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孤独に溺れて蝿を喰らう

作者: 鶴ヶ友護
掲載日:2026/08/27

 蝿を食べたことがある。

 腹が減っていたからではない。

 羽音がうるさかったからでもない。

 ただ、独りだったから。


 人は寂しいと誰かに会いたくなるらしい。

 温もりを求めているのか、それとももっと単純な生物として群れを形成する本能故か。

 わからない。

 そんなものは、まったくわからない。

 僕は逆だった。

 寂しいと思うと独りになりたくなる。

 そんな気持ちを抱えたまま誰かに会うと、比較してしまうから。

 自分がなんと愚かな存在であるか、浅ましい思考の持ち主か、そんなことを考えてしまうから、僕は独りで過ごしていた。

 部屋で無為な時間を過ごしていると、窓の隙間から一匹の蝿が入ってきた。

 蝿はぶんぶんと音を立てながら部屋を飛び回った。

 玄関まで行って、またこちらに帰ってくる。

 なにをしているんだ?

 疑問の答えなど返ってくるはずもない。

 蝿はうるさい羽音を奏でたまま僕の前で羽ばたき続けた。

 位置を変えることもなく、ただブンブンと動き続けて。

 不思議な感覚だった。

 蝿に見つめられていると、寂しさが少しだけ……。

 寂しいというのに、蝿といても苦痛を感じない。

 ひどい劣等感を覚えることも、蝿相手には起こらない。


 ああ、君となら……。


 彼は急に向きを変え、窓の外へと飛び去ろうとした。

「待って!」

 僕は慌てて手を伸ばした。

 そのまま彼を掴んだ。

 もちろん、傷付けることのないように、優しく。

 彼はぶんぶんと大きな声をあげた。

 慌てているのだろうか、可愛いやつめ。

 離ればなれにはなりたくない。

 やっと巡り合えた相手なのだから。

 

 人は寂しいと誰かに会いたくなるらしい。

 その感覚がたった今わかった。

 まだ別れていないのに、離れることを嫌がって引き留めてしまうほど、僕は寂しさに弱いらしい。


 君と離れたくない。

 ずっと一緒にいたい。

 僕は──。


 蝿を食べたことがある。

 腹が減っていたからではない。

 羽音がうるさかったからでもない。

 ただ、独りでは寂しさに殺されてしまいそうだったから。

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