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New Age  変革編  作者: えんじゅ
第二部 「水瓶座の時代 Age of aquarius」
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移人狩「対決。ハンプティ・ダンプティ」④

━━元親(もとちか)。うちな〈家族〉が欲しかったんよ。


「あのなぁ、家族なら俺達が居るだろうが」

俯いて嘆く彼女。忘れんなよ。と軽く額を(はた)いてやった。

「いたっ!!わ、わすれてなんかあらへん。元親も、半兵衛も、長政も、謙信も、道雪も。みんな大切な〈家族〉やで」

「なら、さっさと〈戦国華憐家〉に帰ってこいよ」

「うん、帰りたいなぁ……けどな、その為にも〈移人狩〉を止めなあかん。いや〈移人狩〉の根本にあるあいつを止めな、安心して帰れんのや」

「あいつ?」

「せや。あいつはうちら意識混濁性消失障害(ロストボディ)の中から生まれた〈New Age〉を蝕む悪意や。あいつはこの世界の人達に対してなんらモラルを抱いとらん。確かに意識混濁性消失障害(ロストボディ)は理不尽なもんやで。せやけど、意識混濁性消失障害(ロストボディ)のけじめは同じ意識混濁性消失障害(ロストボディ)がとらなあかんと思うねん。その責任すらこの世界に任せっきりにして現実に帰れたとしても、きっとうちは後悔する。それじゃあ駄目なんよ……〈家族〉皆で笑って帰れなきゃ、なんの意味もないねん」

「お前が教えたくないって言うから聞かねーけど、その、なんだ。もっと俺達を頼れよ」

「頼ってるで。うちが頼れるのは元親だけや。せやからな、留守の間〈家族〉を守ったってや」

「あぁ守るさ。〈家族〉も、幸村……お前もな」

「ははっ嬉しいこと言うてくれるやん」


守ると約束した。けど、結果はどうだった?

俺は何を守れた?


