【超超短編小説】深夜二丁目
暗い、と言うよりは黒い部屋の中にいた。
その部屋に……いや、部屋かどうかも分からない。壁も見えなければ天井も見えない。
その黒い癇癪の中に、女が見えた。
磔にされた、若い女だ。
どこからか射し込むその人工的な光は女を照らす。照らされた女の白い肌は、濡れた絹織物を被せた陶器のように光をこぼした。
一切の衣服を纏わぬその女のせいで、その周りを窺う漆黒は人間の悪徳や後ろめたさ、嫉妬や憎悪を煮詰めたようである。
磔にされた女の豊かな双丘を、磨き上げられたダイヤの様な光を放つ汗が流れ落ちて行く。
女は浅い呼吸を繰り返す。
呼吸は浅く、目は虚ろであった。
生きた大理石の彫刻みたいであり、無惨絵の中で切り刻まれる数瞬前のモチーフみたいでもあった。
俺は、座してその女を見上げていた。
俺が何者かは分からないが、その磔女の足元に座り、泣きながら自分の陰茎を激しくしごいていた。
それが春情なのか愛情なのか、または罪なのか道徳なのかもわかっていない。
ただ、そうする事だけを識っているのだ。
俺は女の汗を浴びながら手淫に耽り、やがて果てようかという時だった。
磔にされた女は俺に顔を向けてゆっくりと目を開いた。
そして地獄に咲き誇る薔薇の様に赤い唇を開くと、声を出して高笑いを始めた。
まるで乾燥したその声は俺の為の声じゃない、そう思った。しかし女が自身を笑う声でも無い。
悪徳と憎悪と春情を煮詰めた黒から搾り出されるような、まるで希望も救いもない笑いであった。
猛禽のような速さで遠ざかる磔女の笑い声を聞きながら射精をした俺の精液は激しく飛び散り、女を頭から足の先まで無惨に飾りつけた。
女の汗と反応した精液はやがて女を溶かし、頭蓋や乳房を削り、赤い骨だとか鮮やかな水蜜桃色の液体を噴出させた。
磔女は笑うのを止めると、やがて全身をどろどろと溶かしながら磔台から滑り降りた。
俺は肩で息をしながら、そうやって溶け出した磔女に飲み込まれていくのを感じていた。
悪徳と後ろめたさ、嫉妬や憎悪だとか春情の中を、遠ざかる女の笑い声がまだ微かに聞こえる。
その笑い声も、俺を飲み込むこの肉も、決して俺の為のものでは無いのだ。
俺は目を閉じて、もう二度と産まれてくることのないように願った。
これが天国であるならば、それこそが救いでありますようにと、祈る。




