10.
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山の中腹に差し掛かった頃には、エリオット達の歩みはのろいものになっていた。いくら騎士とはいえ鎧が重いのに変わりはなく、訓練を続けていた日々は過去の事だ。そんな状態で登り坂を歩き続けているのだから、息が切れるのも無理はない。片側が切り立った崖になっているその山道で、太陽が容赦なく三人を頭上から照らしている。これまでにいくつも獣道を経由していたために、エリオットとジョーイの疲労は溜まる一方だった。
「ほら、置いていきますよ」
戦闘を行くのは、唯一鎧を着ていなかったケインだ。他の二人はひいひい言いながら彼の後を追っていた。
「……ちょ、待って、休ませて」
「頼む、本当に、疲れた」
息も絶え絶えに言う二人に、ケインは足を止めずに返した。
「駄目です。我々を追う誰かがいます」
「はあ?」
ジョーイが疲れと驚きで裏返った声を上げた。エリオットもケインの言う事が信じられず後ろを見るが、動くものは見られない。
「そんなのは気のせいだ」
ジョーイが突っぱねるように言うが、ケインは取り合わなかった。
「確かです。ぼやぼやしてると追い付かれますよ」
ケインは更に足を速めた。エリオットは懸命に彼を追おうと早足になるが、ジョーイは不満を露わにして、わざとゆっくりと歩き始めた。三人の距離がどんどん離れ、それぞれが孤立しようとしていた。ケインは後ろを見てエリオットが追い付くように歩調を遅くするが、ジョーイに追い付こうとする姿勢は見られない。ケインはため息をついて仕方なくエリオットが追い付くのを待った。山を回るように伸びる道を進むにつれ、ついにケインの視界からジョーイの姿が消えた。ケインの後ろに追い付いたエリオットが後ろを振り返り、再び前を見る。
「どうするの?」
「置いていきましょう。何を言ったって、追い付こうとしやしませんよ」
きっぱりそう言い捨ててケインは再び歩き出した。
「え、本当にいいの?」
エリオットが戸惑うが、ケインは構わず先へと行ってしまった。エリオットはジョーイを待つべきか迷ったが、結局は置いて行かれまいと急いでケインを追った。
ジョーイはケインとエリオットの姿が見えなくなると、足を止めて道端に腰を下ろした。
「あ、どっこいしょ、っと」
大げさにふう、と息を吐くと、ジョーイは山の斜面に背中を付けて背筋を伸ばした。むき出しの地層に金属の鎧が擦り付けられ、ぱらぱらと土くれが地面に落ちる。ジョーイが据わりを良くするように背中を擦り付けると、その音は更に大きくなった。ただし休む彼にとって、これは耳障りな音ではない。
「やっと休めたか。まあ、向こうも流石に目印くらいは残すだろう」
分かれ道ではぐれる事を予想して、彼は楽観的に呟いた。今いる山道がこの先も一本道とは限らないのである。
「……にしてもだ、ケインはいつも勢いを削ぐような事を言う。空気の読めない奴だ」
暇を持て余すように彼は呟いた。ふと足元に目をやると、アザミによく似た白い花が生えていた。手慰みに指でつつくと、長く伸びた茎をわずかにそらして何度も揺れた。
「って、何をやってるんだ俺は。女々しい」
ふと我に返り、ジョーイは手を引いた。痛みにも似た足の疲労は大分引いたので、彼は二人を追おうと背を土壁から離して腰を上げた。腰に両手を当てて背筋を伸ばし、軽く何度か上体を回す。そうする事で体をほぐすと、彼はいざ進もうと坂道に足を伸ばした。足音が山道に鳴る。
しかしその時、ジョーイの足はまだ地についていなかった。
