ファーストコンタクト
僕は僕の持っている数少ない服の中で一番まともに見えそうな服を選んで身支度を整えた。ジーンズにほんのりとピンク色の入ったTシャツを着て、その上に夏物のジャケットを羽織り、自転車をこいで電話の女性に指示された会場に向かった。
電話の女性の言った場所にはこじんまりとしたホテルがあった。僕はてっきりその仕事を行う事務所かどこかで面接を行うものと思い込んでいたために胸中でほっとしていた。もしも人目につかないような事務所かどこかで行われるのだとしたら、この会社が怪しい種類のものであった場合にひどく危険であるということになる。しかし、そのこじんまりとしたホテルは自動車も比較的頻繁に往来する通りに面しており、通りからは明るいホテルの中の様子を見ることができた。こじんまりとしてはいるが、とても清潔で美しいホテルであった。真新しくもなく、古くもなく、外壁の真っ白なペンキの色も何もかもが平均的だと思った。どこにでもありそうで、どこかで見たことがありそうなホテルであり、その中で唯一特徴を挙げるとすれば「こじんまりとした」というのが適切だった。
ホテルの入り口に訪れると「面接会場はこちら」という案内掲示に気付いた。受付の周辺には当然いつも通りの営業が行われているであろうホテルマンの動きがあったが、僕の向かう先は言うまでもなく宿泊部屋ではなく、ホテル内の会議か何かで使われるであろう一室であった。
「失礼します。」
僕は何年か前に高校入試のために練習した面接試験の受け方についてを思い出しながら入室した。
面接会場はいわゆる面接会場で、面接の担当官は二人の中年男性に見えた。一人は50歳前後でいかにも中年という感じに全身に肉をつけ、頭髪も半分くらいに薄くなっていた男だった。眼鏡を鼻の上にちょこんと乗せて、眼鏡の上から僕の方を見ていた。笑顔はなかったが悪い人間ではなさそうな第一印象に僕はやはりほっとした。
もう一人の男は彼よりももっと若い。30歳過ぎという感じだろうか。こちらは背こそ小柄なものの丁度良い体格をしていて、目の大きな男だった。テーブルの上で左右バランス良く手を組み、まっすぐな視線を僕の方に向けていた。僕は電話の女性の姿を探したが、もちろんその場にはいなかった。電話の女性は電話の受け答えをするために存在するのであって、ここに存在する人々は電話の応対とは別にここに存在すべき理由を持って存在しているのだ。
「こんにちは。よく来てくれたね」
若い方の男がそう言った。