移人狩「対決。ハンプティ・ダンプティ」①
第13回無差別等級団体戦。
参加総数31組89人。
トーナメントは決勝戦を境目にA組とB組へ別れており、準決勝までは、闘技場の一階と二階において、それぞれの試合が同時進行で行われる。
参加者全員のHPが尽きる。或いは降参を示す事により決着とする。
優勝賞品は首飾り型宝星具〈ギフトランダー〉他多数。
参加選手は正面ロビー脇、もしくは反対側の裏口より控室へ入室可能。
開始時刻に転送輪の中に待機していなかった場合は棄権とみなす。
大会開催中は会場と観覧席の間には物理、魔術干渉を阻む結界を展開。不用心な接触は避ける事。
試合中、HPが尽きた参加者は強制的に転送輪へ転送される。また決着が付いた場合、3分後に残った参加者全員の転送を開始する。
無差別等級の為、宝星具、紋様宮の所持は認める。
EP回復目的での宝瓶の祝福 (エントール)の持ち込みは不可。
道具での回復は転送時に各々へ自動配布される薬瓶のみとする。
ダメージや回復は全て、対象の傍に数値として表示される。
想定外の出来事が起きた場合、大会管理者側には転送輪強制切断の権限が認められる。
「最低限、把握しておくべきはこれぐらいでしょうか」
半兵衛は思い出せる限りの大会ルールを淡々と呪文の様に、隣に座るエルと仔百へ聞かせていた。
彼女達は現在、B組の試合会場となるバンブリオ闘技場二階観覧席の後方に待機している。
ちなみに〈戦国華憐家〉と〈ハンプティ・ダンプティ〉の試合はA組だ。
つまり三人は応援をする為に闘技場を訪れてはいなかった。
目的は……。
「二試合目だったかしら?」
エルの問い掛けに仔百が頷く。
「です。相手はギルド〈夢の果てのクオリア〉の隊長ガガトル率いる最前線組です」
最前線組とは〈変革〉以降も、積極的に未開領域や各地のダンジョン探索へ乗り出している集団の事だ。
「召集されてはいないのかしら?」
「〈夢の果てのクオリア〉も私達〈戦国華憐家〉と同じく少数精鋭型ギルドですので、ウェルズニール召集からは外されたのだと思います」
……おいおい、なんで俺達〈戦国華憐家〉には国王からお手紙がこねーんだ?
もし来たらウェルズニールへ行くのですか?
いや、いかねーけど。……長政が帰ってきた時に家族が誰もいなきゃ寂しいだろうしな。
半兵衛は元親の愚痴を思い出しながら呟いた。
「ウィップねぇ。なんだかわざとらし過ぎる気もするわ」
「そもそも〈移人狩〉が闘技場に参加する意味があるとは思えないです」
「そうですね……私達の知り及ばない何かが今大会にはある。という事でしょうか」
「報酬の宝星具〈ギフトランダー〉は魔物討伐による希少ドロップの確立抽選を上昇させる類のものですが、追加される固有スキル〈僥倖〉については不明ですから、もしかするとです」
「モモの宝星具〈パティシミトン〉の固有スキルも知れば驚きだったものね」
「えへへ、照れるです」
半兵衛は雨頃仔百が所有している手袋型宝星具〈パティシミトン〉について詳しく知らない。
少しだけ訊ねてみようかと迷ったが、まもなく開始される試合を控えて極まりつつある会場内の熱狂を受け、彼女は口を閉じた。
B組一試合目はPT名〈はばねろ〉と〈疾風迅雷フウライオー〉との組み合わせだ。
「なんだか……どっちもふざけた名前です」
「〈はばねろ〉の中に見える斧闘士〈いわし〉の名には見覚えがあります。彼は元〈ゾディアーク教団〉在籍者だったかと」
鰯にハバネロはつけないですよ。と仔百が真面目に漏らしている。
「あっちはどうなるかしら」
エルはぼんやりと、まだ空の試合会場を眺めながら呟いた。
「私は家族を贔屓している自覚がありますが、それでも勝敗は予想できません」
「モモにはベリルはともかく、レイの負ける姿が想像できないです」
「どっちが勝つにしろ、本当の目的はこっちにあるのだから、私達もぼんやりしてられないわね」
「はい」
「です」
その会話を区切りに、エルミル・ビア・パナシェ、竹中半兵衛、雨頃仔百の三人はそれぞれ気を引き締め直す様に沈黙した。
━━これより第十三回無差別等級団体戦を開幕致します。
闘技場内を満たす盛大な歓声。
控室に待機していたココナ達にもそれらの熱狂ぶりは十二分に伝わってきていた。
「いよいよだね」
嬉しくて堪らない。といった類の恍惚さを表情に滲ませているなおえ。
一方のココナはあからさまな程に緊張が見て取れた。
