高鳴り呼応する本能
5月6日の夜。蒼井の病室から家に帰宅してから家で本を呼んでいるとメールを着信した音が響き渡った。ここ最近、蒼井と出会った頃くらいからメールが来る回数がやけに増えた。美心さんに病室にいる蒼井、それにあのチェーンメール。なんだよ時間操作って。未来から来たネコ型ロボットさんや、魔法使いや吸血鬼なんか類が登場する物語を知りすぎたおバカさんの中二病的発想だろ、よって、メールに記載されてたURLには一生アクセスなんてしないし、気にも留めない。騙すなら10年早かったなぁ、チェーンメールの送信者。そんなことを脳内で淡々と呟いてからメールを見る。また例のチェーンメールだった。
「だっから、なんでだよ・・」
一応メールの中身を確認する。だがその内容は以前送られてきたものとは少し違う、とても奇妙な文面だった。
『無理にとは言わない、力を使った時のリスクを考えるとなかなか決断できないのもわかる。だけどこれからの君のことを考えるとやはり構わずにはいられなかった。これが最後の通達だ。一刻も早く力を使わないと間に合わなくなるぞ』。後はその下にいつもの謎URLだった。
「間に合わなくなるって・・なにが――まぁ、たかがチェーンメールだ、ほっときゃいいか」
翌日、5月7日。ゴールデンウィークは終わり、学校が始まった。俺は過去のトラウマから中学から同じ人が誰も受験しない近くの工業高校に進学したので新たに友人関係を構築しなくてはいけなかった。が、ウルトラスペシャルスキル【コミュ障――KOMYUSYOU】のご加護もあってか、現在高2の真っ最中も隣を歩く友人、または恋人は居なかった。いや、元々工業高校だから女子自体がなかなか居ないんだけども。
よって、今現在机に突っ伏してます。全力で。
あぁ、はやく診療所行きてぇ・・そして安らごう。と、思っていると後方に声。「宇城くん?ちょっといい?」「――ハッ!?」
思わぬ自体、天変地異、天元突破。最後のは面白かったなぁ・・・・。いや、そうじゃない、今対応すべきはそんなアニメのことではなくて!そう、今後ろからかけられた謎の声(明らかに女性の高音ボイス)にどう返すかだ・・・・。今は机に突っ伏した状態だからまだ大丈夫、精神統一してシャンとして言う事を考える時間もある。だがそれも長くはない。持ってあと5秒。考えろ、何がベストだ?考えろ、考えろ、考えろ――――。
「宇城くん?」
「・・じ・・・は」
「ん?」
「本日はっ・・・良いお日柄でっ!」
やっちまったあああああああああああ!!お見合いみたいになってしまった!もう後には引けない!行くぞ!
「んん?」
「ご、ご趣味は!」
「いや、あの・・ファミレスでジュースを調合することですけど・・?」
「奇遇ですね、僕もです!」
「は、はぁ・・」
何だこの会話。特殊すぎる。絶対変に思われた・・通報される・・!
「なんだ吉岡じゃないか」
「そ、そうだけど!?」
今頃になって目を開けると目の前に大層な美少女、もとい、美男子もとい、男の娘がいた。
これは冗談ではないのだが、校内彼女にしたいランキング(といっても女子の数が比較的に少ない我が校ではほぼ無意味なランキングなのだが)では堂々の一位。女子を蹴落とした。
理由はもちろんその容姿。肩にかかるくらいまでに伸びた髪と桜色の唇。長く整った方向に伸びたまつげ。欠点を探す方が難しいまでの容姿端麗さだった。
もちろん俺も彼女にしたい・・
――――だが男だ。
近くによるとほのかにシャンプーの香りがして劇的な興奮に襲われる・・
――――だが男だ。
キスしたい。
――――だが男だ。
短所といえば男だという事だけの人物がこの少女・・少年。江藤花綺(えとう_はなき)だった。
「気づいてたんじゃないの!?」
「いや、テンパってた。てかゴールデンウィークで忘れてた」
「ひどい!」
両手を肩くらいの高さまで上げてショックを受けるポーズを取る花綺。
「だってお前の声って完璧に女子なんだもんよ」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないかぁ・・」
「えなりか」
「えなりじゃない!」
実にいじりがいがある。なんで俺がこんなに花綺と仲がいいというか、普通に話せるのかというと、単に席が前後ろの関係だからだ。宇城と江藤で。
入学初日に俺がペンを忘れたので後ろを振り返ったのが始まりで、ちょっと頑張れば恋愛小説として全5編にして書けるまでに俺たちは時を一緒に過ごした。
「ところで、なんだよ」
「え?」
「ほら、話しかけてきたのお前だろ。この天然ちゃん」
「天然ちゃん言うな!・・話ってのはね、明日暇かなーって」
「?なんでだよ」
「いや、あの・・映画に」
目の前で花綺が体をもじもじさせ、俯きながら時々こちらを見ている。何この子。結婚して下さい。
「映画行くのか?」
「そ、そう!偶然!チケット手に入れて・・」
偶然の音量がとてつもなかったがあえてふれまい。
「いいぞ――あ」
そうだった。俺は蒼井と過ごさなければいけない。彼女に行きた証をあたえるために。
「どうしたの?」
「すまん、やっぱいけねぇわ」
「え?」
「大切な用があるんだ」
そう、一日も欠けちゃいけない。彼女だけでなく俺自身にもきざまなくちゃいけない。彼女と話した記憶を。
俺は通学カバンを机の端から取って扉に向かう。
「ちょ、宇城くん!授業始まっちゃうよ!?」
「ごめん、今日はサボるよ」
「急にどうしたの?ちょっと変だよ?」
両の手を体の中心で縮めて心配している花綺。俺は扉に向かっている状態のまま答えた。
「言わなくちゃいけないんだ」
俺は扉を開き、診療所へと走りだした。