新しい世界
僕はその瞬間まで本当に知らなかった。世界がそのようにして人々の人生を決定していたというその事実に。
15分間の面接を経て、僕は採用されることになった。そこで僕は溝口という中年男性に案内されるがままに面接会場とは別のモニタールームに通された。
「馬鹿馬鹿しいと言えばその通りだがね、だけど、これから君に見てもらう映像は事実なのだ。これが社会の構造の一部を支配するルールなんだよ。」
改まって再生されたVTRにはこんな光景が収められていた。
まあ恐らく今からそう遠くないある日に撮影されたであろう映像の中で、僕はまるで身に覚えのない撮影をされていた。僕にとって見なれた「ムショ」のベッドの上で眠っている僕がそこに映し出されている。
「何ですかこれは?いつ撮ったんですか?」
僕はびっくりしてビデオテープの再生を操作していた溝口に質問を浴びせかけた。
しかし、溝口は僕のそういう反応を予め予想していたように冷静に対応を取った。
「みんな初めはそうやって驚くんだ。もちろん、ワタシもね。そりゃあ驚いたよ。自分の知らないところできっと勝手に家に入られて、挙句にこれまでに知りもしなかった新しい世界を知ることになるんだから。」
僕は極めて僕自身に似せて作られた僕そっくりの精巧なマネキンを不思議さと不気味さと好奇心とが入り混じった複雑な気持ちで見つめていた。
眠っている僕はまるで何も感じることのない様子で鼻の穴に見たこともない金属製の測定器が侵入するのを許していた。
それはいつだったかに医療の現場を題材にしたドキュメント番組で見たワイヤーのようなメスでガン細胞を切り取る手術器具を思わせた。
未知の測定器はするするとうまい具合に僕の頭の中の奥へ奥へと進んでいったようで、しばらくすると脳幹に達したようであった。
「もうすぐ出るよ。君の正体が。ほら出た」
VTR映像の中のモニターには、僕に関する様々な情報が映し出されていた。
履歴書に書くようなことはもちろんのこと、何を意味するのか分からない数値やアルファベットの中で、彼の言った21というナンバーがあった。
「これが世界の真実なんだよ。ワタシも田中さんも、他の誰だって知れば必ずびっくりするね。そりゃあね、驚くよ。でもね、これが真実なんだから仕方がない。0.999・・・が1と等しいのと同じくらいに真実なんだよ。」
そして僕は今度は田中に代わって溝口という男から世界の真実の姿について教えられた。
それはにわかには信じられないものだった。