雨の音
私、五歳で亡くなった息子の命日は、一度も外出せずに仏壇の前で過ごすことにしているんです。
その年も、またその日はやってきました。例年通り、私はそうしていようと思っていました。
……ですが、その日の午後。私は家を出ようか、迷っていました。
気になっていた映画が、隣町の映画館で上映されていたのです。……それに、息子が亡くなってもう七年。私がいつまでも想い続けているのも、お互いの為に良くないのかもしれない――息子はいつまで経っても成仏できないし、悲しみ続ける私を見たら、息子もきっと悲しむ……。そんな風に考えたのです。
……ですが、家を出ようと仏壇の前から立ち上がると……
――サアァァァァッ……
……微かな、雨音がしたのです。
……いつのまに降っていたのでしょう。気付けば、外は薄暗くなっていました。
映画館までは自転車に乗って駅まで向かい、更に電車に乗る必要がありました。……さらに私は、息子が死んだ日も雨が降っていたことを思い出したのです。
(……やっぱり、今年も家を出るのはよそう)
そう思い直し、仏間で昼寝をすることにしました。
――目を覚ますと、懐に暖かみを感じました。……まるで、ついさっきまでそこに“犬”や“猫”といった小動物……はたまた、“子ども”がいたかのような……。
私は疑問に思いながらも、線香の匂いで充満した部屋を換気しようと立ち上がり、窓を開けました。
すると――なんと地面が乾ききっているではありませんか。――雨など、降っていなかったのです。
私は、すぐにピンときました。……“母の勘”というやつです。
「……あなたね」
仏壇の前に座ると、再び線香に火をつけました。
「……にしても、どうやって“雨の音”なんか出したのよ」
そう言って、笑うしかありませんでした。
……いつまでも死んだ人のことを想い続けるのって、良いことなのか、悪いことなのか……。私には、わかりません。
……でも、命日とお盆くらいは。強く想ったって、いいと思うのです。
なんせ私は、母親なのですから。