疲労 ガイアside
スミマセン…!
…。
「なんでこうなるかな。私はね、面倒くさい客はお断りだといつもいっているんだ!」
客が帰った後の店内で響いた怒声の主は、均衡の取れた深窓の令嬢のように白い肢体アンティークな店内によく似合う暗い紫でハイネックのドレスに包んだ、背中の中程まで伸びた緩くカールした金髪と、毒々しいほどに鮮やかで見るもの全てを魅了するほど艶めかしい深紅の瞳をもつ美女。…オレのマスターだった。鎖骨の辺りにつけられた金のレリーフが施され天使の羽をかたどったものが付けられたエメラルドの飾りが彼女の人間離れした美しさをより引き立てている。
…そろそろ現実逃避も終わりにするか。
はぁ、今回の客は本当にいただけなかった。理由は、まぁ、マスターについての話を聞けばわかるだろ。
マスターいわく、この世界は『乙女ゲーム』とやらの世界らしい。そして、マスターは悪役令嬢というものに生まれたという。
その事実に気づいた、つまり前世の記憶が戻ったとき、マスターは絶望したそうだ。なぜ自分なのか、と。それからマスターは、破滅しないため、自分ができる限りのことをやったそうだ。
しかし、マスターはとある日のパーティーで、やってもいない罪を着せられ第一王子から婚約破棄を受けた。マスターは絶望したそうだ。それはそうだろう。というのがオレの意見だ。マスターはワガママビッチのアホ娘にうつつを抜かしたバカ王子の代わりに仕事をかたずけていたというのに。
国王夫妻や周囲の人間たちはマスターのことを理解していたが、あのバカ王子が王族として発言してしまった以上、覆せば信用を失う。
そして修道院に行くのも幽閉されるのもごめんだ、と言った主は実家との縁も切り(干渉されるのが嫌なんだそうな。ついでにマスターの家族はワガママビッチにほだされた屑ばかりだ)こうしてカフェと何でも屋を切り盛りしながら生活をしている。
そんで、やっといろいろな事が落ち着いてきた今、マスターに以来を持ち込んだのはバカ王子(実際に来たのはその従者のみだったが)だった。
マスターが怒るのも頷けるだろ?
まぁ、マスターの正体が知られ会いないのがせめてもの救いなのだろう。
オレだったら…、切り刻むだろうな。
因みに依頼の内容は第二王子の暗殺だった。もちろん断ったが。
第二王子殿下はとても優秀なお方で、バカでアホな第一王子を推す声よりも彼を推す声のほうが強い。
バカ王子を推しているのはせいぜい傀儡の王をつくって政権を乗っとりたいと考えているバカ共くらいだ。そんな奴等がどうなるかくらいわかりきったことだと思うのだがな。
チリンチリーン
ん?また客か?
さすがにオレもこれ以上マスターが怒るのは勘弁してほしい。もしさっきの奴だったら…半殺し程度にはしても許されるだろう。