「畜生っ!!」

吠える隻眼の侍。

元親(もとちか)は自身の身代りとなって、家族(なおえ)が消失した場所。その虚空へ怒りの矛先を向けていた。

「元親さん!!今は目の前の敵に集中しないと!!」

「わかってるさっ!!」

限られた空間の隅まで追い詰められていくココナと元親の両名。


ココナ      HP 4837/5940

長宗我部元親   HP 2706/7692


対峙せし〈ハンプティ・ダンプティ〉の三人組。


メリーベル・アン・ラズベリー HP 3643/5040

ナイトレイ・シュヴァリエ HP 3277/6634

古祈愛言理  HP 4720/7326


明暗が分かれつつある戦況、それでも観衆はより増して張り詰める空気を結界越しに肌で感じていた。

日本刀を低く構え、先立ってココナ達へ踏み寄ってくる言理。

元親は相対しようと〈一夜己刀〉を片手に一歩踏み出す。

不意に━━言理が構えを解いた。

切っ先を下げ、左手を胸の内へ突っ込む。

何かを取り出しかと思うと、彼女はそれを掌の上に広げて見せた。

小石程の小包。

じっと目を凝らすと、離れているココナにも小包が微かに震えているのが分かる。

「まさか……エル?」

言理は小包を強く握り締めると、あらぬ方角へ瞳孔を(しぼ)め、ぼそりと漏らした。

「む、言理。どうしたのじゃ?」

「……」

ベリルの問い掛けには応じず、ただ遠くを見据えている言理。

「その飴はモモの〈製菓〉ですか?」

ナイトレイは背中越しに垣間見えた小包の意味を鋭く察知していた。

「あぁ……もうこれ以上、遊びには付き合っていられない」

言理は再び刀を構え、ココナ達へ突き刺すような視線を向ける。

「言理さん!?どういう意味ですか?」

「戦いが終わったら教えてやる」

言い終えると同時に、彼女は元親へ斬りかかった。

真っ向から刃を受け止める元親。

言理の頭上にはベリルの〈星〉がちりばめられ、元親の足元にはナイトレイの黒き魔法陣が描かれていく。

「またかっ!!」

「任せてください!!」

ココナは心の中で、シルフィードへ呼び掛けた。

碧の粒子纏う風の波が、ココナを中心として瞬く間に広がる。

全ての魔術が跡形もなく吹き飛ばされていく。

「わわっ、すごい!!」と改めて〈憑依〉を実感するココナ。

風霊術は即時性と範囲に優れています。この程度なら造作も無きことです。

シルフィードがやや嬉しそうに誇った。

「もしかして、半兵衛達に何かあったのか?」

「……」

交わる刃の合間から交錯する視線。

元親の問い掛けに、黙したまま目を細める言理。

「答えろ」

返答の代わりに刀を振り被る不器用な少女。

言葉を有さない剣筋が元親へ重なる。

甲高い金属音が響き、僅かに火花が上がった。



━━竹中半兵衛は単身、静まり返った路地で往生していた。


彼女の右手には雨頃仔百の〈製菓〉により作成された飴が握られている。

小刻みな震えは大分前におさまっており、テレパスの発信源と思われるエルミル・ビア・パナシェの行方は(よう)として知れない。

「これは……」

半兵衛は沈む視界の中に紛れているある物に気付いた。

片膝を曲げ、そっと摘む。

レンズの部分がひび割れた赤縁の眼鏡だ。

見覚えがある。

「エルさんの眼鏡?」

どうやら仔百の〈製菓〉の指示通り、エルミル・ビア・パナシェがこの場所に居たのは間違いないらしい。

しかし、彼女自体の姿は何処にも見当たらない。

無残な欠損を見せるエルの眼鏡が、不吉な予感を半兵衛へ抱かせる。

半兵衛の忠告を無視した上で、更なる深追いにでたのか。

それとも、この場所で彼女は遭遇してしまったのだろうか?

