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生きて会えたら  作者: みりな
1/1

タイトル未定2026/05/08 23:07

初めまして。ご覧いただきありがとうございます。

本作は孤独を抱えた人間の女の子と自ら命を絶ってしまった男の子の少し切なく温かい恋愛を描いた長編小説です。


本作には「自殺」に関する直接的、間接的な表現が少なからず含まれます。キャラクターの生死を扱う繊細な描写がありますので、苦手な方はご注意下さい。


誰かの心に寄り添えるような物語を目指して最後まで丁寧に紡いでいきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

ガタンゴトン。春の匂いが列車の中にふんわりと漂っている。

一年で一番大好きな季節…春。大好きな季節から私は変わるために大都会東京に向かっている。新しい生活、新しい出会い、胸の奥が高鳴ってワクワクが止まらない。

私の名前は赤木ノア、22歳。名付け親は不明だけど結構気に入ってるほうかな。私は生まれた時から親が居なく施設で育った。

施設では常に沢山の子供達がいたから寂しい思いをした事はなかったけど、親の愛情というものを知らず、心の寂しさはなかったとは言えないかな。でも先生にはとても感謝している。いつかは一般でいう親孝行的な事をしてあげたい。だからこそ東京で成功したい。夢を叶えたい。施設にいた頃は東京に行く事になるなんて考えもしていなかった。そう…あの頃の私は…。


ノア18歳…夏休み。施設内で子供達が扇風機の取り合いをしているなか、先生とノアがテーブルをはさんで雑談をしていた。話しが途切れ沈黙が続いた後、先生が不意に

「ノアちゃんは高校卒業してこの施設出たらどうするのか考えてるの?」と心配そうに聞いてきた。

「とりあえず働くよ。大学行く目的もないし、お金もないし…一人暮らしして自立を楽しむかな。」

「何の仕事がしたいの?」

「何でもいいかな。生きていく為に仕方なく仕事する感じだもん」とノアが苦笑いをしうつむく。そんな姿を先生は切ない思いで見つめ

「これから長い人生…きっといつかこう生きたいって思える物事や夢が見つかると思うよ。だからそんな寂しい考えしないで。」とノアの隣りに席を移動し肩を抱こうとするが、ノアは気恥ずかしさもありすぐに立ち上がり

「ここを卒業するまでに仕事と家を見つけないと!忙しくなるぞ!」と笑顔で先生に手を振りその場を後にした。


夏休みも終わり学校へ行くと、周りは家族旅行やおばあちゃんの家に帰省した話しで盛り上がっていた。そんな話しをノアは笑って聞くことが出来た。相手に合わせることは子供の頃から得意だったから。自分の人生を受け入れ生きて来たノアは、ひがんだり自分の生い立ちを嘆いたりすることもなかった。そんな事をしても仕方のないことだって分かっていたから。


卒業後、地元で4年間バイトをしながら何一つ変わらない生活を送っていた。そんなある日の帰り道、一人の女性が路上ライブをしていた。いつもなら立ち止まる事もなく通り過ぎるノアだが、今日は違った。妙に惹きつけられ立ち止まり聞き入ってしまう。聞いているうちに体の底から湧き上がる感情を抑えきれなくなり涙がこぼれた。そして救われた気持ちでいっぱいになった。路上ライブが終わった後、人見知りのノアが自ら女性に声を掛けられるほど興奮していた。

「感動しました!こんな気持ちになれたの初めてです!本当にありがとうございました!」

私も歌いたい!私も感動を届けたい!何のために生きているのか分からず、ただただ生きてきたノアに夢が見つかった瞬間だった。音楽とは無縁だったノアだが、東京に行って成功してみせる!とその場で決心してしまう程、もう気持ちを止めることは出来なかった。こんなに気持ちが高ぶったのは初めてかもしれない。何をきっかけに夢が見つかるのか分からないものだ。

