君の温もりに慣れたわたしの手
いつもなら、一緒に歩いていた帰り道。その道を私は一人で泣きながら歩いていた。頭がぐるぐるして、出来の悪い私の頭では処理しきれない。
彼と私は幼馴染で、相手のことなら何でも知ってる……はずだった。だから、あんな風に裏切られるとは思っても見なかった。確かに、最近の態度に薄々気がついてはいたんだ、信じたくなかっただけでさ。でも、だからって、あれはないよ。ひどすぎる。
「ばか、ばか、ばか、最低だよ。よりにもよって、私の親友と、ってさ。二人とも私に向けてた笑顔と言葉は何だったわけさ。偽物だったの? それともなに、そんな偽物を信じた私が悪かったわけ?」
周りには誰もいないので、私の質問に答えてくれる人間はいない。それでも、言葉にしたらちょっとすっきりした。
あぁ、明日から学校行きたくないな。どんな顔して会えばいいんだよ。誰か教えてくれ。そんなことを考えていると、スマホの電話の受信音が鳴り響いた。
「……もしもし……」
これに出た私は偉いと思う。本当に。
「今どこにいんの!?」
いきなりそれかよ、謝罪もなしに。少しイラっとしたよ。
「私は誰かさんと違って、恋人のことは信じてたからな。深く傷ついたため、泣きながら帰宅中だよ」
私は正直に答えた。
「ちょっと待って、さっきのお前の誤解だから!」
いや、私の見たあれのどこに誤解するの要素があったのか、逆に教えてくれよ。
「もう聞いちゃったから、気にしなくて大丈夫だよ。ずっと、私の事が嫌いで邪魔だったんでしょ?」
「違っ「なんで言ってくれなかったんだよ、なんで告白なんかしたんだよ」
なんか反論してこようとしてたけど、間をおかずに話し続ける。
「私が馬鹿みたいじゃないか。自分一人で好きになって、信じてさ? 君が私の事、そういう風に思ってたなんてこれっぽっちも知らなかった。毎日一緒に帰ってたのにね」
私の瞳からは大量の涙が流れており、少し言葉にも嗚咽が混じっていたと思う。
「親には私が上手く言っといてやるから」
……だからもう
「じゃあね」
「待って! 俺が好きなのは……」
あいつが最後まで言い切る前に切った。それ以上聞きたくなかった。当たり前だろう?
ビュウーと、風が吹いた。
「寒っ」
マフラーはあるが手袋はない。失敗だったな。でも、いつもここまで手が寒かったっけ?
「あぁ、そうか」
帰り道は一緒に並んで帰ってたから、わたしの手と彼の手は繋がれていたから。
「君の温もりにわたしの手が慣れちゃってたのか」