決着
エスカーは冷や汗を浮かべつつ、自身のしでかした事を後悔していた
後ろで力の奔流を感じる
魔力が爆ぜた
ーードカァアン!!
紅い魔力の粒子が拡散、収束を繰り返し後ろの建物を爆発させた
エスカーは魔法使いではないため、その魔法がなんと言う魔法かはわからない
しかし、紅い魔力の粒子と燃え盛る炎を見て、火属性の魔法という事を理解する
「やっちまったなぁ…」
後悔の念とともに自然と出た言葉に、リューラが突っ込む
「口じゃなくて手を動かせよッ!!」
「動かしたくてもあんな遠距離攻撃に何ができるっていうんだッ!」
事の発端はエスカーが走りつつ抱えている純白の少女だった。
奴隷として身売りされていたところをぶんどった商品
髪は短くショートで、その全てが白く、まるで天使の様な外見だった
この奴隷は高い価値で扱われていた
索敵能力が高く、育てれば魔法も覚えるらしい
価値の高いことだけはある
この奴隷を貴族であるエースに売ろうとした
しかし、欲に駆られた挙句、金だけとって逃げようとしたのだ
結果、貴族の怒りを買い逃走中というわけだった
貴族の名前はエース・フロント
フロント家と言えば10人中10人が知っているであろう大貴族だ
そんな大貴族に喧嘩を売った自分を殺してやりたい
後悔していても仕方がないので仕方なく、逃げる算段を立てる
自分たちの武装は剣などで遠距離に対応していない
リューラなんかは魔法を使えるがこの状態では不可能だろう
対してフロントは遠距離魔法に剣術まで一級品だ
エースはこの国の最高司祭を守る騎士団、天上の騎士であった
幹部集団7席中第7席ではあったがその実力はもはや、自分たちでは手に負えなかった
そろそろ体力の限界も近い、勝負を仕掛けるならばこのタイミングしかないだろう
「リューラッ!逃げるのはもう無理だ!ここで決着をつけるぞッ!」
「チッ!やるしかないようだね」
逃げるのをやめ、後ろを振り返る
相変わらず遠くから魔法を連発している
奴隷はすでに気絶しているようだ
両手剣を抜きつつ腰に付いている袋に手を当てる
奴隷を売ると言って得た多額の金貨であった
商品を渡さずに、金だけ奪ってきたのだが…
エースが2人を見て足を止める
どんな身体能力をしているのかは知らないが、屋根を上を飛び移りながらこちらに接近していた
「ようやく諦めたようだな!薄汚い盗賊共ッ!!」
エースが魔力を練る
抜け目が無かった
この距離からの魔法
防ぐ術も反撃する力もない
ーー終わった…
エスカーが諦めた瞬間、エースが突然爆発した。
◇◇◇
エースはようやく諦めた盗賊共を見て笑みを浮かべる
逃げるだけしか能の無い下等な盗賊め
「ようやく諦めたようだな!薄汚い盗賊共ッ!!」
絶対の自信を浮かべつつ声を出す
ここで終わりだ
魔力を練る
周囲に紅い魔力の粒子が拡散しする
何度も反復し、練習した己の魔法
感覚が研ぎ澄まされる。外す訳がない
小さく魔法名を発する
「紅蓮の散華」
魔力の粒子が収束し、魔法が放たれようとしていた
その瞬間視界の端に高速で動くものが来る
「何ッ!?」
それは剣を横に薙ぎつつぶつかってきた
自身のいた、屋根が衝撃に耐え兼ね、爆散する。
◇◇◇
「あっぶねぇ…」
ショウマは小さく呟く
今のは危なかった
あの2人は俺が殺さないといけない
このエースという男は今、魔法によって2人を殺そうとしていた
少しでも遅かったら間に合わなかった
エストックで無造作に斬りつけ、鍔迫り合いになる
エースが口を開く
「貴様ッ、何者だッ!?」
「テメェこそ何者だッ!?あいつらは俺の獲物だぞ」
「知ったことか、我がフロント家に喧嘩を売った事を後悔させねばならないのだ。邪魔をするなァッ!!」
鍔迫り合いから一転、強引に振り払った剣の威力で吹き飛ばされる
ーーズザァァァア
屋根の上をブーツでこすりつつ踏ん張る
なんて力だ、これがレベルの差か
純粋な力比べでは勝てそうにない
やはり勝機は超再生…
エースがこちらを見据え、言葉を投げかけてくる
「どこの誰かは知らんが、邪魔立て無用ッ!さもなくば、貴様も斬る事になるぞ…」
「テメェこそ邪魔すんな!奴らは俺の獲物だ。邪魔するってんなら殺す…」
「ーーっ!?」
エースはショウマが放った殺気に半歩後退してしまう
その行為を自覚した瞬間、怒りが沸く
この貴族であるエース・フロントを竦ませるだとっ!?