元親は咥えていた煙草の火を携帯している小型袋の中にすり潰して、ココナの肩をぽんっと力強く叩く。
反対側の肩に落ち着いていたシルフィードが反動で微かに飛び跳ねた。
「もっとリラックスしろって。こうなったら、もうなるようにしかならねぇよ」
「そ、そうですよね……あはは」
「ココナ、大丈夫です。私もついています」
シルフィードも細長い耳をぴくぴくさせながらココナを励ます。
「折角なんだ。思いっきり楽しもうぜ」
「はい!!」
ココナはここ数日間の特訓を思い出し、自らに大丈夫だと言い聞かせる。
〈風刃〉と〈風陣〉の使い分けもそれなりに慣れてきた。
あたしはもう〈斬刀士〉じゃなく〈精霊師〉だ。
お師匠様も元親さんも……シルフィードも居る。精一杯、実力を出し切ろう。
「なんだか最近は私のポジションが元親に奪われつつある気がするよ」
と、なおえが二人に怪訝そうな眼差しを向ける。
「そ、そんな事無いですよ!!あたしにとってお師匠様はお師匠様唯一人です」
「もぅ嬉しいこと言ってくれるじゃないかっ」
「あっ、抱き着かないでください。駄目ですって」
「おい……。ここに居るの俺らだけじゃないんだからな」
もみくちゃになっているココナとなおえに集まる視線。
「大会以外で目立ってどうすんだよ」
元親が冷静に突っ込んでいる。
喧噪が一際派手に破裂したかと思うと、僅かな静寂が訪れる。
「どうやら終わったみたいだね」
「早かったな」
━━まもなくA組第二戦を開始いたします。参加者は速やかに転送輪までお移りください。
試合会場を挟んで反対側の控室に待機している〈ハンプティ・ダンプティ〉にも同じアナウンスが流れている筈だ。
「さっ、私達の番だ。行こうか」
率先して進むなおえの背中を追うココナと元親。
「ココナ、頑張りましょう」
「うん、シルフィード。ありがと」
転送輪は想像と異なり、球形型を模していた。
三人が踏み込むと同時に周囲の視界が遮断される。
球に内包されると、続いて幾つもの細長い輪が内面に浮かび上がった。
淡い光を伴う蒼い輪が縦横無尽に目まぐるしく回転している。
次第に粒子が満ち、一面が蒼く染まっていく。
目を開けていられないぐらいの眩しさに襲われ、重力から解き放たれる。
とん。と爪先から地に降り立つ感触を覚え、ココナはゆっくりと目蓋を上げた。
それは半径20m程の広さを持つ半球だった。
どうやら内部からの視界は遮断されているらしく、自分達を眺めている筈の観客の壁が映らない。
代わりに映り込んでいるのは淡く光る蒼い膜だった。
そして、正面奥……やや離れた位置に相対している〈ハンプティ・ダンプティ〉の面々に気付く。
━━カウント後、スキル使用権が解放されます。
アナウンスが続き、一秒ずつ唱えられる数字が減っていく。
「手加減はしないからな」
先頭で低く刀を構えている言理がこちらに向かって告げる。
「こっちの台詞だぜ」
元親となおえが数歩進み出て、それぞれ抜刀する。
ココナはやや後方を位置取って、頼もしき仲間達の背中から垣間見える相手を見据える。
奥に佇むナイトレイ・シュヴァリエは普段と然程変わらない、憮然とした表情を見せている。
隣に並ぶメリーベル・アン・ラズベリーは不遜とした面持ちで、両手を腰に当てて立っている。
━━ゼロ!!
アナウンスが数え終わる瞬間。
言理となおえはほぼ同時に地面を蹴っていた。
お互いの刃が衝突し、甲高い金属音が響く。
なおえはもう片方の刀を斜め下から翻す。
上半身を逸らして剣筋から逃れる言理。
その側面から元親の仕込刀型宝星具〈一夜己刀〉による固有スキル〈残像剣〉が襲い掛かる。
さっと飛び退くなおえ。
迫る幾重の斬撃を刀で次々と弾く言理。
そんな彼女の頭上をベリルの魔術が通り過ぎていく。
様々な蛍光色を孕む星が宙に浮かんでいた。
膨らんだクッションを連想させる角の丸っこい星。
それらから一斉に光線が放たれる。
なおえと元親へ降り注ぐ無数の煌き。
しかし、元親となおえは臆せず前進する。
二人を星々の煌きから守るは、ココナが既に展開していた〈風陣〉だった。
碧色の粒子を波打たせ広がる風壁がベリルの魔術を全て打ち消していく。
風霊と契約した精霊師の体制〈風陣〉は個人による攻めよりも、仲間の援護と広範囲の妨害に特化している。
「ココナ、そのまま元親達に風速を付加しましょう」
真っ赤なカンカン帽子の上に立つシルフィードがココナに助言する。
「おっけー!!」
ひらりと片腕を舞わせるココナ。
彼女の腕から視認できる碧色の風波が飛び、なおえと元親の元を吹き抜けていく。