踏み出そうとした足を浮かせたまま、ジョーイが足音の上がった背後へと目を向けた。足音はいくつも上がり、徐々に大きなものとなって近づいてくる。やがて道の奥から現れたのは、四つの鎧姿だった。どれも新品同然の儀礼用の鎧で、面盾が閉ざされているために顔は見えない。風を大きく含む重い旗のついた槍を携えており、足並みは不気味なほどに揃っていた。どの点を取っても、山道で会うには不自然極まりない集団だ。鎧についているナバンの紋章も、逆に胡散臭さをかきたてた。
ジョーイは四つの鎧の集団を目を細めて注視した。足並みの不自然さの正体が、四人に疲労した様子がない事だと分かる。
「本当に、気に食わない奴だ」
ジョーイは呟き、山道の中心に出た。鎧の集団が彼の少し前で足を止め、一斉に彼に槍を向ける。
「奴の言う事はいつも正しい」
忌々しそうに言って、ジョーイは剣を抜いた。
鎧達は槍についた国旗を取り払い、ジョーイに向かって殺到した。
その洞窟は、鬱蒼と生い茂る木々の奥に隠れるようにしてその口を開けていた。日も高いというのに洞穴の奥は暗闇で何も見えず、覗き込んでいるエリオットとケインに寒々しさを感じさせるほどだった。
「ここなら確かに見つかりませんね。道筋を見つけるのに苦労しましたが、目印を教えてもらえたのが幸いでした」
「その目印が地味で分かりにくかったけどね」
洞穴探しのおかげで休養の取れたエリオットが、呑気な感想を漏らした。
二人があの夫人から聞いたヒイロノカネの在処の目印は、以下のようなものだった。
「微笑み山の右後ろ、癖みたいに頭を掻く連中がしょっちゅう指でひっかく辺りにある森の陰に、旨そうな茸がたくさん生えている。そこから道を外れて森に潜り、山頂に向けて口を開けてる洞窟に入ればすぐに見つかるよ。ああ茸は取らない方がいいよ、どれも毒を持っているからね」
微笑み山自体を人の頭に見立てたその説明は、ケインを非常に悩ませた。エリオットがいなければ今もこの場所にはたどり着けなかっただろう。
「分かりにくい説明でしたね」
「場所の言い方は分かりやすいよ?目印が分かんないだけで」
「僕は逆です。どうも君とは感性が合いません」
「今日はそれが有利に働いたよね」
「ええ。火を起こしたら、すぐに入りましょう」
ケインは持ってきていた松明を取り出す。エリオットは火口箱から火打石と火打金を取り出し、火をつける準備を始めた。
「それで、本当にジョーイを置いていくの?」
「ええ。彼やマークが追えるように目印を付けたい所ですが、ジルトールの息のかかった者が先に来るかもしれません。このまま二人で行きましょう」
松明に火が点き、音と共に黒煙が上がる。ケインがそれを手に洞穴へ入り、エリオットがそれを追った。入口から遠ざかるにつれ、二人の周りの岩肌から伝わる冷気が徐々に空気を冷やしていった。外からの光が完全に失せ、松明の炎だけが光源となった視界で、心細くなったエリオットがケインのすぐ後についた。
「……本当に大丈夫?」
「心配無用です。聞いた限りでは目的地には日が差すようですし、すぐに辿り着きますよ」
「ジョーイとマークは?」
「すぐに来ますよ。彼等を信用しましょう」
「あれ、ジョーイも?」
エリオットはおうむ返しに尋ねた。マークはともかく、ジョーイを信用しようというのがケインの口から出た言葉とは思えなかったのである。
「ええ。気に食わないですが、彼なら追い付けるでしょう」
「……ふーん、ケインはジョーイが嫌いなんだと思ってた」
「嫌いですよ?」
何を当たり前の事を、と言わんばかりの反応にエリオットはえ、と声を上げた。
「彼は確かに腕が立ちます。僕からすれば、それだけです。事あるごとに僕を頼るし、そのくせ物言いは偉そうなんですから、好きになれっていうのが無理な話です」
「嫌いなの?じゃあ何で友達やってんのさ?」
「……ちょっとね。大嫌いではないんですよ」
