【ハンスとアイツ①】
メエキと別れて技術部のある建屋に入った時に、ジープの音がしたので振り向くとガラスの扉の向こうに見えたジープはハンスが運転をしていた。
閉めた扉を開けて、ハンスに声を掛けるため外に出ようと思い扉に手を掛けた。
だけど僕は外には出なくて、ハンスに声も掛けなかった。
何故ならジープを運転するハンスの助手席にアイツが乗っていたから。
しかもハンスとアイツは、仲良さそうに話をしている様子だった。
「自分の車には女を乗せないと言っておきながら、ジープなら乗せるんだ……」
思わず口から嫌な言葉が出た。
最後の実技試験が行われた模擬市街戦場は基地の奥、ここからはかなり離れたところにあるのだから行軍の訓練でもない限り普通はジープなどの車両を使用する。
ジープで移動したのならアイツもジープに乗せて模擬市街戦場に連れて行き、帰りも乗せて帰るのが当たり前だ。
なのに僕の口から、なんでこの様な嫌な言葉が出てしまったのだろう?
お婆ちゃん子の僕の良い所は、誰にでも優しく人が嫌がるような言動はしないところだったはず。
これは、きっと、嫉妬……。
当直の時間までは、まだまだ時間があったのでシャワーを浴びて軽く仮眠を取る。
だが、眠れない。
全てアイツのせい。
あのナトーと言う女の。
目を瞑るたびに、アイツの顔が浮かんで来る。
あの大きくて綺麗で、そして氷のように澄みきった決して感情を表に表さない、まるで死神のような瞳。
ハンスには負けはしたがモンタナとブラームを負かし、銃の整備にも長け射撃テストもクリアした。
全ての指示はアイツを失格させるためのものだったのだから、ハードルは高かったはず。
なのにアイツは……模擬市街戦場でのテストをまだ僕は知らなかった事に気が付いた。
ベッドから飛び起きて、この結果がどうだったか興味が湧いた。
メエキが漏らしてくれた情報によると、アイツは実技試験で合格したと言っていたが、あの難解な模擬市街戦場でのゲームなら余裕で落とせる口実は掴みとれるはず。
初心者レベルでのゲームなら、隊員の平均スコアは70%近くあるが、最難関レベルだとクリアした者は過去2人しか居ない。
1人は開発者側のサラと言う女だが、コイツは開発に携わっているので全てのパターンを知っていたから出来た可能性が高い。
そしてもう1人はハンス。
そのハンスだって最難関は何度も挑戦した末に、ようやくクリアした。
もしハンスが最難関レベルを設定して、実技試験の合格ラインをクリアと定めたなら、アイツは決して合格しなかったはず。
と言うことは、ハンスはアイツのためにワザと手を抜いて初心者レベルで試したのか?
しかしそれが上にバレたなら、ハンスに責任が降りかかる。
僕は不安になって、模擬市街戦場のサイトに進入した。
ゲームの核になる進行に関してはあの施設内のどこかに隠されてあるコンピューターでしか操作できない仕組みになっているが、ゲーム結果については別のコンピューターに接続された基地内配線により閲覧することは出来る。
まあそれでも誰もが閲覧できるわけではないけれど。
「あった!……ハハ、ハハハハハ」
僕は笑った。
しかも大きな声で少しヒステリックに。
笑うしかなかった。
何故ならそこに現れた文字を見てしまったから。
そこにはこう書かれていた「最難関コース:100%」と。
やはりアイツは死神だ。
もう僕には抗うことさえもできやしない。




