談話室
「はいどうぞ」
談話室に着くと、男は扉を開け中に導いた。
「ありがとうございます」
談話室にはテーブル席とソファーの席、飲み物の自動販売機に無料のお茶、さらには誰が置いていったのか分からない漫画もいくつか置かれていた。
数人の生徒らしき私服の人たちが居たが、制服を来ているのは目の前の男だけだった。
ちらちらとこちらを観察する視線を感じつつ、志智を隅のソファーに寝かす。冷房が効いていたのでボストンからバスタオルを出して志智に掛けた。
陽佳が志智の横に座ると、男は机を挟んで向かいのソファーに座った。
「今更だけど、編入生?」
男は紙コップに入れたお茶を一口飲んで陽佳に問いかける。
「あ、はい。私はもう編入していて、弟は夏休み明けから編入です」
「そうなんだ。ああ、俺は高等部2年の十倉。名前聞いてもいい?」
「十倉さん…… えっと、私が陽佳で弟は志智です。中3で、志智は1年生です」
十倉はお茶の残りを飲み干すと紙コップを握りつぶしゴミ箱に捨てた。
「陽佳に志智ね。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
陽佳は少し緊張しながら、十倉に座ったまま軽く頭を下げた。
年上の人と話すのは何時でも緊張する。
「なんか困ったことあったら何でも言ってよ。俺は夏休み中のこの時間帯なら大体ここにいるからさ」
目を細めながら笑うのが癖なのだろうか、十倉の笑い方は陽佳の緊張を少し解してくれた。