亡骸と冷めきった宅配ピザ
それはありふれた別れだった。
長年付き合った恋人同士が、ある日突然なんでもないことを理由にしてそれぞれの別々の未来へと進んで行く。
僕自身にしてみれば、ずいぶんと積み上げてきたと思っていたキミとの思い出だったのだけれど、それは特別大きな音も立てず、いとも簡単に崩れ落ちていき、そしてやはりありふれた「過去」となった。
過去なんてものは、人が今と未来とを都合良く歩んでいく上で時々に利用される程度のもので、それ自体に大層な価値はない、と、僕は思う。しかし、それでも、かつての美しさなどまるで見る影もないほどに無残に朽ち果てた過去という名の亡骸は、十分過ぎるほどに僕の胸を締め付けた。
亡骸は冷めきった宅配ピザのようなものだ。好きなものを好きなだけトッピングし、自分自身にとって都合の良い量に切り分けて食べるはずなのに、いつも決まって余分が出る。空腹が十分に満たされた後となっては、その物体は厄介者以外の何者でもない。必要以上に巨大な器の上で毒々しい色を放ち、僕が処分をしない限りはいつまでもそこに存在し続ける。ただし、そのような宅配ピザが亡骸と唯一点違うのは、僕が再び空腹になり、もしもその物体を電子レンジで温めるならば、それは再び魅力的な姿を取り戻すというところだ。その一点において冷めきった宅配ピザはまだ救いようがあり、その一点において二度と温もりを取り戻すことのない亡骸はまるで救いようがないのだ。