このようなこと、一生の恥だ。屈辱だ
「いいだろう。貴様はここで殺す」
「御託はいい、かかってきなッ」
同時に屋根を蹴り再び鍔迫り合いになる
純粋な力比べ、しかし、その一瞬でショウマは左手でダガーを引き抜き、神速の斬撃を首元を目掛けて斬りはらう
スゥウッ
それを躱したエースは冷や汗を流す
今の動き、二刀使い、こいつ、侮れないッ
首の薄皮1枚を斬られ冷や汗が湧き出る
「チッ。外したか、さすがにこのレベル差はキツイな」
そのいかにもレベルがわかるような素ぶりにエースはまた腹をたてる
「まるで、レベル差が分かるような物言いだな」
「事実しか言ってない。テメェはつえぇよ、俺よりもな」
冷静に状況を判断し、彼我の戦力差を比較する
こいつは本当に侮れない
どうしてこんな腕の立つ物が盗賊紛いの事をしているのか
強い好奇心がでてきた
もしもこんな出会いをしていなかったら我が天上の騎士団に入団出来たかもしれない
流石に分が悪いな…
一旦撤退し、上への報告を優先するか…
冷静なショウマに対してエースも冷静であった
このままあの2人が仲間になられても困る
さすがに3人相手はキツイ
1番やばいのは間違いなくコイツだが…
冷静にかつ、一瞬で判断し、戦略を撤退に変える
体内で魔力を練る、紅い魔力の粒子が拡散しする
「させるかよォッ!!」
魔法の兆候を感じ取り、ショウマが地をかける
圧倒的な加速度で距離を詰め、エストックによる刺突を繰り出す
しかし、それ読んでいたエースは刺突を弾きつつ後退し、魔法を完成させる
「紅の硝煙」
魔力の粒子が収束し、紅い煙幕が広がる
「なっ!?」
ショウマは魔法に備え距離をとった
煙幕が消えた時、そこにエースはいなかった
「チッ…」
強敵は逃したが、まだ本命が残ってる
そう思い直して宿敵の元へ向かった
「久しぶりだな」
ショウマが声をかける
「久しぶりだな、坊主。助けてくれて礼を言うぜ」
感謝の気持ちがこれっぽっちも入っていない言葉を投げかけてくる
「会いたくて会いたくて待ち切れなかったよ」
「俺らにか?」
「勿論だ、あぁ、会いたかった」
「物騒だな、気持ちが篭ってないぜ?」
「お互い様だろ?」
ショウマはニヤリとしながら相手を見据える
「私も会いたかったわ、ショウマくん」
凄惨な笑みを浮かべてリューラが言う
「相変わらず気色悪いぜ」
「お互い様ね?」
両者ともに静かになる
もうこれ以上、話すことは無い
静かに武器を構える
エスカーとショウマが同時に地を蹴る
距離が一瞬にして0になり剣戟を結ぶ
神速の突きと大振りな薙ぎ払い
互いに隙を探しつつの攻防
そこへリューラが横から斬りつけてくる
あわててダガーでそれを防ぐ
前方から大上段の一撃
これは受け切れないッ!!
すかさず回避を選択する
リューラを思い切り押し飛ばし、エスカーの剣をいなしつつ横に跳んで回避する
リューラとエスカーが同時に地を蹴る
左右からの挟み撃ちだ
リューラの斬撃が少しはやく到達する
その斬撃をエストックで受け流しつつダガーを腕に突き立てる
「ーーッ!?」
声にならない悲鳴をあげるリューラ
その隙を逃さずに腕を握る
肘の関節が丁度真ん中に来るように両手で掴みそのまま膝蹴りを繰り出す
ーーボキッ!!
骨の折れる音
「ギャァァアアッ!」
リューラが悲鳴をあげる
おった瞬間にエスカーが辿り着き、両手剣による重い一撃を放ってくる
リューラを相手にしていたため、対処できない
ーーならばっ最小の被害にッ!!
半身をずらす
ーーズリュウ
左腕が切断される
痛みに一瞬硬直するが、もう慣れた
あの地下室での出来事を思い出しつつ覚悟を決める
ーー過去を、、断ち切るッ!!
右手を一閃
エストックの斬撃を喉笛にくらいエスカーが出血しながら倒れる
トドメを刺すべくエスカーの前に立つ
「つ、つぇえな…。完敗だ。」
「ああ、さようなら」
刺突により喉に穴が開く
エスカーは絶命した。
後1人…。
悲鳴を上げている、女に近寄る
「く、くるなぁッ!!」
「そのくらいで、何を言ってる?」
「うるさいッ!化け物めッ!!」
「それはどっちだよ…」
苦笑を浮かべる
やっとここまできた
思えば、この人にはいつも救われていた
いい人だった
唯一のこの世界でのこころの支えだった
雨が降り始める
雨が目元に落ち、流れ落ちる
「ありがとう…。さようなら…」
エストックを頭上に挙げる
「や、ヤメロォォオオ!!」
ーーザクッ
喉元に風穴を開ける
復讐が達成された瞬間だった
歓喜に身を震わす
やっとだ、やっとここまできた
そうは言って見たものの、心には虚しさが広がっていた
虚脱感が襲う
虚しさ、せつなさがこみ上げてくる
心が泣いていた
何もしたくない、何にもやる気が出ない
そんな気分だった
まるでこの空のようだった
俺の心も悲しがっているのかな…
上を見上げる
暗い空が広がっていた
ショウマの心を代弁するかのように大粒の雨を降らせている
悲しさとは少し違う
本当だったら悲しいんだろう
心には虚無が広がっていた
そんなとき、声が聞こえた
「ぅ、んん…」
声のした方を向く
そこには純白の少女が倒れていた
ようやく決着着きましたね
2000pvありがとうございます
ブックマークも増えて嬉しいです
ようやくヒロイン登場