)

性別 男

名前 アルゥ

年齢 34

lev 9


名前が見える

どうやらあの人族はアルゥというらしい

姓はないのかと思ったがその他の人にも姓があるものはいなかった


まるでゲームみたいだ

変に現実的で、どこか胡散臭い

半分ゲームみたいな世界に自分はいるらしい


そう評価し、自分の状態を確認する

体調は良いとは言えない

色々と情報収集している間も頭が上手く動いてないという感じがあった

気持ち悪い、腹の傷がキリキリと締め付けるように痛む

自分に意識を集中すると表示が見えた


個体情報


種族 …

名前 ショウマ・シンドウ

HP28/31

年齢18

lev 1


状態異常

混乱Ⅰ

記憶操作Ⅲ

貧血Ⅱ


混乱の値が減っていることに気がつく

どうやら少しは落ち着いているらしい

その代わり貧血が増えた

道理で頭が働かない訳だ


ていうかこの種族ってなんだ?

昨日見たときはなかった


物思いに耽っていた

路地裏に近いという事もあり、目をつけられるまでに、そんな時間はかからなかった

後ろからいきなり手を回される

口を押さえられ声が出せない


ーーっ!?


そのまま引きずり込まれる

その力を振りほどくのは不可能だった…



◇◇◇



乱暴に叩きつけられる

頭を打ち血が出る

俺を攫った相手を見る

武器や防具をその身に纏った男が3人いた

意識を集中すると表示が見える


個体情報


名前 キリス

HP82/82

種族 人族

性別 男

職業 盗賊

年齢 30

lev 7


名前 エテオ

HP88/88

種族 人族

性別 男

職業 盗賊

年齢 32

lev 8


名前 エスカー

HP91/91

MP13/13

種族 人族

性別 男

職業 盗賊

年齢 36

lev 11


3人の表示を観察する

エスカーと呼ばれる男だけレベルが高い

エスカーは真ん中に立つ男で左目に大きな傷跡があり、隻眼のようだった

ザ・盗賊といった人相だった


恐怖がこみ上げる

なにをする気だ

静かに事が進むとは思えない

体が震える

脳が警鐘を鳴らす

ここから逃げなくては

緊張で口が乾燥し、喉が乾く

脂汗は大量に出、手汗をズボンで拭く


エスカーが声をかけて来た


「坊主、悪いな。悔しかったら祟って出てこいッ!!」


絶対に悪いと思っていない

満面の笑みで剣を振るう

肉厚の刀身

ギラギラと光を反射しながら迫り来るその両手剣が俺の腹を貫く


「ゴブッ」


大量の血が出る

死んだ


灼熱のマグマを直接ハラワタに流し込まれたかのような激痛

痛い痛い痛い痛い痛い痛い


死にたくない

死ぬのは嫌だ

怖い

誰か助けて

誰でもいい

この地獄から救ってくれ


恐怖

死にたくない

死ぬ




ーーー命が散った















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