ベル
本棟内にある事務室に行き、志智の入居手続きを行う。原則中等部以上は同学年との二人部屋ではあるが、生徒の家庭状況により融通が利くのがこの学園の良いところだと思う。
ベッドを二台にすることも考えたが、志智はまだ一人で寝られない為ベッドをシングルからセミダブルに変更してもらった。
陽佳は中等部の三年生、志智は夏休み明けから初等部の一年生に編入することになる。
諸々の手続きを済まし、指示に従い寮棟へ向かう。
手続き中に目を覚ました志智と手を繋ぎ、歌を歌いながら渡り廊下をてくてくと歩いていった。
夏休み中である上に昼時ということもあって辺りには人の気配はない。静かな校内に志智の元気な歌声が響く。
寮棟に着くと陽佳は志智に歌うことを止めさせ、自動扉から中へ入っていった。
管理人を呼ぶためにベルを鳴らして暫く、出てくる気配はない。
「誰も出てこないねー」
「……そうだね。お昼ごはん食べてるのかな」
寮の入口付近といえど、談話室や自動販売機が近くにあるため人がまばらにいた。まだ知り合いの少ない陽佳の知る人はその中には居らず、居心地の悪さを感じる。
幼い子を連れた陽佳に彼らの視線が集まり出した。注目されることを苦手とする陽佳はその視線のために再度ベルを鳴らすことを憚られた。