今夜路上ライブの彼女に出会ってなかったら…ずっと今の生活を続けていたかもしれない。

ノアは家に帰ってすぐネットで初心者向けのギター講座の本を購入した。次に肝心のギターを検索する。思っていたより高額だった為、中古のギターを格安で購入した。配達予定日は明日だ。ワクワクしながらさっそく歌詞を考え始めるノアだった。


冬が過ぎ去る頃、部屋を探しに東京へ。3月という時期もあり予算に合う部屋がなかなか見つからず不動産屋を駆け回る。日が暮れ始め、焦る気持ちを落ち着かせ最後の不動産屋へ。

「この予算で探すとなると…ちょっと紹介出来るお部屋は難しいですね。」今日だけで何度この言葉を聞いたことか。

「ですよね…仕方ないです。ありがとうございました。」立ち上がり外に出ようとすると奥から出て来た他のスタッフに

「ちょっと待って下さい!」と引き留められた。

「最近空いたばかりの予算に合う物件がありました。ただ…何故か出入りが多く、この2年間で5人も退去してるんですよ。早い人は1か月で退去した人も。でも女性には安心な6階でセキュリティもしっかりしてます。内見だけでもしてみますか?」断る理由もないので

「是非!お願いします!」と答えると焦っていたノアはさっさと先に外に出てしまい、慌てて不動産屋さんが準備をし後を追いかける形となった。

2人が出て行ったあと残されたスタッフ同士でノアが聞いたら不安になるようなことを話し出した。

「言わなくて大丈夫だったかな?」

「大丈夫だよ。あの部屋で亡くなったわけじゃないし…事故物件にはならないと思うんだよね。」

「そうだよね!出入りが多いのはたまたまだよね!あっ!それより聞いてよ!」

他人事のようにすぐに別の話しで盛り上るスタッフだった。


ノアと不動産屋さんはマンションに到着。外観を見ただけで契約しようと思えるほど素敵な物件だった。

部屋はマンションの6階。エレベーターに乗り込み(階段で上がる人いるのかな?挑戦してみようかな…)とくだらないことを考えている間に6階に到着。内見する部屋はエレベーターを降りてすぐの部屋だった。ドキドキしながら中に入る。

「うわぁ〜いい!うわぁ〜素敵!」とテンション上がりまくりのノア。その様子を眺めている1人の男性がいた。

目に力もなく青白い顔、すがるようにノアを見つめている。この男性の名前は斗真。ノアと不動産屋さんに気付かれる事はない…そう…斗真は幽霊だから。


物件が気に入ったノアは早速契約します!と断言し会社に戻ることに。玄関に向かい靴を履いていると後ろに気配を感じ振り向くが、誰の姿もなく、ノアは首をかしげ不動産屋と共に部屋を後にした。


契約を無事に終え、足早に駅に向かう。東京で一泊なんて金銭的に余裕のないノアはその日のうちに戻ることにした。電車に揺られながらボーっと窓の外の景色を眺めていた。前に進めている自分に対して優越感でいっぱいになる。そして東京で成功している姿を想像し、今までにない程の幸福感で満たされていた。

(そうだ!とりあえず仕事見つけなきゃ!)

現実に引き戻されスマホで新居周辺の求人を見つけ5件程応募することが出来た。


家に帰る前、先生に報告するため施設を訪ね、今日までのことを簡潔に話した。

「ノアちゃんおめでとう!夢が見つかって本当に良かった!それと誰にも頼らず全部1人で決めた事も本当に凄い!ノアちゃん成長したね。表情も明るくなったし、先生とっても嬉しい!遠くからずっと応援してるからね!でも無理はしちゃ駄目だよ。」

