交錯する視線の花
目が覚めると知らない天井――。ではなく何千回と見続けて来た茶色い天井だった。時刻は10:21。日付は5月4日だった。
昨日、あの3人から暴行を受けた俺はすっかり伸びたカップラーメンをすすってすぐ寝た。服は外出用のままだったし、怪我の消毒もしていなかったので起きたら起きたでテンションはガタ落ちているままだった。
「クソ・・超いてぇ」
俺は服を着替えて再び外へ出た。俺の親戚が経営している小さな病院へと向かった。病院と言うよりは診療所で、建物の大きさは普通の一軒家くらいの大きさしかないが5人までなら入院できる。もちろん入院する人は金を多く持っている人をチョイスするだろうが俺の親戚はそんなことはしない。あくまで重症の人だけを選んで自らの手で最善の手を尽くす。人間として芯の通った人だ。名前は小佐内美心(おさない_みこ)彼女にぴったりな名前だ。
でも重症の人だけを選ぶってことはそこに入院している人は元気なふりをしていても命が危ないというわけでだった。
彼女が経営する診療所に向かう道中。綺麗な水色の髪を持った女性とすれ違った。ここらへんでは見ない顔だったし、なによりもあの髪の色は珍しい。あんな髪の色の女性を見かけたら間違いなく忘れないだろう。その女性は俯きながら道を曲がっていった。
怪我をして腫れてしまっている頬を抑えながら診療所に着くと入り口で誰かが立っていた。あ、美心さんだ。
「おー、健二。どしたその怪我」
「ちょっとガラの悪い不良A,B,Cに絡まれまして」
「なんだそれ、まぁ中入りなよ。手当するから」
「すいません、お邪魔します」
久々に会う年上のお姉さんにコミュ症全気味で挨拶を済ますと診療所に招待された。なんだろう、この逆ナンされたような感覚。親戚って素敵。
診察室についていくと早速道具の準備に取り掛かった美心さんをほおけた顔で見つめていると、「その不良A,B,Cの事は警察には言ったのか?」と聞かれたので「いいえ、別に気にしてませんし」と答えると「あっそ」と返された。本人が触れてほしくないところには深く触れず、なるべく思い出させないようにする――やっぱりこの人は人間として立派だ。
「最高だ」
「は?」
「あ、いや、この診察室の作りがですね、はい」
しまった、つい本音が出てしまった。美心さんは一回不信な顔をするとすぐにいつもの優しい顔に戻って俺の顔に消毒液を垂らした綿をぽんぽんし始めた。やってる間美心さんの顔が以上に近くにあったので思わず目をそらす。
「そういや、今日お前と年の同じ子が入院してきたぞ」
「へー、どんな人なんです?」
「めっちゃかわいい」
「え?」
「だから――可愛いんだよ。あんなの見たことないね。この世のものじゃないくらいにね――」
そう、美心さんは俯きながら言った。理由はわかる。美心さんが選んで入院させた位だ。よほど重症なんだろう。しかもそんなに可愛いとなればなんであんな子がこんな目に・・という考えになるのもうなずける。
「お前暇だろ?その子の相手してやってくれないか」
「はい?」
「頼む」
美心さんは頭を下げた。待て待て、話が急展開すぎる。第一、そんな可愛い子と面と向かってみろ。失神する。
「家帰って世界が平和になる方法を考えながら未来に使うようの元気を蓄えるために睡眠にはいらないといけないんです。こうしている今も世界では飢えて死んでいる子どもたちがいる。そんな子達を守るために使う労力をここで使うわけにはいかないというかなんというか・・・・」
「決定だな」
「いや、だって怪我だって治ってないし・・」
「知らん」
平気な人には至って手加減しない美心さんであった――。
「ここだ」
美心さんに案内された部屋は二階で、一番奥の部屋だった。ドアの横に名前のプレートがある。
(蒼井葵)
なんて読むんだ?俺が首をかしげていると美心さんが勝手に部屋のドアを開いた。
「入るぞー」
もう入ってんじゃねぇか!まだ心の準備が・・・・。
「どうぞ」
慌てて声がした方に目を向けると――。
なんかめっちゃかわいいのがいた。