キツネと森の仲間たち
むかしむかしあるところに、大きな森がありました。
森にはたくさんの動物たちが暮らしています。
賢いキツネ、穴掘り上手なモグラ、陽気なサル、ほかにもたくさんです。
動物たちには、ひとつ悩みがありました。
森には大食らいのライオンがいたのです。
みんな、いつ襲われるか不安でビクビクしていました。
ある日、賢いキツネは良いことを思いつきました。
「一人だからダメなんだ。みんなで協力すればきっとうまくいくはずだ」
* * * * *
キツネはさっそく森をめぐって、仲間を集めることにしました。
最初に向かったのは、穴掘り上手なモグラのところです。
「モグラくん、こんにちは!」
「……キツネか。なんのようじゃ?」
「とってもいい話なんだ! もうライオンを恐れなくてもよくなるんだよ」
「……そんなうまい話があるのかね」
「あるさ! モグラくんには、地面にほった家を、もっと大きくしてもらいたいんだ。ほかの動物たちも入れるくらいにね」
「そんなことをして、ワシになんの得があるのかね?」
「かわりに食べ物を持ってきてあげるよ。モグラくんは穴を掘るだけでいいんだ」
モグラは少し考えてから、うなずきました。
得意な穴掘りだけをやっていられるなら、そのほうが楽だからです。
* * * * *
次にキツネは、陽気なサルに会いに行きました。
「サルくん、こんにちは!」
「おお、キツネじゃないか。どうしたんだ?」
「とってもいい話なんだ! もうライオンを恐れなくてもよくなるんだよ」
「本当かよ。それはすごいな」
「モグラくんが秘密の隠れ家を作ってくれているんだ。それが出来上がれば、もうライオンを怖がらなくてもすむんだよ」
「なあ、その隠れ家にオレも入れてもらえないかい?」
「もちろんいいとも! かわりにサルくんは、食べ物を取ってきておくれよ」
サルは喜んで約束しました。
木登りが得意なサルは、食べ物を集めるのが上手です。
食べ物で安全な家に入れてもらえるなら、そのほうが助かるのです。
* * * * *
次にキツネは、鼻のいいイヌに会いに行きました。
「イヌくん、こんにちは!」
「こんにちは、キツネさん。私になにかごようですか?」
「とってもいい話なんだ! もうライオンを恐れなくてもよくなるんだよ」
「ほう。くわしく聞かせてくれますか」
「モグラくんが秘密の隠れ家を作ってくれているんだ。それが出来上がれば、もうライオンを怖がらなくてもすむんだよ」
「それはうらやましい。その隠れ家に私も入れてもらえないでしょうか?」
「もちろんいいとも! かわりにイヌくんには、見張りをしてほしいんだ」
「見張りですか?」
「そうだよ。サルくんが食べ物をを集めているんだ。サルくんのそばにいって、ライオンの臭いがしたら、二人ですぐに逃げるようにしておくれ」
「そんなことだけでいいのですか?」
「うん。それでいいんだ」
イヌはすぐに、サルのもとへと走っていきました。
なにせ、サルのそばで臭いを嗅いでいるだけなのです。
これほど楽な仕事はありません。
* * * * *
こうして、みんなで協力して仕事をすることになりました。
穴掘りだけに集中したモグラは、一日でみんなが入れる部屋を完成させてしまいました。サルはいつもよりずっと多くの食べ物を集めることができました。これもイヌが近くで警戒をしてくれたおかげです。
キツネと仲間たちは、モグラが掘った部屋の中で笑いあいました。
そして食べ物を仲良くわけあって、楽しく過ごしたのです。
* * * * *
それから何日かが過ぎました。
するとキツネたちの話を聞きつけ、仲間に入りたいというものが出てきました。
臆病なロバと、すばしっこいウサギです。
「モグラくん、もっと大きい家は作れるかな?」
「もちろんじゃ」
「よし。じゃあ、ロバくんは、サルくんが集めた食べ物を家まで運んで。ウサギくんは、家の近くのパトロールをおねがい」
* * * * *
仲間が増えて、前よりもっとうまくいくようになりました。
サルが集めた食べ物を、力持ちのロバが一気に運んでくれるのです。
またウサギのおかげで、ライオンが近づくとすぐにみんなは家に隠れられるようになりました。
* * * * *
それから数週間が過ぎました。
キツネの考えたとおり、すべてがうまくいっていました。
けれど、だんだんみんなが不満に思うようになってしまったのです。
モグラは家を大きく、綺麗にしています。
サルとロバは、食べ物をたくさん集めています。
イヌとウサギは、みんなの安全を守っています。
それなのに、キツネは家で寝ているだけなのです。
「働かないキツネが、ワシらと同じだけ食べるなんておかしいじゃろう」
みんなを代表して、モグラがキツネに文句を言いました。
「みんな落ち着いて。ボクはちゃんと、頭を使う仕事をしているんだよ」
キツネはみんなをなだめました。するとみんなは、キツネの言うとおりかもしれない、と思ってそれ以上キツネを責めなくなりました。
* * * * *
さらに一月ほどたちました。
その間、キツネはずっと家でゴロゴロしていました。
そして、ついにみんなの不満が爆発してしまったのです。
「キツネなんて追い出してしまえ!」
「そうだそうだ!」
こうしてキツネは、みんなの家から外に追い出されてしまいました。
* * * * *
お腹がすいたキツネは、食べ物を探して歩きました。
見つけやすい食べ物は、だいたいサルが集めてしまっています。
そのため、なかなか食事にありつけませんでした。
「あった! やっと見つけたぞ」
そうしてキツネが夢中になって食事をしていると、ガサリ、と森をかきわける音がしました。そう、ライオンです。ライオンはキツネにとびかかりました。
キツネはあわてて逃げようとしました。
けれどダメです。働かずに家でごはんを食べていたせいで、キツネはまえより太って動きが遅くなっていたのです。
キツネは、腹を空かせたライオンに捕まってしまいました。
食べられる前に、キツネは思いました。
こんなことなら、もう少しなにか仕事をしておけばよかった……。
* * * * *
さて、キツネを追い出した仲間たちはどうなったでしょうか。
最初のうちはうまくいっていました。
けれど、だんだんみんなが不満に思うようになりました。
「みんなが安全に暮らせるのは、ワシの家のおかげじゃ。それなのに、ワシがみんなと同じだけしかたべられないのはおかしいじゃろう」
モグラはそう言いました。
「食べ物をとって来ているのはオレだぞ。オレが一番多く食べるべきなんだ」
サルはこう言いました。
「みんな思い違いをしていますね。私が見張っているからこそ、みんなが無事だったんですよ。私こそがもっとも役に立っています」
イヌはこう言いました。
「オラが一番荷物を運んでいるだ。オラが一番偉いんだ」
ロバはこう言いました。
「私は家のまわりを何周もしているのよ? 私が一番働いているわ」
ウサギはこう言いました。
仲間たちは、激しく言い合い、しまいには取っ組み合いのケンカになってしまいました。キツネがいたときは、キツネがみんなをうまくなだめていました。
けれどもう、キツネはここにはいないのです。
ケンカはずっと続きました。
そして、ついには騒ぎを聞きつけたライオンがやってきてしまったのです。
「あっ、まずい! ライオンの臭いがします!」
一番はやく気づいたイヌがそう言いました。
けれどもう手遅れでした。ライオンは家の入口まできていたのです。
結局、仲間たちもみんな、腹を空かせたライオンに捕まってしまったのです。
食べられる前に、みんなは思いました。
キツネくんがいれば、こんなことにならなかったかもしれない……。