1 月と星の運行
過去作を改稿し、お披露目させて頂きます。この子達もよしなに。R-15は保険というか、少しエゲツナイ表現があったりするので、まぁ。
「星の運行が変るな」
遠く、星の果てを見つめる。あまりにもかすかな星の光のその果てに存在する肉眼でも────現在の最高科学技術をもってしても観測不能な、闇の世界をその男は見ていた。
その人の目には、暗黒より深い漆黒の流星と、それに相反する月に良く似た月が見える。ただしその月は、死の衛星ではなく、熱く輝く恒星だった。その大きさ、実に太陽の100倍。月の内部には十字で彩られた灼熱が疾走る。クレーターに見えるのは、火炎の渦であった。
灼熱でありながら、月のような静寂を秘めた不気味さを湛えている。
流星と月は常に衝突を繰り返していた。
月は光の粒子を流星に送り、流星は漆黒の流星でそれに応対する。すでに何兆年と続いている光景である。それ事態は別に変る事もない。
灼熱の月は星を生む。
暗黒の流星は星を消す。その繰り返しで、宇宙は胎動する。それは法則であり、それは約束であり、それが存在。宇宙の一部として衝突を繰り返し、干渉し、生命の論理を構築する。あるいはこの星の有る場所こそ、宇宙の中心と言ってもいのいかもしれない。ここから命は始まり、この流星と月の影響の届かない場所はない。
「ふーん、これはビックリだ」
とまるでビックリしていない口調で、コーヒーをすする。藁葺き屋根の広大な屋敷の中庭で、その男は眩しげに、見えるはずのない二つの存在を見続ける。
その目には、流星から生れた小さな牙であるはずの星のかけらが、月の光の一部と寄り添うように運行を続ける現象が見えた。これは意外だ。今まで、そんな事はあるはずがなかった。有り得る訳がなかった。破壊と誕生では、まるで存在が相反する。相反し、力が同等であるがゆえに、悠久とも言える時間の中で、不変な力と力が変らず存在し続けてきたのだ。
「何を意味するかな、これは」
楽しげに、微笑がほころぶ。
その目は、そらすことなく有り得るはずのない現象を見続けていた。