敏捷性に補正を掛ける〈風速〉を付加された元親は瞬く間に言理へ接近し〈一夜己刀〉を振るっていく。
一方、相手の後列へ急接近していくなおえ目掛けて、先程の星々が自ら突撃していた。
絶え間ない流星に晒されながらも、器用にナイトレイとベリルの方へ向かうなおえ。
なおえかねつぐ HP 4902/6344
しかし、星が地面に衝突した際に残す粒子を節々に受け、HPは着実に削られていた。
痛覚はほぼ緩和されてるとは言え、なおえの動きがやや鈍る。
そんな彼女の足元に碧色の風が纏わりつく。
大会に備えて、連携を磨いてきたココナ達。
なおえは纏わりついた波紋を一目見ただけで理解していた。
地面を力強く踏み締め、勢いよく飛翔する。
流星の隙間を掻い潜って空中高く飛び上がると、今度はスキル〈宙跳躍〉で空を蹴った。
凄まじい速度で着地するなおえ。彼女の正面にはナイトレイとベリルの姿。
それは刀を振れば届く距離だった。
「ちっ!!」
後列への接近を許した言理が短く舌打ちする。
「余所見すんなって」
元親がなめらかな剣筋を描いていく。
一度目の刃を防いでも、続け様に残像が襲ってくる。
頬にかすり、じわりと赤い線が浮かぶ。
防戦に徹しながらも、言理もまたHPを消耗していた。
古祈愛言理 HP 5771/7326
いつの間にか元親の手首にも碧色の波紋が纏わりついていた。
言理がその変化を見止めるのとほぼ同時に、元親の振るう刃先から碧の粒子が波打った。
残像剣とは別に、言理の首元へ迫る風の刃。
咄嗟に彼女は〈姫の蜃気楼〉を発動させた。
風の刃が吹き抜けた瞬間、首元が黄金の粒子を散らせた。
古祈愛言理が宿す黄金魔術。
彼女の瞬間的な肉体の粒子化を受けて目を見開く元親。
「そんなのありかよ」
「ありなんだ」
そして言理が刀を握っていた手を片方だけ離した。
拳だけを元親に目掛けて振り下ろす。
元親は戸惑いつつも〈一夜己刀〉の鞘部分である傘で受け止めようとした。
その手先に黄金の粒子が集まっていく。
「なっ!?」
具現された黄金の粒子刀は元親の鞘部分だけを擦り抜け、彼の肩から腹部までを大きく斬り裂いた。
長宗我部元親 HP 5692/7692
虚空に表示される数値は2000を示していた。
それまで無傷だった元親のHPが大きく削がれる。
一撃で2000かよっ!!
攻撃を受けた反動でふらつく元親。
一連の流れを受けて、ココナは元親を庇おうと二人の元へ駆け出した。
隙を逃すまいと言理は片腕に握っていた本来の刀を振り抜く。
かろうじて刃を縦に受け止める元親だが、姿勢が大きく崩れてしまう。
「なめんなっ!!」
元親は咄嗟に鞘を支軸にして片足を蹴り上げた。
刀を握っていた方の手首に爪先が当たり、言理の指が開かれる。
無作為に転がり落ちる刀を視界の隅に言理は再び黄金の粒子を手先へ密集させていく。
振り下ろされる粒子刀の輝きが元親の視界を埋めていく。
ココナはその流れを間に割って強引に阻んだ。
両手に握っていたのは翠の粒子が織り成す一吹の刃。
言理が絶対の信頼を置いていた黄金の粒子刀が〈New Age〉の世界で初めて受け止められる。
黄金の粒子と碧の粒子が衝突の反動で派手に飛散する。
交差する刃を挟んで睨み合う言理とココナ。
「半年前、あんたを見た時、正直、俺は頼れないと思ってた。今でもあんたは仲間だけど守られる側だと思ってた。けど悪かった。訂正するよ。ココナ……強くなったな」
「言理さん……」
なおえがベリルに双剣を振り翳した瞬間。
ナイトレイは静かに右腕を伸ばしていた。
飾り気のない漆黒の腕輪が手首から覗いている
腕輪から鈍く暗い影が広がるのをなおえは横目に捉えていた。
「姫様の対して頭が高いぞ」
それは普段の彼からは想像もつかない程に冷たい響きだった。
ナイトレイが所有する腕輪型宝星具〈星奪〉に秘められた能力。
「これはっ……!!」
なおえの全身を襲ったのは、彼女を圧し潰す勢いの〈重力〉だった。
四肢が地面に付き、双剣が目先を転がる。
歯を食い縛り、せめて顔だけでも上げようとするなおえ。
屈した彼女へ放たれるは、ベリルが唱えし無情なる魔術━━小石程の数多の星から成される散弾だった。
「残念じゃったな」
その一言と同時に全身を貫いていく流星。
なおえかねつぐ HP 2155/6344
止まる事を知らないHPの減少に、なおえは成す術もなく……ただ一筋の汗を額に垂らす事しか叶わなかった。