「ありがとう。先生の言ってた通り夢って見つかるもんなんだね。今は毎日が楽しいよ!」

「本当に良かった。それでいつ出発なの?」

「1週間後の始発の電車で行こうと思ってる。」

「始発か…お見送りに行けそうもないな…ごめんね。」

「大丈夫だよ。私だけの先生じゃないんだもん!忙しい時間って分かってるし。だからこうして会いに来たんだ。」

「そっか…いつも気を使わせちゃってごめんね。会いに来てくれてありがとう。いつでも帰って来てね。ノアちゃんの実家はここだから。」

「ありがとう。先生も体に気をつけてね。」

「ノアちゃんも。またね。」

涙ぐむ先生につられノアも涙目に。 

固い握手を交わし、そのまま真っ直ぐ振り向きもせず走り出す。過去の自分から遠ざかるように…。


ウトウトしていたノアは電車の大きな揺れで目を覚ます。

寝ちゃった…朝早かったからな…。東京…ものすごくワクワクする。自分に自信がなく常に周りに気を使い、自分の本音も言えず自分を押さえつけてきた…そんな自分とはさよならだ。東京で私を知ってる人はいない。だからこそ最初が肝心。絶対に変わるんだ。

そんな前向きな気持ちになっていたが、東京に着き改めて人の多さに圧倒され躊躇してしまう。

これぐらいの人どうってことない。大丈夫、大丈夫。

席を立ち堂々と歩いて行くと

「忘れ物してますよ。」と声を掛けられた。

振り向くと大きめのボストンバックが席を占領し、それを迷惑そうに見下ろしている人々。パニックに陥りペコペコしながらバックを掴み、逃げるように電車を降りた。


初の失敗をしてしまったが、気持ちを切り替え不動産屋で鍵を受け取り新居に向かう。周りのお店をチェックしながらゆっくり歩いていた為、時間はかかったが無事に到着。エレベーターを降りドアの前で一礼。

「これからお世話になります。よろしくお願いします!」

と呟き鍵を開け…感動の瞬間!と思いきや、エレベーターが6階で止まり人が降りて来た。振り向くと引越しセンターの方々。

「あっ!赤木さん!グッドタイミング!お荷物はこちらのお部屋に運んでよろしいでしょうか?」

ノアにとってはバットタイミングだ。

「あっ!お世話様です。はい!よろしくお願いします。」

ドアを開け感動の瞬間を味わう事なくバタバタと部屋に入ることになった。


日が暮れる頃、引越しも一通り終えホッとするとお腹が空いている事に気付いた。

「そういえば朝出る前に菓子パン食べただけだったな…何食べよう…引っ越しといえばお蕎麦かな。」

そう思い近くのコンビニに行ってみることにした。

小さい頃施設でバザーを開いたことがあった。その時に売れ残ったくまのぬいぐるみを譲ってもらい、それからずっとノアの相棒として一緒にいる。名前はくま太。くま太を座布団に座らせ

「行って来ます!」と声をかけ玄関を出た。

部屋に残されたくま太を、幽霊の斗真が見つめていた。

何の感情もない表情…感情というものがどういうものか忘れてしまっているかのように…。


コンビニでお蕎麦とデザートと明日の面接に持参する履歴書を買い家路に向かう。マンションの前で立ち止まり記念に外観の写真を撮ってみる。素敵!と改めて感動し写真を確認すると、ベランダに黒いモヤが写っていた。

(何のモヤだろう…気のせいかな)

明日また明るい時間に撮ることにし、撮った写真を削除したのだった。


「ただいま〜」くま太に声をかけ、買ってきたお蕎麦とデザートをくま太用のお皿に少し取り分けテーブルに並べる。

「くま太!引っ越しお疲れ様!今日からこの新たな場所で新たな人生を送ろうと思います!これからもずっとよろしくね!乾杯!」と炭酸をグビグビ飲み咳き込む。くま太を相手に1人芝居しているノアを見て、斗真の表情がほんの少し和らいだ。



第1話を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。


出会うはずのなかった2人。生者と死者という決して交わらない2人の関係がこれからどう変化していくのか見守っていただけたら嬉しいです!


第2話は随時投稿する予定です!

よろしくお願いします!

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