さくらのころに来たサンタクロース
春にやってきた、少し遅れたクリスマスのお話です。
「ねえママ。去年さ、サンタさん来なかったよね」
春の午後。
公園のベンチで、お母さんと男の子は並んで座っていた。
桜の花びらが、ひらひらと落ちてくる。
「……そうだったね」
お母さんは少し困ったように笑った。
「ぼく、いいこにしてたのに」
「うん、してたね」
「やっぱりさ」
男の子は空を見上げる。
「サンタさん、もういないのかな」
お母さんはすぐには答えなかった。
少しだけ考えてから、こう言った。
「もしかしたらね」
「もしかしたら?」
「去年は……寝坊しちゃったのかも」
男の子は目を丸くした。
「えっ。サンタさんが?」
「うん。だって、サンタさんもおじいさんでしょ?」
「……それは、そうだけど」
そのときだった。
◇
「いっつまで寝てるんだぁぁぁ!!」
ドスン!
「ぐぇっ!?」
サンタクロースは、背中に強烈な衝撃を受けて目を覚ました。
見上げると、そこには真っ赤な顔のトナカイがいた。
「ト、トナカイさん……?」
「『さん』じゃない! もう何日だと思ってる!」
「えーっと……クリスマスイブ?」
「違う!!」
トナカイは角をぶんぶん振る。
「もう春だ!!」
「はる?」
サンタは飛び起き、カレンダーを見た。
「……さ、三月?」
「三月だ!!」
「さ、桜は?」
「満開だ!!」
窓の外では、桜の花びらが舞っていた。
「やっちゃったぁぁぁ……」
サンタは頭を抱えた。
「また寝坊した……」
「“また”って言ったな?」
トナカイの目が光る。
「去年もだぞ」
「うっ……」
トナカイは怒っていた。
とても、とても怒っていた。
「子どもたち、待ってたんだぞ」
「……うん」
「泣いた子もいたんだぞ」
「……うん」
サンタはしょんぼりした。
「で、どうするんだ」
トナカイは腕(前足)を組む。
「この季節に、赤い服で雪も降らせず、どうやって行く」
サンタはしばらく考えてから、顔を上げた。
「……雪を、降らせよう」
「は?」
「桜の季節に、雪を降らせるんだ」
「意味わかんない」
「でもさ」
サンタはにっこり笑った。
「きっと、忘れられないよ」
◇
その日。
桜が舞う町に、雪が降った。
「……え?」
男の子は空を見上げた。
白いものが、ひらひらと落ちてくる。
キラキラ光る雪と花びら
「ママ、雪?」
「……雪、だね」
次の瞬間。
「ほっほっほ!」
屋根の上から、聞き覚えのある声がした。
「サンタさん!?」
赤い服のおじいさんが、トナカイと一緒に立っていた。
「遅くなってすまんのう!」
「おそすぎだよ!」
下から、トナカイの声が飛ぶ。
「怒られてる……」
男の子はくすっと笑った。
サンタはプレゼントを配り終えると、帽子を直した。
「来年は、ちゃんと起きるからな」
「ほんと?」
「トナカイさんが起こしてくれる」
「全力でな」
トナカイはうなずいた。
夜。
「どうして、そんなに怒ってたの?」
サンタは聞いた。
トナカイは少しだけ黙ってから言った。
「……悲しんでる子がいるのに」
「?」
「ぐっすり寝てるサンタは、好きじゃない」
サンタは、深くうなずいた。
「……すまん」
それから。
サンタは、寝坊をしなくなった。
毎年、ちゃんと。
雪の降る夜に。
でも、春になると、
桜を見るたび、思い出す。
あの年の、さくらと雪のクリスマスを。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
本作は「冬童話2026」参加作品です。
私が小学生の頃桜の花びらと雪が一緒に降ったことがあって
その事を思い出しながら書きました
もしもクリスマスに間に合わなかったとしても、
だれかを思う気持ちは、季節を越えて届くのかもしれません。
春の桜と、少しの雪を思い浮かべながら、
ほっこりしていただけたらうれしいです。