ケインがそこまで言った時、辺りがわずかに明るくなった。彼は風の気配が肌を撫でるのが分かった。
「さあ、そろそろ着きますよ」
鋼のぶつかる音が何度も空を刺すように響いた。ジョーイは迫る槍先を弾き、槍と槍との間に滑り込んで剣を持つ手を振りかぶった。両手で槍を持つ相手に、防ぐ手立てはない。
「っ、ジェアッ!」
気合と共に剣が横一文字の軌道を描いた。刃が相手の首の位置、兜と鎧の隙間に滑り込むや否や一気に振り切られ、兜が宙に飛ぶ。
普通ならそれで斬られた方は終いだ。しかし剣から伝わる感触は、会心の手ごたえと呼ぶには軽すぎるものだった。落ちた兜の立てる音も、バケツ同然だ。
ジョーイは剣の勢いのまま前に出、鎧の集団の後ろに回って振り返り距離を取った。鎧姿が皆、槍を胸に寄せるようにして同時に彼に振り向く。先ほど首を落とされた者も同様だ。首を失い、なおも動きによどみがない。首の穴から見える鎧の中身はがらんどうで、空間を埋めるように赤い煙が充満していた。首なしは槍の先を先ほど飛ばされた兜にひっかけると、空中に跳ねあげて器用に首の穴で受け止めた。面盾のわずかな隙間から紅い煙が覗き、面盾越しに無いはずの目が再びジョーイに向けられる。
「くそっ!」
ジョーイは歯噛みして四つの鎧を睨んだ。四つの鎧が全て人間だったら、先ほどの斬撃で全員を返り討ちにしていたはずなのだ。敵の正体が全て動く煙と分かり、ジョーイは剣を持つ手が強張るのが分かった。
「これが魔女の魔法か。なるほど、気味の悪いものだ」
彼が悪態をつくと、鎧達は同時に一歩踏み込み、槍を腰の横に構えた。四つの槍先を向けられ、ジョーイはさらに下がった。坂道の下側にいるせいで、ジョーイには槍先がより威圧的に見えた。鎧の動きは単調ではあったが、統制が取れていたためにジョーイは苦戦を強いられていた。
並ぶ四つの鎧姿の向こうに、エリオットとケインがいる。ジョーイには、彼等が自分を置いて進む姿が容易に想像できた。
『だーれがリーダーですか』
『威勢ばっかの名ばかりリーダーだよねー』
少し前に言われた言葉がジョーイの記憶の中で再び響く。その響きは直に効いた時よりも嫌味で、ジョーイの神経を逆なでした。更に記憶と想像の混じる脳裏の中で、ケインがあざ笑うようにこう言い足した。
『あなたは必要ありません。そこでずっと休んでください』
あの野郎、という言葉が喉から出かかる。実際のケインは、そんな事は言っていない。
そこで風を切る槍の音にジョーイは我に返り、下がりながらそれを弾いた。続く二撃、三撃を受け流し、四本目の槍は身をひねって避けた。ジョーイが大勢を崩した所で、またも槍が殺到する。彼はこれを必死に裁きながら、大きく坂道を下った。坂の傾きのせいで後ろに倒れそうになるのを堪えるが、そのせいで次第に猛攻に押され始める。槍の一つがジョーイの肩鎧を打ち、それを皮切りに立て続けに槍の群れが容赦なく彼の体を打ち始めた。鎧のおかげでジョーイの肉体が傷つくには至らなかったが、鎧越しに打つ槍の勢いに体勢を崩され、坂のせいもあって彼は無様に倒れた。
起きようとして首を上げると、すぐに顔へ殺到した槍が見えて彼は横へ転がった。彼の頭のあった場所を鉄製の槍が通過し地面に突き刺さる。ジョーイは肝を冷やしながら飛び起き、再び剣を構えた。
だが今、剣に意味はない。関節や隙間を狙って斬っても、相手には肉体がない。刺突すれば先ほどジョーイがされたように相手をよろめかせる事はできるだろうが、それも一人相手がせいぜいで一対四の数の不利が大きく表れてしまう。
「……剣じゃ駄目か」
ぽつりと、彼は呟いた。
剣を持たない方の手を上げ、指を立てる。その手でくるりと、素早く円を描いた。
その仕草は、ちょうどリズが魔法を使おうとしているのによく似ていた。ただし指先に光は、ない。
