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NoVeiL  作者: 天窪 雪路
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世界は動く

翌日から初期研修が始まった。僕は今度は田中や溝口、そしてあの電話の女性の勤める会社に向かった。正直なところ、昨日は動揺した。どう考えても、溝口のそれは怪しい種類の話だった。けれど、命に関わるような身の危険はなさそうだったし、ましてや詐欺に遭いそうなリスクもなく、そして第一に溝口が用意した映像で見たことと、その後に溝口から語られた「世界の真実」とやらについて、もう少し知ってみたかった。今のところ、なぜ、僕のようにかなり特定された学生のみを募集するのか、なぜ仕事の内容をああいう抽象的な求人広告のようにしか紹介しないのか、は、すべてつじつまの通ったものであるように思えた。これから1週間の間はこの会社の研修センターに合宿をして徹底的に鍛えられるらしい。

僕は溝口の用意した映像で見たのと同じ金属製の小さな機械をマネキンの鼻の穴に入れる操作を学んだ。操作とは言ってもその機械が鼻の中に侵入してからは自動的に物事は進むようで、僕に任されたのはそれを侵入させるまでの被験者の状態把握であった。つまり、こういうことだ。

まず、万能キーと金属製の小さな機械を渡される。007のスパイ道具のようなものだ。そしてそれらを持って被験者の自宅に侵入する。機械を鼻の中に侵入させて行う調査の前に、被験者の生活についてを事前調査し、いつ自宅に戻り、いつ食事を取り、いつシャワーを浴び、いつ寝るのか、などを記録しておく。そうして得られたデータを眺め、最も被験者が無防備になる時間を探し出す。もちろん、その時間は被験者がレム睡眠に落ちた時だ。そこで僕は用意してきた例の金属製の機械を被験者の鼻の入り口に落とす。その後は僕が僕自身にそうされたように物事は進む。映像で見た通りだ。それによって僕は被験者に関する膨大なデータを得る。被験者の歩んでいた人生について、家族構成、趣味嗜好、犯罪者遺伝子について、あるいは何の病気によって死ぬリスクが大きいかなど、被験者に関する何もかもだ。DNA分析では分からない、被験者が何を見てきたのか、何を学習してきたのか、そして僕に与えられたナンバー「21」と同じように、被験者に与えられたナンバーが何であるか。それを得る。


僕は初めのうちはまるで自分が泥棒にでもなったような罪の意識に似た感情を抱いたが、田中さんに「君は見込みの通り筋がいいね。楽しみだよ。」と言われるうちに、そういうものはどうでも良くなっていた。それに、これは極秘のうちになされなければならない任務なのだ。「世界の真実」は誰にでも知られるべきものではない。これまでの僕のように、世界には知らずにおいた方が良い真実だってあるのだ。もしかすると世の中に対しては2039年くらいには真実が明かされるのかも知れないけれど。


その日の夕食時にはあの電話の女性も僕たちに混じって食事をした。女性は「皆さんにお電話をさせて頂いたのは私です。メイと言います。」と言って自己紹介をした。あの電話の女性の声だ。そして、声から想像したイメージをそのままに女性はそこに存在した。食事の間こそ、僕たち研修生は非常にリラックスをして気ままに食事を獲ったが、それが終わると僕は思い切ってメイに話しかけてみた。


そして1週間の合宿を経て、僕は久しぶりに「ムショ」に戻った。その時、アユミからの内線電話が鳴った。


「ちょっとね、キミね、どこに行っていたのよ。二日間も留守にするなんて何だか怪しいわ。」


僕は合宿の疲れで一刻も早く眠りたかったが、アユミの「お土産」話をありがたく頂くことにした。

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