〈葬儀人〉や〈移人狩〉と疑わしき〈ウィップ〉なる人物に。

「或いは……」と、別の推測が不意に途切れる。


竹中半兵衛にとって〈戦国華憐家〉の皆はとても大切な〈家族〉だ。

だから、彼女は皆の好みや癖などの個性を忘れない。

元親は煙草を咥える時、微かに目を瞑る。

長政は嘘を吐く時、ござる口調が抜ける。

謙信(なおえ)は可愛いと感じた時、声のトーンが少し上がる。

道雪は起床した時、必ず外の空気を吸いに行く。

そして、幸村は……かつて〈New Age〉の中で自慢していた。

「うちな、飴ちゃんを噛み砕くのが大好きなんよ」

「それってさぁ、なんか勿体なくね?」元親が我先にと突っ込む。

「ええやん、ええやん。別にいきなり噛み砕く訳やないよ。ある程度舐めてて、そんでな、そろそろいけるかなー?っていう頃合いを計るんが好きなんよ」

「道雪は飴、好きかい?」

「甘いものは苦手だの」

なおえが道雪へ話を振っている。

「拙者もいつも飴は噛み砕くでござるよ」

「噛み砕くのはいいですが、しっかり歯磨きをしないと駄目ですよ」

長政、幸村へ諭しているのは過去の自分。

「そんでな、そうやってると飴ちゃんの消費量が凄まじいねん。だから常に袋で持ち歩いてるんよ」

「女子って何処に行くにも色々持ち歩いてるイメージだわ」

「照れるやん」

「いや、誉めてねーから」

「もし〈New Age〉の世界で生活する事になっても、飴ちゃんだけは必ず持ち歩くで」

「〈New Age〉の世界に飴はあるのでしょうか」

「〈花弁の涙〉とか〈ククリの蜜〉なんかは説明がそれっぽいけどねぇ」

「美味しいでござるか!?」

「いや、誰も食べたことねーだろ」

「各国毎に食の文化、歴史が設定されているみたいだからの。飴菓子の存在も充分有り得ると思うわい」

「もしそうなら、子袋を作ってでも持ち歩くで」

「はー妄想が膨らむねー。いいな、二次元に行きてーわ」

「元親、貴方はまずギャンブルと煙草を止めてください」

「へーへー、半兵衛さんの仰る通りで」

「殴りますよ?」

「おっと、そいつは無理な話だぜ!!なんせバンブリオの街中は〈不可侵領域(アストロロジカルエリア)〉だからな。はーはっは!!残念だったな、半兵衛!!」

「何を勝ち誇ってるんだい。またダンジョン攻略の時に回復して貰えなくなるよ」

「半兵衛様。すみませんでした」

近接職縛りの〈戦国華憐家〉において、唯一、紋様宮(サイン)により治癒魔術を習得していた半兵衛。

それに乗っかってか、また〈拳闘士〉が比較的、他職より身軽な面も相まってか。

いつしかPT(パーティ)HP(ヒットポイント)を管理するのは彼女の役割となっていた。


意識混濁性消失障害(ロストボディ)になり、そして元親が〈移人狩〉を追い始めた頃。

彼が時折、幸村について語った数少ない特徴を半兵衛は一字一句聞き逃さず覚えていた。

「あいつさ、本当にこの世界でも飴を持ち歩いてたんだぜ。ごつごつした水玉模様の袋を持ち歩いててさ。ったく、いかにもあいつらしいだろ?」


薄暗く淀んだ路地の隅に半兵衛の意識が吸い込まれる。

視線の先に滲む水玉模様の子袋。

汚れはほとんど見当たらず、その場所に落ち着いてからの時間の浅さが(うかが)えた。

そっと拾い上げてみると、ごつごつとした感触が手の平に伝う。

口に縛られた紐を解き、中を覗き込んでみると大小様々な小包がありったけ詰め込まれていた。

「どうして……」

半兵衛は、今にも消え入りそうなか細い声で呟いた。




━━不可侵の壁に幾つもの亀裂が走る。


異変を最も素早く察知したのは、A組の試合を管理室で見学していた男性だった。

「おい、あれはなんだ?」

縦横へと一面に敷き詰められた液晶、その端を指で指し示す。

彼と同じように試合の模様を観察していた青年が、指の先を追う。

「あれ、ひび割れ……?」

「馬鹿な。結界が破れそうになっているのか?」

初め二人は、メリーベル・アン・ラズベリーの強制書換(ブレイカー)やココナの精霊術などの規格外の能力によって結界が破れかけているのだと推測していた。

しかし、それが誤りであったのだと……手遅れになってから二人は思い知らされる。


突如、ピシッ。と鋭く端的な音が連続して鳴り出した。

次第に音は重なり合い、やがて、耳をつんざく様な破裂音が響いた。

少しの間を置いて、飛び散る破片や観衆の叫びが場内を満たす。

「なんじゃ!?」

ベリルは咄嗟に蒼い粒子纏う星を操り、飛び交う結界の破片から自分達を遮った。

「おい!!」

元親が叫んだ。

彼の瞳には散漫する蒼い粒子を裂いて、伸びる鞭が映り込んでいた。

「姫様!!」

ナイトレイは詠唱も間に合わないと判断し、ベリルを庇う様に覆い被さった。

そんな彼の背中を打ち砕く漆黒の鞭。


ナイトレイ・シュヴァリエ HP 0/6634


「……姫様、申し訳ございません」

「レイ!!」

苦痛に表情を歪めるナイトレイ。彼の周囲を光輪が囲っていく。

「きゃっ!!」

ナイトレイを襲った鞭は続け様にココナをも狙っていた。

不意を突かれたココナは反応も間に合わず、腹部を鞭に薙ぎ払われ大きく後方へ吹き飛んだ。


ココナ HP 0/5940


「ココナっ!!」

元親が呼んでいる。

「……っ」

しかし、ココナは声も出せず、力無く横たわった。

そして光の輪が彼女を包み込んでいく。

続け様に脱落していく参加者。

息つく間もなく、再びベリルへ迫る漆黒の鞭。

「むぅ」

眼前へ迫る鞭を真っ直ぐに睨むベリル。彼女の大きな両の瞳が蒼く浸食されていく。

━━それはベリルにのみ認識できる空白の挟間だった。

メリーベル・アン・ラズベリーによる強制書換(ブレイカー)の真骨頂。

彼女だけに許される数秒間。

他者は誰も動けず、誰もその空白を認識できない。

時間停止と呼ばれる事象。

ベリルは強制書換(ブレイカー)で〈New Age〉の世界を丸ごと書き換え、彼女自身だけが認識できる数秒を挟めた。


気侭(きまま)な栞 (ブックマーク Bookmark)〉


〈反転〉し、〈気侭な栞〉を発現させたベリル。

鞭は虚空をしなり、空白の挟間に後退していたベリルまでは届かない。

〈戦国華憐家〉と〈ハンプティ・ダンプティ〉の戦いへ割って入った乱入者はその事象を見咎め、合成された機械的な音声を上げた。

「ミツケタ。ソッチノオマエガニューエイジャーダナ?」

先程まで結界が張られていた付近に浮遊している黒衣の人物。

「うむ、いかにも。わしが〈理想郷の先駆者〉と呼ばれる一人。メリーベル・アン・ラズベリーじゃ!!」

蒼く染まった瞳で黒衣の人物を見上げ、ベリルは不敵に言い返した。

「おい、大丈夫なのか?」

ベリルの傍まで後退する言理。

「無論じゃ!!」

「ニューエイジャーハコロス」

今一度、黒衣の人物は鞭を振るおうと腕を上げた。

その動作を受けて、ベリルが空白を挟む。

一瞬で黒衣の人物を取り囲む数多の星。

それらから一斉に光線が放たれる。

「なっ、おい……」

元親が上擦った声を上げる。

「どういう事だよ」

光線を()ね退けしは蒼い粒子纏う漆黒の鞭。

「どうしてお前が……」

深く被っていたフードは落ち、黒衣の人物の面が露わになっていた。

「生きて……いたのか?」

見覚えのある赤髪はぼさぼさと伸び、後ろに流れている。

いつも、はち切れんばかりの笑顔を浮かべていた筈の表情は冷たく、色合いも悪い。

昔、きらきらと光を吸い込んで輝いていた眼も一変し淀んでいた。

「幸村……なんで、お前が居るんだよ」

元親の方など見向きもせず、彼女はじっとベリルだけを見下ろしている。

「なぁおい、幸村……答えろよっ!!」

予期せぬ邂逅。

元親の雄叫びは虚しく残響していた。



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