四つの鎧が坂道を蹴り、ジョーイに殺到する。ジョーイは再び両手で剣を握り、大きく下がった。剣で裁こうとするよりは、間合いの外に逃げた方がいいと判断したのだ。
しかし、前を見ながら後ろへ大きく下がるというのは咄嗟の判断では難しい行動だ。加えて下り坂を背にしているため、どうしても転倒を恐れる意識が働いてしまう。
なので、自分が思う程ジョーイは距離を稼ぐ事が出来なかった。踏み込んだ鎧達の持つ槍が、残らず彼にぶち当たる。ジョーイはまたもバランスを崩し、無様に後ろに倒れて坂道を背中で滑る羽目になった。仰向けになった彼に、鎧達が追い打ちをかけるように槍を逆手に構え、倒れたジョーイへなだれ込んだ。今度は先ほどよりも鎧達の踏み込みが速く、避ける余裕がない。視界に迫る鉄の槍の前に、ジョーイは死を覚悟した。
風を切る音がしたのはその時だ。直後、耳障りな金属のぎゃり、という背筋の凍る音と共に鎧達が横へと吹っ飛んだ。槍が一斉にジョーイの視界から流れ、四つの空の鎧が山の土壁に叩きつけられた。いくつもバケツをかやしたような音が立て続けに上がる。
ジョーイは異変の正体を知っていた。命拾いした理由に目をやり、来たか、と呟く。
一体の鎧が土壁に横っ腹をつけた格好でもがいている。槍を取り落しているが、拾おうとする手は空中を泳ぐばかりだ。脇腹には、それまでなかった剣が柄まで深々と埋まっていた。貫通したその剣が、鎧を縫いとめているのだ。
「まさか本当に飛んでくるとは……。何て雑な魔法だ」
ジョーイは立ち上がり、もがくその鎧に駆け寄った。柄を握り、剣を引き抜く。剣で貫かれていた鎧は土壁から離れ、膝をついた。
ジョーイが引き抜いたその剣は、剣ではなかった。
白日の下にさらされたのは、光を受けて輝く刃ではない。細かい突起をびっしりと浮かべた、黒いものだ。形こそ剣に似せてはいるが、その本質はまるで違う。
吹っ飛ばされた他の鎧達が、槍を拾って立ち上がった。坂道に立つジョーイの上に二体、同じ高さに一体、下に一体がいるので囲まれた形になる。崖を背にした位置に立ちながらも、ジョーイは気圧されていなかった。
土壁に張り付けにされていた一体が、他のものよりも遅れて槍を拾い上げた。ジョーイの前にいるそれは片手で脇腹に空いた穴を押さえいるが、指の間や塞ぎきれなかった部分、反対側に空いた穴から赤い煙が昇っている。煙が漏れ出るにつれその鎧の膝は徐々に曲がり、うな垂れるように背筋が曲がった。
「煙が漏れるとまずいらしいな。道理で頭を戻していたのか」
ジョーイが剣を収め、黒い得物を持ち上げた。無傷の鎧達が、槍を胸に寄せるようにして一歩下がる。相手の出方を伺うようなその動きに、ジョーイは口角を上げ唇を軽く舐めた。
「ようやく私の見せ場だな」
軽口を叩きながら、ジョーイは敵を見回した。
「さあ、来い!もはや四人や五人では、私の相手はできんと思え!」
口上も勇ましく、彼は前へと踏み出した。
その馬は小さく、駄馬と言うほどではないが非力な馬だった。その背に二人も乗せて長距離を走っていたものだから、立ち止まった時の鼻息の荒さは相当なものだった。荒く裏返った呼吸を繰り返す馬に、見ていた二人は申し訳ない気分になった。先ほどまでその馬に乗っていたのは、マークとシモンズだ。
「無茶をさせ過ぎたな」
シモンズが手綱を引き、その馬を湖へと誘導すると、馬は自分から駆け足でそこへ進み始めた。引かれる手綱が緩み、先導するシモンズを追い抜いて水面へ鼻先を突っ込んだ。我を忘れんばかりに水を飲む馬を置いておき、マークはシモンズと山を見上げた。
「こんすきに、他のモンがおるかとですわ」
「みたいだな。あと、悪いが訛りを抑えてくれ。時々何言ってるか分からん」
マークが痛いところを突かれたように顔をしかめ、「失、礼」と頭を下げた。
