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スペースレンジャーで行こう

作者: 相沢つとむ

 二〇××年六月。突如、宇宙からやってきた地球外生命体に地球人は滅亡の危機にさらされてしまっていた。

 圧倒的な科学力を持つ地球外生命体に各国は早々と白旗を上げていた。

 その中でも日本の特殊部隊スペースレンジャーだけは違った。どんな窮地に追い詰められようとも、常に前を向いて地球外生命体と戦っていた。

 もう一度美しい空がみたい。UFOが飛んでいない空を見たかった、ただそれだけの理由でスペースレンジャーは戦っていたのである。

 地球人の最後の希望、スペースレンジャーの戦いが今、はじまる。



 なんていうことはなく、僕は普通に大学生活を謳歌している最中である。

 子どものころに雑誌で読んだ宇宙戦争がはじまる兆候もないし、そもそも宇宙人が本当にいるのかも未だに怪しい。

 スペースレンジャーなんて特殊部隊は勿論ない。でも僕は真剣に子どものころは入隊したかったのである。

 武器は普通の拳銃ではなく、特殊な科学力で作られたレーザー銃。鋼鉄をも溶かし、高層ビルほどの宇宙人でも一撃で気絶させることができる威力がある。

 マッハ二〇で空を飛ぶことのできる飛行機だってあるし、巨大なロボットに変形できる乗り物だってある。

 雑誌で読んだ知識ではあるのだけれど、未来はそうなると信じて疑わなかった。ワクワクもしていたし、ドキドキもしていた。時々不安になるときもあるけど、そんなときは、筋トレをする。

 いつ宇宙人が襲来してもいいように備えていた。

 あれから十年以上の月日が流れた。

 僕は、スペースレンジャーに入隊するどころか、就職先まで決まっておらずに、大学を二ヶ月後に卒業することが決まっていた。



 シャーペンを机の上に置いてため息をついた。もしかしたら、卒業すら危ういかもしれない、と机の上に広げてある論述式の回答用紙を見た。

 テーマにそった回答はちゃんとした。入れろ、と言われたキーワードは全部入れた。それでも明確な答えなんてものはなく、教授の捉え方次第でどうとでもなる論述式のテストが嫌いだった。

 荷物を整えて教室を出た。テスト終了まであと二〇分もある。しかし、僕の回答は終わったのである。

「里中! テストどうだった?」

 後ろから声を掛けられた。

 振り向くと同じ学部でこっちは就職どころか、卒業までできない友人の荒井がいた。

 荒井は余裕そうに鼻唄まじりに僕に近づいてきた。卒業できない、と決まっているやつは今回のテストはあまり意味をなさない。

「お前はいいよな。気楽そうで」

 嫌味っぽくなってしまった。いや、八つ当たりとでも言いかえればいいのだろうか。気楽そうな荒井を見ていると少しだけイラついてしまう。

「どういうことだよ」

 荒井は軽く笑って僕の肩を小突いてきた。冗談で口にしたと思ってくれているのだろうか。

 そのまま校舎を出て喫煙所にむかった。荒井はタバコを吸わないため僕だけタバコに火をつけた。

「で、里中は就職どうなったの?」

「全然ダメ。一週間前くらいに一社だけ最終面接だったけど、連絡ないから落ちたと思う」

 ため息と一緒にタバコの煙りを吐き出した。

「お前彼女いるのにどうするんだよ?」

 まったくそうだ。僕には付き合って四年になる年下の彼女がいる。そろそろ結婚の話を持ち出されているが僕の就職先が決まらないことにはどうにもならない。

 やりたいことなんてないし、本音を言えば働きたくもない。

 電話が鳴った。僕の携帯電話だ。ディスプレイに表示されている数字は知らない電話番号からだった。

 ひょっとして、と思った。その気持ちが胸の奥から広がってすぐに体中に広がった。

「もしもし?」

 期待と不安が入り交じった声は震えてしまっていた。

 僕のひょっとしては当たっていた。

 採用の電話だった。

 電話を切ったあと荒井を見つめた。荒井は軽く笑いながらおめでとう、と言った。頑張れよ、とも言ってくれた。

 嬉しい気持ちでいっぱいになると思っていた。しかし、僕の心の中の気持ちは全然違った。

 嬉しい気持ちはもちろんある。でも今は本当にやっていけるのだろうか、という不安のほうが強い。

 荒井は表情でそれを察してくれたのだろうか、ため息をつきながら話した。

「そんな顔をするなよ。そりゃ、不安もあるだろうけど頑張ってれば悪いことばかりじゃないだろ」

 荒井は僕から視線を外して、空を指差した。

「子どものころスペースレンジャーっていう漫画があって、あいつらは地球を守るために働いてるんだよ。お金貰ってるんだよ」

 荒井はさっきまで差していた指を空から僕に向けた。

「だから、お前は彼女を守るために働けよ。お金貰えよ」

 そうか、大なり小なり人には守るものがあって、だから働けるんだよな。

 でも、気楽そうな荒井にそれを言われるのがムカついたから僕は軽く笑って「うるせー、バーカ」と言った。

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