孤独に溺れて蝿を喰らう
蝿を食べたことがある。
腹が減っていたからではない。
羽音がうるさかったからでもない。
ただ、独りだったから。
人は寂しいと誰かに会いたくなるらしい。
温もりを求めているのか、それとももっと単純な生物として群れを形成する本能故か。
わからない。
そんなものは、まったくわからない。
僕は逆だった。
寂しいと思うと独りになりたくなる。
そんな気持ちを抱えたまま誰かに会うと、比較してしまうから。
自分がなんと愚かな存在であるか、浅ましい思考の持ち主か、そんなことを考えてしまうから、僕は独りで過ごしていた。
部屋で無為な時間を過ごしていると、窓の隙間から一匹の蝿が入ってきた。
蝿はぶんぶんと音を立てながら部屋を飛び回った。
玄関まで行って、またこちらに帰ってくる。
なにをしているんだ?
疑問の答えなど返ってくるはずもない。
蝿はうるさい羽音を奏でたまま僕の前で羽ばたき続けた。
位置を変えることもなく、ただブンブンと動き続けて。
不思議な感覚だった。
蝿に見つめられていると、寂しさが少しだけ……。
寂しいというのに、蝿といても苦痛を感じない。
ひどい劣等感を覚えることも、蝿相手には起こらない。
ああ、君となら……。
彼は急に向きを変え、窓の外へと飛び去ろうとした。
「待って!」
僕は慌てて手を伸ばした。
そのまま彼を掴んだ。
もちろん、傷付けることのないように、優しく。
彼はぶんぶんと大きな声をあげた。
慌てているのだろうか、可愛いやつめ。
離ればなれにはなりたくない。
やっと巡り合えた相手なのだから。
人は寂しいと誰かに会いたくなるらしい。
その感覚がたった今わかった。
まだ別れていないのに、離れることを嫌がって引き留めてしまうほど、僕は寂しさに弱いらしい。
君と離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
僕は──。
蝿を食べたことがある。
腹が減っていたからではない。
羽音がうるさかったからでもない。
ただ、独りでは寂しさに殺されてしまいそうだったから。