「ここが微笑み山か。いつ見ても変な山だ」
山の斜面に浮かんだ凹凸を見て、シモンズがそう呟いた。
「変、とは?」
「何かがいそうな感じがするってだけだ。俺の勘がよく当たるって、知ってるだろ?」
マークは黙って頷いた。シモンズが口癖のように言っている言葉で、事実彼は勘が良い。
マークはシモンズが見ている先に目を向けた。シモンズはマークほど目が良い訳ではないのだが、マークはシモンズの見ている先に何かがあるのだと確信していた。そして、それは的中した。
山の中腹辺りの木の陰に隠れるようにして、青いものがはためいていた。マークはそれを見覚えがあった。金の糸で施された刺繍があり、それはちょうどナバンの国旗に描かれている菩提樹の葉の先を思わせた。いや、そのものだ。
「団、長!」
マークがそれを指差す。シモンズは指差された先を見るが、木の陰になっているせいでそれは彼からは見えず、彼は首を捻った。
「確かに、この山、誰か、います」
マークがそう言った直後、山の上で強風が吹いた。木々がなびき、青いものが風で舞い上がる。空中で翻ったそれは、まぎれもなくナバンの国旗だ。シモンズの目にも止まり、彼はそれに驚いた。
「ありゃ儀礼用の槍についてた奴じゃねえか!何であれが!?」
マークにもそれは分からなかった。しかし、彼は大きな不安に駆られた。
エリオット達三人が、先にこの山に登っているのを彼は知っている。そして、彼等の中でそんなものを持ってきている者はいない。三人を追う、他の誰かのものだとすぐに分かった。
「急ぎ、ましょう」
「ああ。……って、俺も行くのか?」
「その方、が、自然。俺が、不審者、追い返した、と」
「そう口裏を合わせろってか。で、俺が山を登る訳は?」
渋るシモンズに、マークはなおも空中を泳ぐ国旗を指差した。
「……なるほど、ほっとく方が不自然か。分かったよ、行くぞ」
マークは深く頷いた。
空の篭手が音を立てて地面に落ちた。篭手は肘の辺りで荒い断面を晒しており、篭手の持ち主もまた肘から先を失っていた。断面からは赤い血は一切流れず、赤い煙が昇っている。腕からだけではない。腿や脇腹、肩はおろか兜にまでも深い裂け目が刻まれており、その裂け目の全てから煙が昇り、空中に霧散していた。傷だらけの鎧の前で、ジョーイが黒い得物を肩に担ぐ。
「まあ、こんなものだ」
自慢げに言う彼の背後では、すでに三体の空鎧が地に倒れ伏していた。いずれも装甲の各部に引き裂いたような傷が刻まれており、傷の全てからは赤い煙がか細く昇っている。ジョーイの前に立っていた最後の一体も、ついに膝をついて倒れた。
辺りに立ち上る煙の濃さは次第に薄くなっていき、風に流れて消えていく。少し前まで動いていた鎧達も、今や完全ながらんどうだ。鎧達に動く様子が無くなったのを確認し、ジョーイは剣に似た得物を腰の帯に差した。四体の鎧を引き裂いたその得物には、それを収める鞘がない。そもそも、鞘を必要としない道具だ。
得物の柄には、小さな円状の傷が印のように刻まれていた。傷からは、うっすらと光が漏れている。光を浮かべるその傷は、出かける前にリズが付けたものだ。
『ワンアクションで自慢の得物を手元に呼び出す魔法よ。持ち主にしかできないその呼び出し方は、こーんなに簡単」
そう言って、リズがくるりと指だけで円を描いたのをジョーイは思い出した。事実その通りで、ジョーイは彼女の仕草を真似た事で最も扱いを得意とする黒い武器を引き寄せられたのだった。
「あの魔女に感謝せんとな。……さて」
ジョーイは坂の先へと目を向けた。そろそろ追わなくては、エリオットとケインを見失いかねない。
「あいつだけにエリオットを任せておけん」
ジョーイは急いで坂を駆け上がり始めた。




