プロローグ
プロローグ
日の出と共に目を覚ますと、エリオットは伴侶を起こさぬようにベッドから離れた。朝の冷たい空気に身を振るわせながら外に出る。それだけで、かつて氷河で覆われてたという広い牧草地と立ち並ぶ民家とが一望できた。広大な牧草地の向こう側では、氷のように鋭くそびえ立つ山が見える。朝の気温と大地のすぐ下に潜む氷河の名残とが、いつものようにエリオットを震えさせた。
「ううう、寒い」
月並みな事を言いながらも家の裏手に回り、積まれた薪を数本抱えて屋内に引っ込む。竈に薪をくべて火をつけ、家の中が暖まるまで手編みのケープにくるまると、エリオットは暖を取り始めた。
体が温まると、ようやくエリオットも朝の仕事をする気になった。今日も出かける伴侶のためにパンを出し、近所の農家から買ったチーズも用意する。窯に火をくべフライパンの上にパンを並べて焼くと、小麦の香ばしい匂いが温まった空気の上で踊り始めた。この時ばかりは朝で一番気分がいい。
匂いにつられるように伴侶が起きる。エリオットは並べた更に焼いたばかりのパンとチーズとを並べて出迎えた。
「おはよ」
「おはよ。ごめんね、いつも」
「んーん。これが仕事だしね」
呑気な調子で言いながら、エリオットは牛乳瓶から牛乳をカップにくべ、席についた伴侶に差し出した。自分の分も注ぐと、それを一気にあおる。
「今日はどうなの?」
「今日、か。昨日いい麻がたくさん入ったんだ。きっと丈夫な織物ができるよ」
「そっか。頑張らないとね」
「うん。織物機もたくさん必要になるし、大変なのはこれからだ」
「そうだね」
一緒に住むようになって数年が経ち、二人は同じように相槌を打つ。エリオットの伴侶は食べ終わると席を立った。
「それじゃあ、言ってくるね」
「うん。あ、ちょっと待って」
エリオットは伴侶を呼び止めると、その頬に小さく口付けした。伴侶は大して驚かず、仕方ないという顔をした後エリオットの頬にキスを返した。
「しかし、飽きないね」
「飽きるもんか」
そう言ってエリオットは伴侶に微笑む。エリオットにとっては何より大事な事だった。こうしなければ一日が始まらないとすら思っている。伴侶もそれが分かっているから抵抗せず、同じ事をやり返すのだった。
「それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
伴侶が出て行くのを、エリオットは家のドアの前で見送っていった。伴侶の姿が見えなくなると、いつものエリオットの仕事が始まる。
「しかしおかしな時代だ……。騎士が、主夫をするとはね」
自分と時世に呆れながら、エリオットは皿を片付けに家の中へと引っ込んだ。
以前行った新作の希望投票で連載作に決まった作品です。
年内には書き切りたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。




